第16話 模擬戦(5)


≪蒼汰SIDE≫


 咲夜達が向こうのメンバーを倒している間、こっちはなんとか時間を稼がないといけない。

 だけど出来るだろうか?


「ボクはカードを2枚生贄に捧げ、[ダメージ貫通]を発動させる」


 この一騎当千と言ってもおかしくない人を相手に、僕らはどれくらい耐えられるだろうか?


「スキルの種類が豊富すぎます! 一体いくつあるんですか?!」

「戦ってる相手に素直に教える訳ないさ」


 振り下ろされる剣を乃亜はなんとかその大楯で防ぐも、その表情は険しく、先ほどまでと違って一撃の服の損傷も大きくなっていた。


「名前の通り、防御無視の攻撃ですか……」

「そうだよ。ゴーレムなんかの硬い相手には一撃で倒せるくらい強力なスキルなんだけど、君はダメージを服に移すことが出来るスキルでもあるのかな?」

「くっ、ノーコメントで!」


 苦し気な表情をしながらも、2撃、3撃と続く攻撃を防いでいく。

 しかし何度目かの攻撃のタイミングで、突然大楯で防いでもそのダメージで服が破れることがなくなった。

 どうやらスキルの効果が切れたみたいだ。


「はっ!」

「うおっ!?」


 服が破れる衝撃のせいか反撃が出来なかった乃亜だけど、その衝撃が来なかった瞬間、即座に大楯を振り回して智弘さんに攻撃を仕掛けていた。

 智弘さんの体からは相変わらず人体を殴られたとは思えない音を響かせていて、攻撃が効いてるようには見えないけど、乃亜はあの人と距離を離すことは出来た。


 僕はその隙にすぐさま乃亜の服を直し、仕舞っていたスリングショットを取り出す。

 正直あれだけ硬い相手に効くとは思えないし、下手に援護射撃をして乃亜の邪魔になる可能性もあるけど、このまま黙って見てても咲夜達が戻ってくるまで時間を稼げないだろう。


「少し手札もデッキも消耗しすぎたな」


 そう言いながら智弘さんは、自身の斜め上に浮かぶ半透明のカードを見ていた。


 智弘さんの言う通り今浮かんでいるのは2枚しかないし、よくよく見るとカードの上には数字も表記されており、そこには“23”とあった。


「その数がそこに浮かぶカードの総枚数で、一度に補充できるのは5枚まで。そしてそのカードが無くなったらスキルが使えなくなるのかな?」

「……さて、それはどうだろうね? 派生スキル[ドロー]!」


 枚数が2枚だったのに、謎の派生スキルの効果で手札が3枚になっている。


「派生スキルまでカードゲームみたいなユニークスキルだな!?」

「使い勝手は悪いが、中々面白いスキルだよ。

 さらにボクは派生スキル[スキルサーチ]を発動! ボクが選ぶスキルは[フィジカルバーサーカー]だ」


 ネーミングからしてかなり危険なスキルだと分かる。


「乃亜!」

「はい!」


 乃亜がすぐに僕の意図を察知して、なんとかスキルを使用する前に倒す為に少し離れた所にいる智弘さんに向かって、大楯を思いっきり投擲する。


「ぐあっ!?」


 智弘さんの頭に大楯が当たり、クワンッと音を立てて大楯がどこかへと飛んでいく。

 僕はすぐに大楯の再召喚を行うけど、智弘さんに当たった時の音が妙に軽かったのが気になった。

 智弘さんも痛そうに顔を歪めてるし、スキルの効果が切れたのかな?


「くっ、付与の効果が切れてるな。省吾か雄介がやられたのか? こちらも急がないとマズそうだな」


 水蒸気がまだ立ち込めてるせいで向こうの様子は分からないけど、どうなったんだろうか?

 下手に声をかけて戦闘の邪魔をする訳にもいかないけど、確認を取らない訳にもいかないか。


 僕は少し悩んで〔絆の指輪〕で連絡を取ろうとして、出来なかった。


 あれ? さっきまで使えていたはずなのに?

 何故か〔絆の指輪〕が急に使えなくなったけど、そちらにばかり気を取られている余裕はない。

 なんせ目の前で相手が更なる強化をしようとしているところなんだから。


「ボクは残りの手札――」

「乃亜を強化しないと負けるね」

「お願いします」


 決断が早い。

 お兄さん見てる前だけどいいんだろうか? と思うも、すでにやるしかないと僕も腹をくくっているので、後ろから乃亜を抱きしめてその頬にキスをする。


「3枚全てを生贄に捧げ[フィジカル――はあああああぁ?!!!」


 何か凄い絶叫が智弘さんの口から出ているけど、何もそこまで驚かなくても。


「君達は戦闘中に何をやっているんだ!?」

「そうです先輩! やるならちゃんと口にしてください!」

「そうじゃないだろ!?」

「でも後ろから抱きしめられたのにはドキッとしたので、もう一度その体勢でお願いします」

「そういう問題でもないだろ?!」


 乃亜がもう一度って言うくらいだから、ほっぺにチューでは強化が足りないんだろう。

 ここは覚悟を決めるか。


「乃亜……」

「え、続けるのか?!」


 智弘さんの事は気にしないようにして、僕は乃亜を先ほどと同じ体勢で抱きしめてキスをしにいく。


「んっ……」

「ぐふっ、何でこんな光景を見せつけられないといけないんだ……!」


 血反吐を吐きそうなうめき声が聞こえてくるけど、正直そんな事を気にしている余裕はない。

 いくら強化の為とはいえ、女の子相手にキスをするのは何度やっても緊張するな……。


「ふぅ、強化完了です!」

「惑わされるなボク! ボクは残りの手札3枚全てを生贄に捧げ[フィジカルバーサーカー]を発動させる!!」


 智弘さんのその言葉と共に、浮かんでいた4枚のカード全てが砕け散り智樹さんへと吸い込まれていく。

 全ての粒子が智樹さんへと吸い込まれた途端、急激に智樹さんの肉体が膨張を始め、体が一回り大きくなり紅いオーラが纏わりついていた。


「一気に終わらせてやる、このリア充がーーーー!!!」


 異常なまでの負の感情を吐き出しながら、猛スピードで智弘さんが向かって来た。

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