第15話 模擬戦(4)

 

≪咲夜SIDE≫


 正直この模擬戦に大した意味はない。

 乃亜ちゃんが言ってた通り、対人戦の訓練になるというだけのものでしかないし、勝ち負けにこだわる必要もない。

 だけどまた人相手に戦う事がないとは言い切れないんだから、ここは真剣に頑張らないと!


「それにしてもユニークスキルって本当に凄いな」


 水蒸気が立ち込める中走っていくと、目の前にそびえ立つのは建物3階分はある巨大な城壁。

 これがスキルで一瞬で造られたのだから驚愕してしまう。


 ただ、驚きはしたけれど[鬼神]を全開で使えばこれは大した障害ではない。

 咲夜1人だけなら。


「冬乃ちゃん!」


 後ろから来る冬乃ちゃんを待ち構え、咲夜は腰を落として両手を前に組む。

 咲夜1人だけなら何とでもなるから、先に冬乃ちゃんを向こう側に送らないと。


「行くわよ、咲夜さん!」

「んっ!」


 冬乃ちゃんが走ってきた勢いのまま、咲夜の両手に飛び乗った瞬間、咲夜は勢いよく冬乃ちゃんを上に高く投げ飛ばす。

 良かった、上手くいった。


 冬乃ちゃんが城壁の向こう側へといったのを確認すると、一瞬だけ[鬼神]を全開で使い城壁を駆け上がる。

 チャイナ服のお陰か、いつもより高く跳べてる気がする。


 そんな事を思いながら城壁の上までたどり着くと、唖然とした表情している2人がいた。


「あんな方法で城壁飛び越えてくるとかありえないでござるよ!」

「漫画みたいな飛び越え方したんでやんすって、言ってる場合じゃねえでやした!」


 エルフの人は慌てて冬乃ちゃんを追いかけて城壁の向こう側へと降りて行ったから、咲夜は目の前の眼鏡の人を倒すことにする。


「ふっ!」

「ぬおっ!? あ、危ないところでござった……」


 蹴りにいったけど、意外と反応が良くて避けられちゃったな。


「どうやって1人でここまで登ってこれたのでござるか?!」

「普通に壁を走って登った」

「世間一般の普通では垂直の壁を走って登れないでござるよ!」


 最初に勢いよくジャンプすれば出来るのに……。


「いくら冒険者として活動していてレベルが上がっているからとは言え、人間の常識を捨てるのは止めて欲しいでござるな」

「咲夜はただ出来ることをやってるだけ」

「出来ることの範囲が広すぎでござるな。拙者が後どのくらいレベルを上げればその境地に立てるのか、参考までにレベルを教えて欲しいでござるよ」

「いつまでお話してるの? あ、時間稼ぎか」

「おっと、バレてしまったでござる。出来ればもうしばらく付き合って欲しかったでござるな」


 人とお話しするのは嫌いじゃないけど、今は早く目の前の人を倒して蒼汰君達の援護をしないと。

 咲夜がそう思いながら構えると、眼鏡の人は覚悟を決めたような顔をした。


「接近戦は得意じゃないでござるが、こうなったらヤケクソで時間を稼いでやるでござるよ!」


 そう言いながらも、手にはチャッカリ手裏剣を握ってる。

 うん、投げられる前に倒そう。


「はっ!」

「ぐほっ!? は、速すぎでござるよ……」


 そう言い残して眼鏡の人が倒れ伏すと、まるで魔物を倒した時のように体が光って消えていった。

 あ、舞台の外で光が収束して現れた。

 どうも気絶して戦闘不能になると自動的に舞台の外に追い出されるみたい。


 よし、次。


 そう思って移動しようとした時、足元が急に揺れ始めた。

 一体何が?


 ドンドン城壁の高さが小さくなっていき、先ほどまでそびえ立っていた城壁は消えてしまった。


「もう冬乃ちゃんが倒したのかな?」

「違うでやんすよ。城壁を2人に超えられたから、省吾の旦那がもう城壁は不要と判断したんでさぁ」

「……誰?」

「これはあっしの[森人化 (エルフ)]の派生スキル[ダーク化]でさぁ。肌が日焼けしたみたいに浅黒くなって、近接戦闘に適した肉体になるんでやんす」


 ダークエルフって言うやつだ。ただそれよりも――


「冬乃ちゃんはどこ?」

「あそこでやんすよ」


 エルフの人が指さす先は舞台の外で、そこで冬乃ちゃんが座り込んでいた。


「冬乃ちゃんがやられた……?」

「あっしを舐めてもらっちゃ困るでやんすよ。と、言っても省吾の旦那の手も借りて、不意打ちで舞台の外に出しただけでやんすけどね」


 喋り方はおかしな人だけど、冬乃ちゃんを不意打ちとは言え舞台から追い出せるくらいには強い人みたい。

 いや、それも当然かな。


 なんてったって、蒼汰君のスキルで強化している咲夜達と先ほどまで戦っていた時点で、相手のレベルが咲夜達よりも数段上なのは分かっていた事。


 そうでなければ〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕の射撃を、打ち消すことなんてできずに倒れてるはずだろうし。

 1回蒼汰君達と合流するべきだろうか?


 咲夜がチラリと蒼汰君のいる方を見た瞬間、エルフの人が急に手をこちらに向けて来た。

 しまった、何か来る。


「〝木根束縛〟」


 咲夜と蒼汰君達の間を遮るように木の根が無数に生えてきて、それがうごめきながら咲夜の方へと向かってくる。


「んっ、邪魔!」


 木の根を蹴り飛ばしたり避けたりするも数が多すぎて対処しきれず、蒼汰君達から遠ざかってしまうけれどその場から離れるしかなかった。


「あっしの[木魔法]は他の魔法と違って空中に出現させられず、一度その場に生えたらその位置で固定されてしまうでやんすが、その分他の魔法よりも効果時間は長いでさぁ!

 [ダーク化]で魔法の威力は少しばかり落ちてるでやんすが、その有り得ない身体能力を相手に時間を稼ぐには、あっしも身体能力を向上させたままでいる必要がありそうでやすね。

 あっちに合流はさせないでやんす。あんたの相手はあっしらがするでやんすよ!」


 マズイ。少なくともエルフの人を倒さない限り蒼汰君達と合流は出来そうにないみたい。

 急がないと。

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