第16話 許すか、許さないか

 

≪蒼汰SIDE≫


 試験の日から5日経った金曜日、僕らは京都にいた。


「先輩、明日から3日頑張りましょうね」

「うん、頑張ろう」


 愛知県が僕らが住んでいる場所なのだけど、そこからどうやって京都へと行くか相談した結果――


「高宮さんのご家族に連れてきてもらって助かったわ。お陰で交通費分さらに儲かったし」

「気にしなくていいさ。なにせ娘のたちなんだからな」


 乃亜のお父さん――宗司そうじさんが友人を殊更に強調する。

 しかも僕をガン見してだ。勘弁してほしい。


「あの……咲夜まで一緒に連れてきてくださって、ありがとうございます」

「この人も言ったけど気にしなくていいのよ。それにしても咲夜ちゃんってなんだか他人に思えないわね」

「確かにな。穂香と雰囲気が似てっからそう感じるのかもな」

「そ、そう?」


 そして四月一日わたぬき先輩も一緒に京都へと来た。


 試験の後、どうやって京都へと行くか相談をしていたら乃亜から――


「もしかしたらお父さんも京都に行くかもしれないので、その時は一緒に連れて行ってもらえないか確認してみますね」


 宗司さんやお母さん達も実は冒険者だったらしく、“迷宮氾濫デスパレード”には毎年参加していたようだ。

 そのため今年も参加するのか乃亜がその場で電話で確認したところ、参加するとのことだったので、すかさず一緒に行けないか交渉したら即答でOKをもらえた。


 ミニバンを宗司さんは所持しており、8人乗りのためもう1人乗せられたので、四月一日わたぬき先輩も一緒に行こうとなったんだ。


「乃亜とパーティーを組んでいたのが鹿島君1人だけで、2人のパーティーだと聞いた時は不安だったが、白波さんも一緒のパーティーに入ったと聞いた時はホッとしたよ」

「それはその、成り行きと言いますか……」


 ハーレムに対して悪く言ったのがきっかけだけに、白波さんは言い淀んでしまっていた。


「それで今は3人のパーティーなのだろうが、4人目に四月一日わたぬきさんが加入予定なのか?」

「「「「え?」」」」


 宗司さんの続いた言葉に、僕らと四月一日わたぬき先輩が一緒になってそちらへと視線を向けていた。


「ん? 違うのか? こうして一緒にイベントに参加するくらいだし、同じ学校だからてっきりそうだと思ったんだが……」


 言われてみれば確かにそう見えるかもしれない。


「……そこは、先輩次第かな」

「そうね。私的には全然いいんだけど……」


 乃亜と白波さんは僕に選択権を投げて来た。


 まあ実際、四月一日わたぬき先輩から被害を受けたのは僕だけだから、僕の心情次第だというのは分かる。

 襲って来たのに悪気は……うん、一応なかったわけだし。

 理由が友達欲しさにだったのは驚いたけど、それに関しては謝ってもらっている。

 けど、ダンジョンで全裸にされたわけだし、四月一日わたぬき先輩のことよく知らないのにパーティーに誘うのも……。

 でも、乃亜達だってろくに互いに知らない状態でパーティーを組んだわけだし、一度組んでみるのもありなのか……。


 グルグルと考えが頭をめぐり、さて、どうしたものかと考えていたら四月一日わたぬき先輩がこちらを見ていた。


「無理しなくていい」

四月一日わたぬき先輩?」

「咲夜はあなたに酷いことをした。そんな人を同じパーティーに入れられないのは分かる。だから気にしなくていい」


 四月一日わたぬき先輩がそう言って僕から視線を外すと、宗司さんたちに向き直って軽く頭を下げた。


「ここまで連れてきてくださり、ありがとうございました」


 改めて四月一日わたぬき先輩が宗司さん達にお礼を言うと、僕が何かを言う前にスタスタと立ち去ってしまった。


「あ、四月一日わたぬき先輩……」


 乃亜が名前を呼んだ時にはすでに遠くの方にまで離れてしまっていた。


「良かったのか、呼び止めなくて」


 宗司さんが僕へと問いかけてきた。


「あ、その、どうしたらいいか分からなくて……」


 こんな経験全然ないし、パーティーを組むことはないなと思っていただけに、いきなりすぎて頭が困惑してしまった。


「乃亜からことの顛末は聞いてるし、君がどんな目にあったかも知っている。それを知ったうえで問うが、君はどうしたい?」

「どうしたい、ですか?」

「端的に言えば許すか許さないかだな」

四月一日わたぬき先輩にはもう謝ってもらってますけど……」

「違う、そうじゃないんだ。

 加害者側はただ待つしかないんだ。被害者側が何か行動を起こさない限り、加害者はたとえ謝ったとしても、心の中で一生許されていないと思い込んでしまう。

 まあそれはキチンと罪悪感を感じられる道徳心を持った人間だけだが、彼女はそれをちゃんと携えているように思う。

 だから君が行動するしかないんだ」

「それは許せってことですか?」

「いいや違う。許さないなら関わらなければいい。

 だが君は彼女に接しながらもパーティーには入れないのでは、許しているのかそうじゃないのか分からないんだ。

 中途半端な行動をするんじゃなく、しっかりと彼女に向き合うことがキチンと謝りに来た彼女への正しい対応だと俺は思う」


 しっかりとした大人の意見に、ただの親バカではなかったんだなと思った。

 そしてその意見を聞いて、僕は目を閉じて考える。


 許すか、許さないか。


 四月一日わたぬき先輩のこれまでの行動の中で、真っ先に頭に浮かんだこと。

 それは、寂しげな声で友達が欲しかったと言っていたことだった。


「……四月一日わたぬき先輩を次に見かけたとき、パーティーに試しに入ってみないか誘ってみようと思います」

「正式にパーティーに入って貰う訳じゃないんだな」

「戦闘が合うか合わないかはあるので。ただ少なくとも、パーティーに合わなくても普通に関わっていこうとは思います」

「そうか」


 今まで曖昧な対応をしていて、四月一日わたぬき先輩とはどこかハッキリしない関係だったけど、宗司さんのお陰でちゃんと先輩と向き合えそうだ。


「宗司さん、ありがとうございます」

「よせよせ。俺はただ普通のことを言っただけだ」

「もう、あなたったら照れちゃって。そこは素直にお礼を受ければいいだけでしょ」

「なっ!? お、俺は照れてなんかいないぞ!」

「はいはい、分かった分かった」

「柊もそんな、しょうがない奴だな、みたいな扱いをするんじゃない!」


 仲のいい夫婦の様子を見ながら、僕は四月一日わたぬき先輩をどうやって誘おうかなと思った。

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