第32話 何故ダンジョンが生まれたのか
『こことは異なる世界。おぬしのような者とは少し違う人々が暮らしている世界で、ある日異変が起きている事にそこに住む者達は気付いたのだ』
『年々生まれてくる子供の数が少なくなっているという異変にの。
その原因が世界に満たされていたはずの魔素の減少だということなのは分かったが、何故減少しているのかという理由が分かるまで随分時間がかかったものよ』
……それってもしかしなくてもエバノラが前に過去の話をしてくれた、命を犠牲にして魔素を取り込む存在になった後の話では?
世界を繋いだ影響は当然向こうの世界にも多大な影響があったというわけだ。
『魔素は向こうの世界の人にとって酸素、とまでは言わないがそれに近いもの同然で、それが空気中に満たされていないと体調が悪くなり、種族によっては死んでしまうくらい重要なものだ』
『その魔素が減少するのは我々にとって死活問題であり、早急に解決を求められた。
もっとも、今言った通り減少する理由を探るのに長い時間かかったせいで、それが分かったころには人口は全盛期の半分以下になっていたようだが』
思ったより深刻な問題が向こうの世界で起きていたようだ。
エバノラ達も意図してやったわけではないだろうけど、まさかそんな事になるとは思いもよらなかっただろうなぁ。
『魔素が少なくなっている原因は、他の世界と繋がってしまったために魔素が流れて行ってしまっているというもの』
『その繋がりを断ち切ればこれ以上魔素が流出することはないと考えたが、残念ながらそれは無理だった』
『何度断ち切ろうとも自然と修復してしまい、元に戻ってしまうのじゃ』
エバノラ達が行った事は異世界の人達ですらどうにもならないほどの事だったようだ。
命がけとはいえたった7人が行った事が異界の住人達の手に余る事態を招いたのだから、エバノラ達は以外と凄い存在なんだな。
でもエバノラ達4人を見ていると、どうしてもそんな凄いとは思えないけど。
『他の世界との繋がりはどうしようもなかったため別の試みが考えられた。それがダンジョン創造計画』
『もっとも、それを知ったのは妾達がこの老害どもに捕まった後の話だがの』
今の話の流れから捕まる理由が分からないのだけど、何故そんな事になったんだろうか?
そんな疑問が湧き2人を見ると、当時のことを思い出しているのか鎖で拘束されている何十人もの老人たちを忌々し気な目で睨みつけていた。
そして深くため息を吐くと、重々しく言い放つ。
『我々は生贄にされたのだよ』
憎むのに十分な理由だった。
これだけの規模の騒動を起こしてまで、因縁のある人を呼び寄せる魔法を使うほどの恨みであると納得できる。
『ダンジョン創造には様々な種族の生贄が必要だった。それもできるだけその種族の戦士と呼ぶにふさわしいほど力を備えている者のな』
『種族は違えど切磋琢磨しお互いの力を高めあった同胞達はまさに生贄に相応しかったであろう。妾達も含めてな』
「あれ? さっき孤立していたって言ってたのに、同胞と呼ぶくらい仲のいい人達が別の種族にいたの?」
てっきり自分と同じ種族の人達のことを同胞とか言っていると思っていた。
でもよくよく周囲を見てみれば、ダンジョンから出てきていたのはコボルトやアルミラージなどで虎や龍のような特徴を持つ魔物は出てきていない。
いや、この2人の種族が実はコボルトとかで虎や龍は【
そう考えたがどうやらそれは違う様で、少し寂し気に2人は笑う。
『ふっ。確かに我らと同じ虎人族も龍人族もいないな。我らは自分と同じ種族の者達からはこの身の強さから嫌厭され、他の種族の強者からは尊敬されていたのだ』
虎と龍なのは元からの種族だからか。
そうなるとアヤメが何故そのどちらの特徴も受け継いでいないのか謎だけど、今はそれを考えている場合じゃないよね。
『まあその他の種族の強者に比べても妾達は突出した力を持っておったから、対等な関係と言えるのはこやつだけだったがの』
『とはいえ、我らを尊敬し強さを求めるその姿勢は同胞と呼んでもいいものだったのだ』
強者ゆえの孤独か。
僕のスマホに住んでいるあの2つの玉の姿を思うと、全く想像がつかないね。
アヤメが生まれる前ですら索敵くらいしか出来なかったのに。
でもあの状態ですら索敵ができると考えると、やっぱり実は強かったのかと思わなくもない。
『おっと、話が脱線したな。
えーっとだな、生贄によって世界を繋げているものをダンジョン化させ、魔素をダンジョン内に集中させればその中でなら今まで以上に快適に暮らせるだろうという計画に、我々は同胞共々巻き込まれたのだ』
『そんな話を事前に聞けば誰だって抵抗するのは火を見るよりも明らか。それゆえにあやつらは我々に罠を仕掛けた。まあ今ぬしを拘束しとるそれと似た、呼び寄せる効果はない程度のものだな』
つまりこの2人は似た方法で意趣返しをしたわけか。
『我々が生贄にされる前に今のこいつらと同じように罠にはめられ拘束されたのだ。
もっとも我々なら数秒もあればこの程度の拘束は破れた』
『妾達とは違い、それに注がれていたエネルギーなどたかが知れておったしの。それを当然あやつらは分かっておるから、封魂の宝玉を使うという二段構えだったがの。チッ!』
封魂の宝玉とは何か聞きたかったけど、一気に不機嫌になったシンディにそれを聞けそうにはないな。
そう思いクライヴの方に視線を向けると、仕方なさそうに頷いた。
『封魂の宝玉は肉体から魂を強制的に分離させる物だ。国宝であったはずのそれを我とこやつの分、2つも使ってきおった』
『そんなものを使われた妾達はなす術もなく魂を抜き取られた。
ただ、贄として集められていた国宝級の宝物や知恵のないような魔物なども近くにおり、その際事故で妾達の魂を封じた宝玉はミミックに取り込まれたがな』
だからクロとシロはミミックからドロップしていたのか。
他の学生からは完全にハズレ扱いされていたけど、まさかそんな経緯で石がドロップしていたとは思わないだろうな。
『結局我らは抵抗すら出来ず贄にされ、あとはぬしも分かる通りダンジョンが生まれたというわけだ』
『贄とされた妾達だったが幸か不幸か、どちらかと言えば不幸よりで、魂を砕かれる衝撃は想像を絶する苦痛ではあったものの、宝玉の欠片という形で他の同胞達のように完全に消えずに済んだのじゃ』
『その欠片を【魔王】殿が集め復活でき今の我らがあるわけだが、もう分かるであろう?』
そんな聞かれなくても分かる。
うん、そりゃ怒るよ。
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