第31話 自然と不自然に湧いてくる


 [画面の向こう側]を使用して、その空間内に武具を手放して置いておけば呪いに蝕まれないんじゃないかという目論見は、やはりというか無駄だった。


 この空間内は僕のスキルで創ったものであり、僕の中と言っても過言ではないのでそこに武具が触れている以上僕自身に呪いが伝わってくるんだろう。

 だけど幸いにも僕がこの空間で服を着ているのと同じ扱いで武具を持ち込めたのは大きい。


 そのお陰で持ち運ぶ手間だけは省くことができたのだから。


 ――羨ましい。あんな恋人関係もあるだなんて。サラとクロのようにイチャイチャしたい


 唯一の問題はこれである。

 この感情が本当は自分のものではないかと錯覚しそうなほど自然と不自然に自分の中から湧いてくるのだ。

 武具が1つ増えるごとにその不自然な感覚が、より自分のもののように感じられるから厄介すぎる。


 明らかにイチャイチャなんてしていないと分かっているはずなのに、あの光景が羨ましいと思っている自分がいるかのようで頭がおかしくなりそうだよ。

 乃亜達がそばにいればこの感情も少しはマシになるだろうと分かるせいか、今日ほど乃亜達を抱きしめたいと強く思ったことはない。


「あ゛あ゛、辛い~~~~!!」

『大丈夫ですかご主人さま!?』

「あんまり大丈夫じゃない。僕が僕であるうちに早く!」


 まさかこんな中二病なセリフを自分が言う事になるとは。

 2つまでならなんとか我慢できたけど、3つも持つとこうも呪いの強さが鮮明になるだなんて思いもよらなかったんだから仕方ない。


『いつもみたいにガチャの事を考えて相殺できないのです?』

「もうやってるけど完全には無理」


 普通のスマホを取り出して眺めているけど、今回ばかりは【織田信長】の時のようにはいかない。

 “怠惰”の時はやる気がマイナスになるのをソシャゲへの想いでやる気をプラスして相殺できたのに対し、この“嫉妬”の呪いは湧いて出る嫉妬心をソシャゲへの想いで無視し続けることでしか対処できないのだ。


 なんとか無視しようとしても自分の内から溢れるものだけあって完全には難しく、下手に意識を向けると頭がおかしくなりそうな嫉妬心をなんとかするために今すぐにでも乃亜達の元へと駆けだしてくなってしまうほどだ。

 これ、“色欲”よりも別の意味で厄介だぞ!?


「くっ、私も2つとは言え時間をかけるとマズそうだな。急ぐぞ」

『索敵は任せよ。敵のいない所、そして円卓の騎士とやららしき気配を辿ってみせようぞ』

『援護は任せるのです!』


 オリヴィアさんも2つも持っているせいかかなり辛そうだけど、幸いにも僕と違って動けないわけではないようだ。


 出来れば1つずつ持って行ければいいんだけど、時間が無い以上いっぺんに持って行くしかない。

 本来4人パーティーで1人だけ1つ多く持たなければいけない程度で済んだであろう試練が、他にも人を連れて来なかったせいで首をしめている。


 いや、円卓の騎士の数を考えると持ち運べる人数で武具の数も変わっていたか?

 さすがにそれはサラに聞かないと分からないかな。


 ――羨ましい。サラのように自分に正直な恋愛をしてみたい


 ぐっ、ちょっと気を抜いただけですぐにこれか……!

 オリヴィアさんは2つだから少しは僕よりもマシとはいえ、こんな変な感情が浮かぶ中戦場を駆けるのは危険だ。

 正直かなりキツイけど誰か1人にでも武具を渡せたら僕がまた3つ、オリヴィアさんが1つ持ち運ぶだけにしないとダメだろう。


 ――羨ましい。サラとクロの関係こそまさに理想。恋人に想いを正直にぶつけているサラはなんてズルいんだ


 あ、頭がおかしくなりゅうううううぅ!


 お、落ち着け……。

 とりあえずどの武具がどの円卓の騎士のものかは本人に聞かなければ分からないようなので、武具を見せに持って行くしかない。


「まずガレス卿を探そう。地図を見た限り近そうだし、オリヴィアさんが丁度大槌を持っているから早く渡してオリヴィアさんの負担を減らさないと」

「いいのか鹿島先輩? 先輩は3つも持っているのだから、お互いに2つずつの方が良いのでは?」

「僕は[画面の向こう側]があるから大丈夫。それよりも戦場を駆けるオリヴィアさんの負担を減らす方が優先だよ」

「すまない。助かる鹿島先輩」


 そう言ってオリヴィアさんは建物を出て戦場に向かって駆けだした。


『こっちじゃ。味方の兵を壁にしつつ円卓の騎士に近づけるぞ』

「分かった」


 シロに先導されながらオリヴィアさんはその指示に従う。


『いたぞ、あそこだー!』

『矢を放てーー!!』

『『『はっ!』』』


 味方の兵で身を隠していたけれど、さすがにデカい武具を2つも持っているからか、完全に隠れきることはできずにすぐにみつかってしまった。

 オリヴィアさん達をみつけた敵兵は味方の兵で近づけないからと代わりに遠距離から攻撃してくるが、それは想定済みだ。


「高宮のように大楯を使うのも悪くないものだな」


 オリヴィアさんが運んでいるのは大槌と大楯。

 大楯を傘のようにして矢の雨を防いでいた。


 それにしてもいくら僕のスキルやオリヴィアさん自身のスキルで肉体を強化しているとはいえ、よくそんなデカい武具を片手で振り回せるな。


 その勇ましい姿に少し羨ましく思うけどこういう羨ましさが自分の内から湧いてくるのなら、まだ分からなくもない。


 ――羨ましい。四六時中恋人と一緒にいようとするサラの行動力には脱帽だ


 だからこの羨ましさは違うんだよ!!

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