第33話 報復

 

『さて、待たせたの』

『己の罪をかみしめる時間は十分だったか?』


 僕に説明を終えた2人は、ようやくメインディッシュだと言わんばかりに獰猛な笑みを浮かべて何十人もいる老人たちを見下ろした。


「ふざけるな! わしらはただ荒廃する世界で全ての種族が滅びぬように動いただけだ!」

「さよう。あれはどの道避けられない事だったのだ」

「現に種族ごとに完全に住む地はバラバラになったが、生まれてくる子供の数は増えたのだぞ!」

「むしろ種族ごとに別れた事で余計ないざこざが起きなくなったまである」


 老人たちが口々にあの犠牲は必要な事だったと語り、その犠牲によって得たものはあったんだと訴えだした。


『『で?』』

「「「なんじゃと!?」」」


 しかし生贄にされた2人はむしろ怒りが増したようで、老人たちを睨みつけていた。


『必要な事だった、というのであればおかしな話だ』

『であるの。だったら何故は生贄になっておらんのじゃ?』

「「「………」」」


 シンディの問いかけに老人たちが一斉に黙る。

 まるで突かれたくない事を突かれたみたいに。


『貴様らも我らほどではないが種族を束ねていた程度には強者だったはずだ』

『にもかかわらず、ぬしらは贄にならず今の今までのうのうと生きておったではないか』


 2人の言葉にビクリと一瞬体を震わしながらも、老人たちはすぐに平静を取り戻していた。


「わ、我らは生贄になるわけにはいかなかったのだ。種族を束ねる長がいなくなるわけにはいかなかろう」

「さよう。ダンジョンを造ると言葉でいうのは簡単だが、それがどのような影響を及ぼすかは未知数だった」

「現に想定していた通りの結果ならダンジョンが1つだけ生まれるはずが、いくつも枝分かれして分離したのだ」

「むしろ生贄にならなかったからこそ、その後大きな混乱もなく種族の者達を今日まで生かせたまである」


 部外者だし大雑把にしか事情を把握してないから何も言えることはないけど、老人たちの言葉を聞いた2人の目が険しくなっているのだけは分かった。


『別にそれは貴様らでなくてもいいだろうが。貴様らがいなくなったとて他の誰かが率いることになるだけだ』

『そうであるの。そんな未曾有の事態では長としての経験などあってないようなものよ。それよりも少しでも成功率を上げるためにぬしらも生贄になるべきだったの』


 実際この老人たちは自分達はちゃっかり生き残ってるからね。


『まあ少しでも経験のある長がいた方がいい、という意見は一理ある』

「「「そ、そうだろう!」」」

『が、それでも長というのであれば自身の種族のために率先して身を投げ出す気概は見せるべきだった。それに――』


 クライヴは一拍置くとズンッと地面が揺れるほど踏みしめた。


『卑劣な罠にかけて我らを贄にしたという事実は変わらん!』

『もしも事情を説明し、妾達を納得させられれば大人しくこの身を捧げたであろう!』

『だが貴様らが我らや同胞達に何をした?』

『いきなり卑怯な手段を使って無理やり生贄にしておいて何が人々のためだ。笑わすな!』


 2人の怒りのボルテージが上がっている。

 いつ爆発してこの老人たちに復讐する際に巻き込まれてもおかしくない状況だ。ヤベェ……。


 一刻も早くこの場から逃げ出さないといけないのだけど、鎖で拘束されてスキルも何も使えないのであればどうしようもないか。


「……わしらを殺すのか?」

『たわけ。この復讐は我らだけのものではない』

『であるの。本当なら手足から八つ裂きにしてやりたいところだが、この場にはいない【魔王】殿にも貴様らは我らのあとに非道な行いをしたそうではないか。であれば妾達だけで終わらせるわけにはいかぬ。

 そういう訳でここはこちらの文化に合わせた復讐といこうかの』


 こちらの文化に合わせてって、一体何をする気なんだ?


『目には目を歯には歯を、という言葉があるらしいな』

『つまりおぬしらには妾達と同じ目に遭ってもらう』


 そう言って2人が取り出したのは無数の透明な玉。それを見せつけるように周囲に浮かべていた。


 うん、伝統文化。


「バ、バカな!? それは封魂の宝玉!? 未使用の宝玉も贄には使ったが、たしか4つ程度しかなかったはず……」

「さよう。であれば偽物のはず」

「現にあれだけの宝玉は向こうの世界でも用意できなかった」

「むしろ偽物でないとおかしいまである」


 あんな占いに使いそうな水晶玉みたいな玉を一目見ただけでは本物か偽物か判断し辛いと思うんだけど、分かるものなのか。

 ただそれよりもこの老人たち、さっきからおかしな喋り方してるなぁって思う。いやそんな事考えている場合じゃないか。


『我らも詳しくは知らんが、ダンジョンの操作が出来れば贄に使った宝物の類を複製できるらしい』

『まあ偽物かどうかなど使ってみれば分かる話だがの』


 そう言ってシンディは浮かんでいた宝玉を老人たち1人1人の元に移動させる。


「や、やめるんじゃ……」

「頼む助けてくれ」

「あの時の事は謝るから許してくれ!」


 老人たちは一気にその顔を青ざめさせ、口々に懇願するも2人はその声を完全に無視していた。


『『我らの痛みと苦しみを思い知れ』』

「「「うぎゃあああああああああああ!!!!」」」


 バチバチバチと宝玉と老人たちの身体がまるで放電しているかのように火花を散らし、光と音が止んだころには老人たちは力なくうな垂れ、地面には色とりどりの玉が転がっていた。

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