第16話 初めてのキス

 

 僕はアヤメから魔物に囲まれてしまうことを示唆された後、すぐさま〔絆の指輪〕を使って3人にその事を伝える事にした。


『乃亜、咲夜、冬乃。このままだと魔物に囲まれるから急いであの人をなんとかするよ』

『あの、先輩。なんとかって言いますけど、あんな戦闘お化け相手にどうすればいいんですか?』

『私のはおろか咲夜さんの攻撃すら平然と受け止めてるのよ?』

『ビックリするくらい歯が立たない、ね』


 3人がまだ全力を出していないとはいえ、確かにその通りだ。

 1人で5人と正面から戦っているにも拘わらず余裕の表情で全て対処していて、ハッキリ言って向こうが遊ばずに殺す気で行動していたらとっくに僕らは殺されていただろう。


 今もソフィアさんの攻撃の合間を縫ってカティンカに3人が攻撃を仕掛けてはいるけれど、戦斧の柄や手足で攻撃するばかりで手加減、いや、どちらかと言えば長く遊ぼうとしている魂胆が透けて見えていた。

 オリヴィアさんが負傷して戦闘から離脱しているにも拘わらず、先ほどと同じように4人を圧倒するわけでもないのがその証拠だろう。


『今のままではどうにもならない以上、下手に温存してる場合じゃないね。

 どの道魔物に囲まれた後に、向こうが遊ぶのを止めて殺す気になる方がマズイよ』

『それもそうですね。ではどうしますか?』

『【典正装備】と…………[強性増幅ver.2]を使おう』

『うぇ!? ほ、本気なの!?』


 僕がかなり葛藤した後に絞り出した言葉に酷く動揺した冬乃が、てんぱりながら聞き返してきた。

 分かるよその気持ち。

 今ここでエロいことしようって言われたようなものだからね。


 ……ん? もしかして今僕かなり変態発言したのでは?


『わたしはいつでも構いませんよ! 先輩が積極的になってくれるのは大歓迎です』

『蒼汰君は普段からもっと積極的でもいい、よ?』


 そう言ってくれるのは嬉しいけど、ちゃんとしたお付き合いをすっ飛ばしての行動に抵抗感を覚えてしまうのは僕だけなんだろうか?

 いや今はそんな事考えてる場合じゃないから、ひとまず置いておくことにしよう。


『じゃあまずは冬乃から』

『い、いきなり私なの?!』

『躊躇している場合じゃないですよ冬乃先輩、って、そう言えば初めてなのでは?』


 言われてみれば確かに。

 乃亜の[ゲームシステム・エロゲ]のデメリットでラッキースケベは何度かあったけれど、キスは今までしたことなかったか。

【ミノタウロス】の時は恥ずかしがってたし、【織田信長】の時はそんなタイミングがなかったか。


『どうしよう? 体に軽く触れるだけにしとく?』

『バフの効果は低くなりそうですね。でもキスもまだなのに身体だけ触られるのもある意味エッチな気もしますが。……あっ、[選択肢]が発動して冬乃先輩にキスさせるように促すかどうかの選択肢が出ました』

『初めて[選択肢]が発動したのが今この時なの?!』


 冬乃が驚いているけど、乃亜は気にせずに選択した。


『もちろんわたしはキスするよう促しますよ。ここでパワーアップしなくていつするんですか!』

『うっ、ううぅ~~』

『冬乃ちゃん、無理しなくていい、よ?』


 顔を真っ赤にしながらも戦い続ける冬乃が、素早くこっちに駆けてきた。


「は、早くしなさいよ!!」

「わ、分かったよ」


 真っ赤な顔でプルプル震えて目を瞑っている冬乃がとても愛らしく、抱えていたオルガを地面に降ろすと、すぐに冬乃の身体を抱きしめた。


「何やってんだありゃ?」

「邪魔はさせませんよ!」

「いや、あほらしくて邪魔する気も起きねえわ」

「そう。でも時間は稼ぐ。〔傷跡のない恍惚なるアンフォゲッタブル痛みペイン〕」

「おっ、【典正装備】か!」


 嬉しそうに声を上げるカティンカは、咲夜が出した【典正装備】の方に気がいっているのもあり、まるでこっちの事に興味を示していない様子だった。


 そちらの心配が無くなったので、僕は腕の中にいる冬乃に意識を向けると今もプルプルと震えていて、耳も尻尾もピンっと立っていた。

 そんな明らかに緊張している様子の冬乃に対し、僕はゆっくりとキスをする。


「んっ」


 軽く触れるだけのキス。

 [強性増幅ver.2]は強く性を感じる行動をすることで、その度合いに応じて力を増幅させる力ではあるけれど、冬乃は初めてキスするんだしこれだけでも十分だろう。そう思っていた。


「んっ?!」


 驚いた事に冬乃の方から舌を伸ばしてきて、歯を舐めるように動かしここを開けろと催促しているかのようだ。

 僕はそれに逆らわず、口を開け冬乃の舌を迎え入れ自らも舌を絡めるようにしていく。


 どれほどその行為が続いたのか分からないけど、やがてゆっくりと離れた冬乃は恥ずかしそうに目を逸らした。


「そ、それじゃあ行ってくるわ」

「……うん、気を付けてね」


 こちらに向かって来た以上の速さで駆けていく。

 まるで気恥ずかしくて少しでも早くここから離れようとしているみたいだった。


 あ、それはそうと冬乃に伝えないといけない事があったんだった。


『冬乃。〔溶けた雫はバーン オブ素肌を伝うキャンドル〕を使って相手に少しでもダメージを与えて。それなら火傷だけで殺してしまう事はないから』

『ひゃい!? わ、分かったわ……』


 急に〔絆の指輪〕で話しかけてしまったからか、すごい動揺してしまったんだけど大丈夫だろうか?

 動きは[強性増幅ver.2]のお陰で良くなっているから問題ないと思いたい。


 それはともかく、相手がこちらを殺しに来ているのにこっちは殺さない様にする、それも格上相手になんておかしな話だ。

 だけど魔物相手の殺し合いならともかく、人間相手にそんな事出来る覚悟なんてただの高校生が持てるはずもない以上は仕方ない。


 全力でこの場から離脱するために思いつく限り打てる手は打っていかないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る