第17話 これが日常なんだろうか……?
京都市周辺は、【
まあ〔マジックポーチ〕みたいな運搬に便利な魔道具があるので、そこまで大した手間ではないだろうけど。
宿泊施設に着くと、受付でパーティーごとにユニットハウスを指定され――
「ちょっと待て。貴様、まさか俺の可愛い娘と一つ屋根の下で寝泊まりする気か?」
先ほど上がった株が一気に下がるほどの過保護っぷりを見せ始めたのが1名現れた。
もちろん宗司さんだが。
「何言ってやがる。ユニットハウスって言っても、4人分の鍵がかかる個室があるんだから気にしすぎだろ」
「そっちこそ何を言っているんだ柊!? こんなケダモノと、うちの可愛い乃亜を同じ小屋に入れたらどうなるかだなんて、火を見るよりも明らかだろうが!」
「そ、そうね。そっちの男の子が乃亜ちゃんに襲われるわね」
「逆だろ、穂香!?」
いえ、間違ってないです。旦那さんと違って自分の家族のことをよく分かってらっしゃいますね。
なんせ責任さえ取るなら手を出されてもいいと言っているくらいなので、そっちの可能性の方が十分ある。
「大丈夫よあなた。乃亜が嫌ならスキルでどうとでもなるのは聞いたじゃない」
「た、確かに聞いたが……いや、ダメだダメだ! 俺は認めん! 認めんぞ!!」
そんな親の仇を見るような目で見ないでください。
「でも、それじゃあどうしろって言うの? まさか……1人だけ野宿しろって言うんじゃないでしょうね?」
「うっ、い、いや、そんな事言うわけないじゃないか……」
ゾクッとする底冷えするような声で亜美さんが宗司さんへと確認すると、宗司さんは若干震えてそれを否定した。
「亜美お母さんが怒ると一番怖いですから、味方につけておくといいですよ?」
それは何に対してのアドバイス?
娘さんを僕に下さいと言う前に、その辺の根回しを先に済ませておくといいってこと?
……うん、深くは考えないようにしよう。
「そ、そうだな。じゃ、じゃあ乃亜も俺たちと一緒の小屋で過ごすのはどうだ?」
「それこそダメだろ。乃亜がいなくなったら男女2人っきりになって、余計お前が考えたことが起こりかねねえじゃねえか」
「そうだよ! どうせならわたしと先輩を2人っきりにしてくれる事を所望します!」
「ダメだ乃亜! 早すぎる!」
「ヤルなら避妊しろよ」
「うん、柊お母さん!」
「うん、じゃない!!」
娘に目の前で性交渉するって言われるの、どんな気持ちかな?
あ、目を血走らせるほど許せないんですね。
分かりましたからこっちを睨まないでください。
「もう、気にし過ぎよあなた。それにユニットハウスなんて壁が薄いんだから、そんな事してたらすぐに分かるわ」
「してたら遅いだろ!」
「ああ、もううっせえな。少し寝てろ」
「ぐはっ!?」
柊さんが容赦なく宗司さんの腹部へと蹴りを叩きこんでいた。
えっ、大丈夫ですか?
「………」
返事がない。ただの屍のようだ。を見事に体現し、白目をむいて完全に意識が飛んでいた。
「じゃあこの馬鹿はちゃんと見とくから、乃亜達は気にせず自分らの小屋で過ごしな」
「うん、分かった柊お母さん」
乃亜が宗司さんの事をまるで気にせず返事をした。
もしやこれが高宮家の日常なんだろうか……?
宗司さんを担いだ柊さん達が自分たちに割り振られた小屋へと向かったので、僕らも自分たちのユニットハウスへと向かった。
自分たちにあてがわれたユニットハウスに入ると、柊さんの言った通り中には4つの個室と、トイレ一体型ユニットバス、4人が集まれる小部屋がある空間だった。
もっとも、個室と言っても布団を一組敷けるだけの広さしかないけど、プライベートを守るだけなら十分かな。
「トイレとお風呂が一緒になってるのって好きじゃないけど、ここでお風呂が入れるだけマシだね」
なんせこの周辺には何も建物がなく、かつてあった歴史的建造物すら“
「水道とかどうしてるのかと思ったら、これ、魔石で水を生成してるわね」
「へー、じゃあこのユニットハウス、それなりの値段がするのかな?」
魔石を使った魔道具の中でも飲料水を生成するタイプは15万以上はするけど、ただ水を出すのではなく、排水まで機能がついているのとなると更に値段が高かったはず。
意外にちゃんとした宿泊施設を用意しているあたり、政府も“
テレビでは大したことないように言ってるけど、魔物がダンジョンの外に出るのを放置すれば人を殺傷するのは間違いないので、未然に防ごうと必死なんだろう。
特に京都市近くに住まいがある人は尚更だろうし。
「今は2時ですね。散策がてら
「そうだね。特にすることもないし、周囲の地形を一応把握しておく方がいいだろうから、その辺見て回ろうか」
建物はろくにないし、なだらかな地形なので見て回るほどでもないのだけど、何もせずに小屋の中でじっとしているのは暇だからね。
しかし僕らは小屋を出た直後、引き返すことになった。
「おっ、蒼汰じゃねえか。お前ももう着いてたんだな」
「「「人違いです」」」
――バタン
「ちょっ、おいそりゃねえだろ! って、お前何美少女達と1つ屋根の下で暮らしてんだゴラー!!」
大樹も試験に受かっていたことは聞いていたけど、500以上はあるユニットハウスの宿泊施設で大樹とそのパーティーに出くわすとは思わなかった。
僕らはその日、ユニットハウスから出るのを諦めた。
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