第34話 は、早く逃げろ……!

 

 

 クライヴは魂が無くなり抜け殻になっている老人たちを縛っている鎖を、腕を1回振るうだけで全て断ち切っていた。

 若干老人の身体が切れているのはわざとではないよね?


 鎖が切られたことで地面に倒れ込んだ老人たちを冷たい目で見下ろしているシンディは、指をパチンッと鳴らすだけで老人の身体と宝玉をどこかに消した後、小さなため息をつく。


『終わったの……』

『そうだな。少し物足りないが仕方あるまい。あとは【魔王】殿に任せるとしよう』


 どこか感慨深げな2人だけど、ちょっと待って欲しい。

 いつまで僕らはこのままなの?

 完全に巻き込まれたって分かってるし復讐も終わったみたいなんだから、早くこの鎖を解いてくれないかな?!


 そう思って2人を見ると、何故か苦しそうな表情で胸を押さえ始めた。


 え、急にどうしたの?


『ぐっ、分かっていたことだがこれほどとは……!』

『【魔王】殿の言っていた通りか。

 妾達が正気でいられるのは妾達自身の怒りを抱えている間だけ。復讐を終えれば【魔王】殿の怒りに呑まれ正気を失うと……』


 物凄くヤバい情報を聞いてしまった。

 つまりはこの後起こるのはこういう事か。


 【四天王】2人が正気を失う。

 目の前には鎖で縛られて動けず抵抗できない獲物僕ら

 即☆殺。


 ヤベェ!?

 生き残れる未来が全く見えないよ!


 体中を拘束していて地面と繋がっている鎖を引っ張るも、ガチャガチャ鳴るだけでビクともしない。


『ぐっ……はぁはぁ……』


 クライヴが荒い息を上げながらこちらにゆっくりと向かって来ていて、その手はかぎ爪のような構えになっていた。


 も、もしかしてその手は僕らを切り裂くということなのかな……?


『………』

「ひっ!?」

『止めるのですパパ!?』


 クライヴが無言のまま腕を振り上げ、そのまま僕らに向かって虎の様な鋭利な爪が生えている手を振り下ろそうとする光景に思わず目を瞑る。


 …………………ん?

 痛みも何も来ないぞ?


 そう思い恐る恐る目を開けると、クライヴの腕は確かに振り下ろされていたけれど、切れていたのは僕とアヤメを縛る鎖だけだった。


『は、早く逃げろ……! ぐっ!』


 クライヴが苦し気に自分の胸を掴んで必死に自分を抑えていた。


 だけどクライヴはすでに限界だった。

 どんどん目が充血して真っ赤に染まり、口からよだれを垂らしながら怒りに満ちた表情へと変化していた。


『アアアアアッ!』

『止めよクライヴ! ハァハァ、何を、ぼさっとしておる。うぐっ、は、早く逃げるのじゃ!』


 襲い掛かろうとしてきたクライヴの腕をシンディが掴んで抑えてくれたものの、シンディ自身ももはや限界そうで、いつこちらに襲い掛かってもおかしくない様子だ。


 急いで逃げないと!

 ……いや、待てよ。


『何をぼんやりしているのですご主人さま! 早く逃げないと殺されてしまうのです』

「真髄を見せろ、〔太郎坊兼光ヘゲモニー オブ天魔波旬デーモンキング〕」

『ご主人さま!?』


 鎖から解放され、【典正装備】が使える今なら……!


 僕は〔太郎坊兼光ショート リヴド破解レイン〕を取り出し、すぐさま〔典外回状〕により毛の無い筆から刃のない刀へと変化させる。


『何をする気なのですかご主人さま?!』

「せめてここで1人だけでも止めてみせる。〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕」


 〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕の体力を吸収していない黒い紙を、刀の鍔に近づけると紙が黒い光の粒子となって黒い刀身へと変わる。


『そんなの使ったらパパもママも死んじゃうのですよ!』

「大丈夫。2人は【四天王】だから【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】になっている。それなら犯罪者の人や魔女達と同じように死ぬことはないよ。

 あと、今言ったけど止めれるのは1人だけだから」


 〔太郎坊兼光ヘゲモニー オブ天魔波旬デーモンキング〕は20メートルの範囲内にいる敵にあらゆる干渉を素通りして敵に必ず中るというものだけど、問題はその対象が1人だけということ。

 刀身が1本しかないからか、1振りで壊れる刀は切れる相手も1人だけということなんだろう。


 でもここで【四天王】を1人倒せるのであれば使う価値はある。

 それに暴走しているこの2人にここまで近づける機会なんてそうあるものじゃない。


『わ、分かったのです。でも使ったらすぐに逃げるのですよ!』

「もちろん。はああっ!」


 僕はすでに正気を失っているクライヴを目標にして、刀を振り下ろした。

 振り下ろされた刀は【Sくん】の時のように粉々に砕けて消えるのと同時に、クライヴの周囲に黒い枝や根っこが生えて絡みついていく。


『ガアアアアッ!』

『ああっ、わ、妾ももう、ダメ……アアアアッ!』

「逃げるよ」

『はいなのです!』


 〔太郎坊兼光ヘゲモニー オブ天魔波旬デーモンキング〕でクライヴがどうなるのかなんて確認する暇もなく僕らはその場から逃げ出した。


 アヤメが僕の肩に乗って背後の警戒をする中、僕は目の前にいる魔物達に攻撃しないよう気を付けながら全力疾走する。

 クライヴから〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕で体力を奪い僕にそれが還元されているので、いつまでも全力で走れそうだと錯覚するほどだ。


 だけどその感覚は長く続かなかった。


「え、もう効果が切れた?」

『なっ、なんなのですかあの姿?!』


 僕とアヤメはほぼ同時にそう口にしていた。


 アヤメのあまりの慌てぶりに背後が気になりチラリと後ろを見ると、そこには巨大な白い虎と蒼い龍が木の枝や根を引きちぎっていた。



--―-----------------------------------

・あとがき


風邪ひいた……。

というか家族がコロナにかかったから、もしかせんでもコロナか?

会社の同僚が隣でせき込んでたからそれがうつっただけだと思ってたんだけど……。

頭痛いし喉痛い。更新止まったら体調不良だと察してくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る