第15話 [エクスターナルデバイス]


「アナタ、“平穏の翼”の関係者だってことでいいんだね?」

「あん? まあそうだな。表向きは違うが」


 うわっ。そのセリフは自分から後ろ暗い事担当とか言ってるようなもんじゃん。


「なら答えてよ。サイラス・ベネット。この名前に覚えはない?」

「ん~あ~、どうだったかな~」

「ふざけるな! いいから答えろ!!」


 人を馬鹿にしたかのように耳に小指を突っ込んだ状態で、思い出そうとする気もない態度に、ソフィアさんは今まで見せた事もない激怒した表情を露わにしていた。


「はっ。聞きたかったら力づくでやってみやがれ!」


 投擲される戦斧がソフィアさんへと向かっていく。


「なめ、るな!」


 ソフィアさんは腕をクロスさせて戦斧を受け止めるけど、ぶつかった時の音は間違いなく人体から発せられる音ではなかった。

 咲夜とはまた違い、明らかに金属同士が激しくぶつかった時のような音が周囲へと響いていた。


「派生スキル[エクスターナルデバイス]展開!」

「おおっ?」


 興味深げにソフィアさんに視線を向けているカティンカに対し、他の4人は隙ありと判断して一斉に攻撃を仕掛けるも、視線をソフィアさんへと固定したままあっさりと返り討ちにしてしまう。


 オリヴィアさんは今度は骨折させられたのか腕が怪しい方向に曲がっていてかなり痛そうにしているけど、それとは対照的に乃亜達は無事だった。服以外は。


「先輩!」

「分かってる!」


 乃亜達が来ているコスプレ衣装がほとんど服として成立していないくらいボロボロになってしまったので、僕は急いでスキルのスマホを操作し、乃亜達の服を直していく。


「ははっ。なんだてめえら。服がダメージを肩代わりする上に直すことも出来るとかおもしれえじゃねえか。

 だがやっぱりこん中で一番面白そうなのはてめえだな。なんだそりゃ?」


 ソフィアさんはまるでSFの世界から飛び出してきたような恰好をしていた。

 腕や足には機械の鎧のような物を身に纏い、背には6本の翼のような金属部品が取り付いている。


 な、なんてカッコいいんだ……!


「アナタを倒すための武器、って事以外、説明必要?」

「ふっ。やれるもんならやってみやがれ!」


 再び投擲された戦斧はソフィアさんへと真っ直ぐ向かって行き――


「はっ!」


 あっさりと刃の部分を真っ二つに斬られてしまう。


「レーザーブレードか? ははっ、すげえ武器が出やがったな」

「その笑ってる余裕、無くしてあげるよ」

「上等!」


 戦斧を斬ってしまう相手にどうするつもりなのかと思ったら、カティンカは再び〔マジックポーチ〕から取り出したであろう戦斧を構えると何か黒いオーラ―のようなもので戦斧を包んで再び投擲した。


「くっ、斬れない?!」


 ソフィアさんは先ほどと同じように戦斧を斬ろうとしたけれど、何故か戦斧は斬れなかった。


「知らねえか? 武器を硬くし保護するスキル[ハードコーティング]だ」

「え、店だと500万で売ってたムダに高いあのスキルなの?」

「お~よく知ってんな。デカい組織だけあって、そういうのを買う金出してくれんだよな」


 僕が思わずと言った感じで口にしたら、それを聞き取ったカティンカが感心しながらお金を稼ぐ前までならかなり羨ましいと思う発言をしてきた。


「だったら避ければいいだけだよ。腕や足の1本は覚悟してもらう」

「さっきからそれが出来ねえくせになにほざいてやがる!」


 ソフィアさんの背に展開する6本の翼の部品の先端から青白い光が噴射し、それと同時に宙に浮かんだソフィアさんが高速でカティンカへと迫っていく。


「加速装置ってわけか? だがそれだけにしちゃ、手足のそれの説明がつかねえなからまだ能力隠してやがるな」

「いつまで余裕な態度でいる気なんだ!」


 ソフィアさんはブースターと思わしき6本の翼を細かくオンオフすることで複雑な軌道を描きながら、予想もつかない動きでカティンカへ接近し、その手に持つレーザーブレードが振るわれた。


「おっと」

「なっ?! ぐあっ!」


 しかしカティンカは余裕の表情でその攻撃を回避し、逆に肘でソフィアさんの腹部を狙ってカウンターをしていた。


「確かにそこそこ速いし動きは予測し辛かったが、残念ながらレベルが低い。その程度であれば十分目も身体も追い付くんだよ」

「くそっ、強い……!」


 ソフィアさんが悔し気に睨みつけるカティンカは、余裕そうにしながら倒れているソフィアさんに追撃せずにニヤニヤといやらしく笑みを浮かべているあたり、かなり性格が悪いと言える。


 だけどこれはチャンスだ。

 向こうが本気じゃない内に仕留めきるか、なんとかカティンカから逃げ出せる程度に隙が作れれば……。


 そう思っていた時だった。


『ご主人様……』

「何? どうしたのアヤメ?」


 アヤメに突然話しかけられたので、そちらへと視線を向ける。

 そう言えば先ほどからずっと黙っていたけどどうしたんだろうか?


『下手に声をかける訳にはいかなかったので黙っていましたが、そろそろ限界なのです』

「え、何が?」

『魔物達を倒す手がいくつかの場所で止まっているせいで、いつまでもここにいたらその内魔物に囲まれてしまいます』

「ウソでしょ!?」


 よくよく周りを見たらかなり離れた位置ではあるけれど魔物達を倒せていない場所からドンドン魔物達が進行してきており、アヤメの言う通りいずれ魔物に全方位から迫られてしまうだろう。


 ヤバい。急いでこの状況何とかしないと。

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