第35話 〈四〉繋がり


 〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕の疑似〔典外回状〕により、木の枝や根による拘束と体力吸収されているはずなのに、クライヴと思わしき巨大な白い虎はものともせずそれを引きちぎり振り払っていた。


 もっとも、白い虎だけだったら次から次に地面から伸びてくる枝や根にからめとられ、体力が奪われなす術もなく倒せただろう。

 だけど傍に別の存在がいたことにより、僕の目論見は外れることになった。


 近くにいたシンディと思わしき巨大な蒼い龍までもが白い虎に纏わりつく木の枝や根を嚙みちぎっており、まるで白い虎を助けるために動いている――というより地面から伸びてくる木を嫌なモノだと感じているかのように木に対してしているようだった。


「……嘘でしょ?」

『なっ、なんなのですあの姿? パパとママからあんな姿になれるだなんて話、聞いた事もないのですよ……!』


 僕があまりの光景に呆然としていると、アヤメがクライヴとシンディの変貌に驚愕していた。


「クロとシロだし、獣人は冬乃の[獣化]みたいに獣の姿になれたりするんじゃないの?」

『そう言われると出来るかもしれないのですけど、さすがにあの大きさは無理だと思うのです』


 確かに今のクライヴとシンディは3階ある建物くらいのサイズで、冬乃の[獣化]と比べるとあまりにも違う。


『と、とりあえず考えることは後でも出来るから今は逃げるのです! あんなのが動き出したら一瞬で距離を詰められてしまうのですよ』

「あ、そうだね。急ごう!」


 衝撃的な光景すぎて思わず足を止めてしまったけど、立ち止まっている場合じゃなかった。

 今は〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕のお陰で足止め出来ているけど、効果が切れたらすぐにこっちに襲い掛かってきてもおかしくないんだから。


 とりあえず走りながらクライヴとシンディがなんの影響であんな姿になったかを考えてみよう。


 クライヴとシンディは[鑑定]のスキル持ちの人が【四天王】の【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】だという話のはず。

 だからクライヴとシンディのあの姿は【四天王】によるもののはずなんだけど、そもそも【四天王】ってなんだろ?


【魔王】といえば【四天王】だと深く考えていなかったけど、【四天王】って物語によってどんな能力を持っているか変わってくるから、特にこれと言った能力は決まっていないはず。

 一番多いパターンだと〈火〉〈水〉〈土〉〈風〉の四属性がそれぞれ割り振られているイメージかな?


 ただそんな定番パターンよりも〈四〉って数字と今も木の根と格闘している2人、いや2匹を見るとある存在が頭をよぎるんだ。


 ……いやいや、そんなはずないよね。

 白虎に青龍、そして【四天王】。


「〈四〉繋がりで【四神】とか、さすがにないよね?」


 クライヴとシンディは元々虎人と龍人であり、それが[獣化]のような力で白い虎と蒼い龍の姿になっただけ……。

 うん、めっちゃ白虎に青龍だ。


 この推測が当たっているかどうかはともかく、仮にそうだとしてアレらをどうやって倒せばいいのか見当もつかない。

 というかそれ以前に逃げるので精一杯なんですけどね!


『『ガアアアアアァァ!!』』

「まずっ!?」


 ついに〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕の疑似〔典外回状〕の効果が切れたようで、木の枝や根が地面から生えてくることがなくなってしまった。


 咆哮を上げた2匹は明らかに僕の方へとその視線を向けている。

 完全にロックオンされているようだ。


『や、ヤバいのです!?』


 叫んでいるアヤメにはすでに[チーム編成]で初級学生服(メガネ付)を装備させているから、ある程度の先読みができる上に、[チーム編成]を起動している状態に限り使用できる[画面の向こう側]を再び使うことが出来る。


 そうすれば僕は攻撃されないし、アヤメは小さいので攻撃が回避できる率が高く、運よく逃げ切れる可能性はある。

 ……こんな自分よりも小さい人形みたいな女の子を身代わりにするような手段を取らざるを得ないとか鬼畜の所業だけど、正直他に手がない。


 残念ながら1日1度だけしか使えない[助っ人召喚]はサイラスとの戦いで使ってしまって使えない。

 [動画視聴]でCMを見れば[助っ人召喚]がもう一度使えるけど30秒かかる。

 僕が持つ【典正装備】は攻撃も防御にも使えないのばかり。

 アヤメの【典正装備】も〔曖昧な羽織ホロー コート〕は半日のインターバルがあり、残るのは〔迫る刻限、逸る血潮アクセラレーション〕のみで一瞬加速できるけど、1分のインターバルがあるからずっと高速で移動し続けられるわけではない。


 そうなってくると残った手段がアヤメに【典正装備】の力をほぼ使わないで頑張って逃げてもらう一択なんだ。


「そういうわけで、いざという時は〔迫る刻限、逸る血潮アクセラレーション〕で緊急回避して逃げてもらう事になるけどいい?」


 僕の血も涙もないような作戦にアヤメは顔を引きつらせているけど、覚悟を決めたのか開き直ったのか、その小さな手で自身の顔をパンッと叩いて気合を入れた。


『やってやるのですよ! ただし逃げ切ったら来月分の課金はもらうのです!』

「えっ……」

『命のかかってる場面で躊躇するんじゃねえのですよ!?』


 で、でも来月分の課金全部持ってかれたらガチャ出来ない……。


 そんな事を考えてしまったのがいけなかった。


『『ガアアアアッ!』』

『ご主人さま!?』

「あっ」


 走ってそれなりに距離を離したと錯覚していた。

 [画面の向こう側]で逃げる余裕くらいはあるのだと。


 しかし瞬く間に近づいた二匹の鋭い爪がそんな僕の思惑を一瞬で粉砕し、[画面の向こう側]の発動すら出来ず、目の前に迫った爪を見て僕は――


「あ、死んだ」


 そう思った。


「私の赤ちゃん!!」

「ぐほっ!?」


 突如として思ってもみなかった方向から来た衝撃により、僕は横にずらされた上に強制的に体がくの字に曲がったお陰で、ギリギリ頭上と体の横を二匹の爪が通過するだけで済んだ。


 た、助かったけど一体何が……?


「逃げるわよ、私の赤ちゃん!」


 僕の返事も待たずに駆けだした謎の人物。

 ……うん、謎でもなんでもなく僕をそんな風に呼ぶ人は1人しかいない。


「なんでここに片瀬さんが?」


 かつて僕を赤ちゃんにした女性、片瀬美琴さんが僕を肩に担いで走っていた。


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・あとがき

復活!

しかし咳は止まらない。

あ、コロナじゃなかったんで、おそらく同僚の風邪がうつっただけみたいです。

……それにしてもこの風邪キッツ。仮に同僚の風邪だとしてなんでこんな状態で仕事してたの?

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