第22話 ミミックのダンジョン
僕らは2日目の授業を受けた後の放課後、他の生徒と共に本来の目的地へと来ていた。
「ここが校長の言っていた占有ダンジョンなのか」
見た目は他のダンジョン前に建てられている冒険者組合の建物と変らないけれど、普通ならIDカードを使って入る駅の自動改札機のような扉が、ダンジョン入口前ではなく建物の前に設置されている。
「許可がない人は建物にすら入れない仕様なのか」
「さすが占有ダンジョンと言われるだけあって、部外者が入れない様徹底してますね」
普通なら僕らも入れないのだけど、留学する際に渡された学生証を使えば入る事が出来る。
問題なく中に入る事が出来た僕らは、早速準備を整えるとCランク、〔ミミックのダンジョン〕へと入っていく。
「ミミックって宝箱に擬態している魔物なのよね? だったらこのダンジョンは偽物の宝箱だらけってことなの?」
「いや、冬乃の言う通り低階層は宝箱に擬態したミミックしか出てこないんだけど、下の階層に行くにつれ、他の物に擬態してたりするらしいよ」
「どんな物に擬態してるの?」
咲夜が首を傾げて聞いてきたので、教室にいた他の生徒から聞いてきた情報を思い出す。
「物なら何でもらしいね。調べたところぬいぐるみだったり鎧だったりが牙だらけの口を開いて襲ってくるみたい」
「ビジュアル的になんか嫌ですね」
乃亜が嫌な顔をしているが、仮にクマのぬいぐるみの口の部分が開くのならまだいいけど、お腹や背中の部分が口だったら確かに嫌だな。
「浅い階層なら宝箱型のミミックしかいないから、ひとまずそれと戦闘してミミックとの戦いに慣れていこう」
「分かりました」
「うん」
「そうね。でも相手が宝箱型なら――」
「ピギャッ!?」
通路の真ん中にこれ見よがしに置かれた宝箱に冬乃が放った[狐火]が当たり、奇声を上げて吹き飛んでいく。
「動かない的なら楽勝よね」
「楽過ぎてダンジョン探索がこれでいいのかと思ってしまいます」
「別にいいじゃない。Dランクよりも危険度が低いって聞いてたけど、確かにDランクの〔ラミアのダンジョン〕と違って遠距離から攻撃してるだけで倒せるわね」
「ラミアなら避けたり反撃してきたりしたから、ね」
ダンジョンに入った僕らは冬乃以外ほぼ何もしていないと言っていい。
ダンジョン内を歩く。
宝箱を見つける。
冬乃が[狐火]を放つ。
これを繰り返しているだけなので、DランクどころかEランクよりも危険度が低いんじゃないかと思ってしまうほどだ。
まあEランクダンジョンは行った事がないので危険度とか知らないのだけど。
それに相手が宝箱型のせいか火がよく効くのもあって、今のところ[狐火]1発で倒せているので、危険度がいまいち認識できないのもある。
「これじゃあ、ただダンジョン内を散策しているだけだよね」
「1階層程度ならこんなものなのかしらね」
慣れるためにまずは1階層からと思ったのだけど、1階層にはあまりミミックはおらず他の生徒もそれが分かっているのかこの階層にはいない。
危険度は低そうで僕らなら余裕そうなので、もっと下の階層に行ってみるのもいいんじゃないだろうか?
そう乃亜達に伝えたところ、全員の同意が得られたので下の階層へと移動する事にした。
しかし、2階層、3階層と降りて行っても宝箱型のミミックばかりで1階層とさして変わらなかった。
強いて言うならミミックに遭遇する回数が増えたくらいだろうか?
「全然他の人達を見ないわね。みんなどれだけ下の階層を探索しているのかしら?」
「放課後の短い時間で戻ってくるのを考えると20階層くらいでしょうか? ただ、下の階層に行くほど広くなりますが、下の階層に行く階段はその階層に入った場所から意外と近いところにある事が多いので何とも言えませんが」
ダンジョンのよく分からないところは、浅い階層はほぼ無視して探索できてしまうところだ。
階層が深くなるにつれて次の階層への階段が遠かったりするけれど、20階層程度ならすぐに降りに行けてしまう。
そうでなかったら放課後の短い時間でそんな所までいけない訳だけど。
おそらくダンジョンがレベルの低い冒険者が力量を見誤って、深い階層に降りてきたところを殺そうとしているんじゃないかと噂されてはいるけれど、真相は定かではない。
「まだまだこの程度の階層なら問題なさそうだね。また1つ下の階層へと行ってみようか」
多分大丈夫だろうと思って一気に階層を降りるのは危険なので、僕らは1つ階層を降りてある程度探索し、また1つ降りるを繰り返していた。
「怪我の心配はスキルのお陰であまりないですが、油断は禁物ですからね」
「慎重に慎重を重ねるくらいが丁度いい、よね?」
乃亜と咲夜の発言は全員が思っている事だ。死んだら元も子もないからね。
誰か1人でも危険でもいいから行こうぜ、って言う人がパーティーにいるところは大変そうだけど、僕らはそういう人がいないからホント良かった。
「あ、また宝箱」
通路のど真ん中に不自然に置いてある宝箱。
もっと擬態する努力をして欲しいよ。露骨に怪しすぎる。
「はい、[狐火]」
「ピャッ!?」
抵抗する素振りを見せる暇もなく消えていくミミック。
今まで通りそこには魔石が――
「何これ?」
魔石の隣によく分からない黒い石の欠片が転がっていた。
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