第30話 気持ち悪いわ!!

 

 呪われた武具には僕らと円卓の騎士が触れることができるけど、選ばれている選ばれていない関係なく触れるだなんて酷い話があったものだ。


 もしもルーカンさんから話を聞き出さずに武具を触れる円卓の騎士を探していたら危ないところだったよ。


 とりあえず僕らはその後ルーカンさんを尋問、もとい質問していき聞かなければならないことは他にないか確認した。

 ハッキリ言って外ではドンドン味方の兵達の数が減っていってるので時間はないのだけど、他に重要な情報を聞き逃したら詰んでしまいかねないから仕方がない。


「なんでこう言う時に限ってほとんど情報が出てこないんだよ……!」


 ただの時間の浪費だったけど。


 いや、ここでの確認は重要だったから、他に重要な隠された情報がないことが分かっただけでも収穫だ。

 これ以上変な隠し要素がないということなのだから。


「とりあえず武器を決められた5人の円卓の騎士に届けることが、この試練で僕らがしないといけないことなんだね」

「そのようだな。敵の兵を倒してもいいんだろうが、さすがに5万の兵力差がある以上、私達が参戦したところで焼石に水だろう」


 たとえ[助っ人召喚]で咲夜を呼んで〝神撃〟を撃ってもらったとしても、兵力差5万人分消し去るのは無理があるからね。


『じゃがこの武具をまとめて持って行くのは厳しいの。なにせ主様達2人しか運ぶことが出来ぬのだから』

『ママとワタシじゃ武具がデカすぎて持てないのですよ』


 問題があるとしたら5つの武具を持てるのが僕とオリヴィアさんしかいなくて、一気に運びたいのにそれをするのが難しい事。

 まとめて運ぶだけなら1つ、いや2つほど手はなくないのだけどそれが可能かどうかが問題だなぁ。


「とりあえず試しに持ってみよう。嫉妬心を植え付けられる呪いがどの程度のものか分からない事には動きようがないし」

「そうだな。せめて2本くらいまとめて運べる程度であればいいんだが」


 僕の提案にオリヴィアさんが賛同し、僕らは試しに武具を持ってみることにした。


『大丈夫なのです?』

『アヤメよ。いざとなったら妾達が小突いて正気に戻してやるのじゃぞ』

『は、はいなのです!』


 僕らは少し緊張しながら武具へと触れた。


 ――羨ましい


 心の奥で唐突に生まれた異物。

 明らかに突然湧いてきた感情に思わず戸惑ってしまう。

 これが嫉妬心を植え付けられる呪いなのか。


 ――羨ましい。自分の恋人をあんな風に椅子に括り付けて拘束しているだなんて!


“嫉妬”の魔女サラが嫉妬されたいだけの呪いじゃないか!!」


 思わず僕は武具を床に叩きつけていた。


『どうしたのですかご主人さま!? し、正気なのですか?!』

「安心してアヤメ。ちゃんと正気だから。少ししか武具に触れてないし手放したら嫉妬心が薄れてきたから」


 まさかクロを椅子に拘束していた時の事で嫉妬することになるだなんて思いもしなかったから、予想外の不意打ちに動揺してしまっただけだし。


「な、なんだこれは……? 何と言うか不思議な気分だったな」

「確かにね。でも思わず手放しちゃったけど1つぐらいなら間違いなく持てそうだよね」

「そうだな。だが複数持った場合、呪いもやはり強くなるんだろうか?」


 そこが問題だよね。

 武具自体が大きいから1人で運べるのはせいぜい2つくらいだけど、2つもまとめて持ってしまった場合植え付けられる嫉妬心もその分大きくなるのかな?


「よし、それじゃあ僕が持ってみる」

「大丈夫か鹿島先輩? 1つ持っただけでもおかしな気分になったのだぞ?」

「でもやってみるしかないよ。せめて3つ持てればいいんだけど……」


 僕はそう言いながら床に落とした大剣と、その近くにあった大弓に触れた。


 ――羨ましい。あんな風に恋人を束縛してみたい。サラのように自分の支配下で一生恋人と幸せに暮らしてみたい


「気持ち悪いわ!!」


 もうツッコミどころしかない感情を植え付けてくるの止めてくれないかな!?


「やはりこんなものを2つまとめて持つのは無理だったか?」

「いや我慢すればいけると思うけど、もうなんて言うかふざけんなって言いたくなる気分になってしかたないんだよ」


 比較的魔女の中ではまともに思えたのに、とんでもない試練をするのは止めて欲しい。

 自分が嫉妬されたいという欲望を満たすために試練にそれを組み込むとか、もうさすが魔女だよなぁとしか言えないよ。


 自分の感情のように侵食してくる呪いは、長時間持ち続けるとその感情がまるで自分のもののように錯覚しそうで怖いけど、ここで諦めたらクロはそれこそ一生束縛されることになるだろう。


「やるしか、ないのか……!」

『頑張って欲しいのですご主人さま。パパをあの女から解放しないと危険なのです』

『主様には申し訳ないが、さすがにあのままではクロが哀れじゃ。あの女から引きはがしてやりたい気持ちの方が強いがの!』


 サラがこの場にいたら恍惚とした笑みを浮かべること間違いなしの感情をアヤメとシロが撒き散らしていた。

 サラを引きはがすとかはどうでもいいけど、さすがに束縛されたままになるのが哀れなのには同意するよ。


「オリヴィアさんは2つ持てそう?」

「……ああ。鹿島先輩が気持ち悪いと言った理由は分かるが、急げば耐えられると思う」

「よし、それじゃあ行こうか」


 あの気持ち悪い感情が自分の内から湧き上がってくるのは嫌だけど、覚悟を決めて僕は3つまとめて持ち上げると[画面の向こう側]を使用した。

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