第23話 謎の石


「何だろこれ? ミミックのドロップアイテムでいいのかな?」


 僕は魔石と一緒に転がる謎の石の正体が分からず、ドロップアイテムだという確信が持てなかった。

 なんせ、その辺の川の中にある石って言われても頷いてしまうくらい、ただの石にしか見えない見た目だったからだ。


「たぶん……そうでしょうね。魔石の隣に並んで落ちてますし、そもそもこのダンジョンは石造りですけど小石なんて落ちてる場所じゃないですし」


 ダンジョンの壁は壊せず、どんな攻撃にも傷1つつかないので、壁が削れて小石が落ちてるなんてことはないはず。

 そうなるとこのただの石に見えるのはドロップアイテムになるんだけど、珍しいドロップアイテムもあったものだ。


 小石のサイズは小指の爪ほどの大きさで、投石にも向かないような石。


「まあ一応持って帰ろうか。もしかしたら宝石とか貴重な石なのかもしれないし」


 売れるのか分からないけど、お金になればそれでいいや。

 僕は石を拾って〔マジックポーチ〕に仕舞う。


「それじゃあもう少し頑張ろうか」


 僕らは時間の許す限り〔ミミックのダンジョン〕で探索を行ったけれど、頃合いを見計らって地上に戻って来たつもりだったのに、寮に帰れたのは戻るよう言われていた8時ギリギリになってしまった。


「慣れない場所だからもう少し早く戻ってきた方が良かったですね」

「このダンジョン、敵を倒しやすいし魔石の質もいいせいで、レベル上げもお金も稼ぎやすいから、ついついあと少しだけ、って思ったのがいけなかったね」

「ゲームでもレベル上げの効率がいい場所を見つけると、時間を忘れて励んじゃう、よね?」

「まさにそれだよ咲夜」


 そのせいで危うく門限を超えかけたけど、ギリギリ間に合ったからよしとしよう。


「レベルとかどうなったかは明日お互いに教え合う、って事でいいかな?」

「そうね。時間がなかったせいで受付で売却している余裕もなかったくらいだし、そういうのは全部明日でいいわ」

「それじゃあ各自で自分のステータスを確認して報告、って事でよろしく」


 そうして僕らは男子寮、女子寮に分かれて移動したけど、男子寮に入ったところで、ある人物達と遭遇した。


「矢沢さんに和泉さん。どうして寮の玄関にいるんですか?」

「鹿島君、門限ギリギリだったよ」

「あ、すいません」


 生徒会長と副会長が揃って男子寮の玄関にいたんだけど、女子の制服を着ているこの2人が男子寮にいるのは違和感があるな。

 和泉さんはいいとして、矢沢さんは見た目完全に女子だからなおさらだ。


「毎年この時期に留学生を呼ぶのだけど、ダンジョンに入れる初日に門限を超える子達が多いのよん。だからこうしてあたし達がここで留学生が帰ってきたか確認して、時間になったら学校に報告するの」

「ちなみに門限を超えた場合は次の日ダンジョンに潜るの禁止されていたから、ギリギリ間に合って良かったね」


 危なかった~。

 仮に30分ばかり門限から遅刻したとして、次の日に3時間潜れなくなる方が痛手だったから本当に助かった。

 なんとか理性が働いて戻ってこれて良かったよ。


「ちなみにまだ戻っていない人っているんですか?」

「君以外全員だね」

「えっ?」


 今なんて言った?


「毎年の風物詩なんだよね、留学生が門限を破っちゃうの。門限を守って戻ってこれる人って少数で、下手すれば留学生全員が門限破りする年もあったみたいだよ」

「他のダンジョンと違って、レベル上げとかが捗りやすいから気持ちは分かるんだけどねぇん」


 和泉さんは手を頬に当てて腰をくねらせながら、困ったわんとでも言いたげなポーズを取っているが、それをたまたま通りかかった男子が顔を青ざめさせて早足で立ち去っていく。

 そんな気持ち悪がらなくても……。いや、目の前で見てる僕も結構キツイと思うけどさ。


「あと少し経ったら学校に連絡する事になる。そうしたら他の留学生の子達を先生達が連れ戻す事になるから、鹿島君は気にせず夕飯を食べてお風呂に入るといいよ」

「あ、はい、分かりました」


 僕は矢沢さんに言われた通り、寮に上がるとすぐさまご飯とお風呂を済ませ部屋で1人くつろいだ。


「中々充実した1日だったけど、今日よりも土日なら丸一日ダンジョンでレベル上げ出来るし、遠征でより深い層に行くならさらに効率よくレベルが上げられるはず。

 2週間ほどしかないけど、1日たりとも時間を無駄に出来ないね」


 そう思うと門限を破ってしまった大樹達が哀れだ。

 明日ダンジョンに行けなくなる事が確定してしまったんだからね。


 自業自得なのでそんな事は頭の隅に追いやり、僕はひとまず自身のステータスを確認する事にした。


 ───────────────

 鹿島 蒼汰

 レベル:71

 HP(体力) :168/168

 SV(技能値):162


 スキルスロット(1)

 ・[ソシャゲ・無課金]

 →派生スキルⅠ:[ガチャ]

 →派生スキルⅡ:[チーム編成]

 →派生スキルⅢ:[放置農業]

 →派生スキルⅣ:[カジノ]

 ───────────────


 レベルはそれなりに上がったし、そろそろ新しい派生スキルが増えてもいいと思うんだけど、中々増えないな。

 まあこればかりはスキル次第だから、どうしようもないかもしれないけど。


「あっと、[放置農業]忘れてたな」


 僕はスキルのスマホを呼び出して[放置農業]を使用する。

 この[放置農業]、[放置菜園]の時と違って画面に映ってる畑に一度に植えられる〔成長の種〕が5個になっただけなんだよね。

 菜園から農業に変わったのなら、もっと規模が大きくなってもいいんじゃないだろうか?


 僕はポチポチ操作しながら、〔マジックポーチ〕に直に入れていた魔石やミミックのドロップアイテムを明日受付で提出しやすいように、小袋にでもまとめておこうと取り出した時だった。


「はっ?」


 取り出したミミックのドロップアイテムである、ただの石にしか見えなかった謎の黒い石が、僕のスキルのスマホに吸い寄せられる様に引き込まれていった。

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