第29話 トラップ

 

 執事の恰好をしている男の人が突然現れた事に困惑してしまうけど、髪の色は金色だし少なくとも僕らを襲ってこようとする感じはまるでしないので、味方だと思っていいんだろう。


「あなたは一体……?」

『申し遅れました。私はルーカンと申します。以後お見知りおきを』


 そう言ってルーカンさんは僕らに恭しく頭を下げてきた。


『さあ急いでこちらに。この場所は危険です』


 ルーカンさんに促されて僕らはこの場を離れると、教会みたいな建物のある場所まで連れてこられた。

 連れてこられた流れでそのまま建物の中へと入ると、そこには机や椅子などは何もなく5つの台座だけがステンドグラスの窓の下にあった。


「あれは……武器?」


 その台座の上には、大剣、大弓、大楯、大槍、大槌が置かれていて、ステンドグラスから差し込まれる光によって神聖なもののように感じさせた。


『あれは呪われた武具です』


 僕に見えていたはずの神聖さがどこかに消えていった。


『あちらの武具は我々では触れることができず、王であるあなた様方と円卓の騎士のみが触れることができます。

 その武具をふさわしい騎士へと送り届けることができれば、この戦場の不利な状況を覆せるのですが……』


 ルーカンさんは悔し気な表情を浮かべ、武具へと近づき触れようとしたけどバチッと静電気が起きたような音がして弾かれていた。

 そして武具からはどこか黒いオーラのようなものが出てきだした。


『今申し上げた通りこの武具は呪われています。武具に選ばれた騎士であれば呪いは一切受け付けないのですが、王であるあなた方は違います。

 持つことはできますがその間、呪いは着実に王を蝕むこととなりましょう。ですから一刻も早く騎士の元へと届けることをお勧めいたします』


 そう言ってルーカンさんは僕らにまた恭しく頭を下げてきた。

 しかしルーカンさんの話を聞いてアヤメが疑問に思ったのか、首を傾げていた。


『では、その騎士達をここに呼び寄せればいいのではないのです?』


 確かにその通りだ。

 そうすればわざわざ危険な戦場に行かなくてもいいし、誰がどの武具に選ばれたのか悩まなくて済むだろう。


『それは難しいでしょう。戦場に出ている円卓の騎士達を無理にここに呼び寄せれば、一気に戦線は崩壊して瞬く間に敵に我々は蹂躙されることになります』


 やはりそう簡単にはいかないか。


「それなら私達が持っていくしかないのか。ちなみにだが、あの武具にかけられている呪いというのは一体どのような代物なんだ?」


 オリヴィアさんが尋ねると、ルーカンさんはすぐに答えてくれた。


『持っている時間に比例して、嫉妬心を植え付けられる呪いです。自身の内から不思議と嫉妬心が沸き上がり、思ってもいない事で嫉妬してしまうようになってしまいます』


 やはり“嫉妬”の魔女の試練だけあって嫉妬が関わる呪いだったか。

 しかもダンジョン内は嫉妬心を煽る空間になっているため、下手に長時間その武具を持っていたら嫉妬によって感情の収拾がつかなくなりかねないだろう。


『武具を手放せば嫉妬心は徐々に薄れていきますが、しばらくその影響を受けることになるでしょう』


 これは困ったね。

 “怠惰”の魔女ローリーの時にも似たようなことがあったけど、自分自身が抱えている感情を増幅するのではなく、強制的に“嫉妬”を植え付けてくるものか。


 ローリーの時は危害を加えようとしたり触れたりすると、“怠惰”に侵されて攻撃はおろか何も出来なくなってしまったけど、スマホを見ながらガチャをしたい気持ちで相殺し抗う事が出来ていた。

 だけど今回はやる気がなくなるのではないのだから、そう簡単にはいかないだろう。


「厄介な試練だけど、ここで尻込みしている時間はないよね」


 僕は[画面の向こう側]を解除して外へと出ると、武具の前に立った。


「そうだな。しかし問題はどの武具をどの円卓の騎士に渡せばいいかだ。簡単に判別できればいいのだが……」

『確かにのう。おい、どの武具を誰に渡せばよいのか教えよ』


 シロがそう命令するけど、そんな簡単に分かる訳が――


『はっ。左から順に、ガウェイン卿、トリスタン卿、ガラハッド卿、ケイ卿、ガレス卿となっております』


 あっさり分かった!?

 というか、どの武具を誰に渡せばいいのか分かっているなら、その辺もちゃんと説明して欲しかったんだけど……。


 最低限の情報だけ与えて、重要な事は自分から知りにいかないとダメとか絶妙なトラップを張っていたか。

 ルーカンさんは僕らを王と認識しているから、わざわざどの武具が誰の持ち物かだなんていう必要がないとでも思っていたんだろう。

 これはもしかして……。


「それじゃあ今言った円卓の騎士達は戦場のどの辺りにいるの?」

『はっ。こちらの地図に名前が書かれている箇所付近におられるかと。また他の円卓の騎士の方も近くにいますので間違えないように注意してください。

 もしもその武具を円卓の騎士に渡してしまった場合、敵に寝返ってしまうでしょう』


 聞かなかったら分からなかった特大のトラップが仕掛けられてるじゃないか!?

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