第14話 やべえ女

 

≪蒼汰SIDE≫


 オルガの姉を名乗る女性、カティンカが迷宮氾濫デスパレード中であるのにも拘わらず戦斧を持って襲いかかってきた。


「させません」

「邪魔だ!」


 引率兼護衛兼翻訳の人が率先して前に出てカティンカの攻撃を受け止めてくれたけれど、カティンカの苛烈な攻撃のせいで吹き飛ばされてしまう。

 すぐに引率兼護衛兼翻訳の人は戻ろうとするも、カティンカの配下らしき人に取り囲まれてしまった。


「おいてめえら。その野郎はお前らが相手しな」

「「「イエスマム!」」」


 邪魔ものはいなくなったと言わんばかりに不敵に笑い、こちらを見下す様な視線を向けてきた。


「さぁて、てめえらだけでどこまで粘れるかねぇ?」


 カティンカは舌舐めずりをしてまるで肉食獣のような獰猛な笑みで、乃亜達に攻撃を仕掛けてくる。


「くっ、重い!?」


 下からすくい上げるように振るわれた戦斧を乃亜が大楯で受け止めるけれど、大楯ごと吹き飛ばされてしまう。


 乃亜の体重の軽さではいくら大楯の重量分加算されてもそこまで重くないから、すくい上げるような攻撃には弱いのか。

 今まで乃亜よりも大きな相手がほとんどだったから気づかなかったけど、先ほどのカティンカのような攻撃のされ方では攻撃を一身に受け続けることは難しそうだな。


「あんな重そうな武器を持っているのになんて速さなの!」

「咲夜が、いく」

「1人と言わず、全員まとめてかかって来いや!」


 咲夜が正面からいき、冬乃が[狐火]や[幻惑]で援護しつつ自身も側面から攻撃を仕掛けようとした。

 しかしカティンカは[狐火]を最小限の動きで避け、[幻惑]の紫の煙は戦斧を団扇のように振るって吹き飛ばし、咲夜の拳を戦斧の柄で受け止め、冬乃の脚撃を同じく蹴りで受け止めるどころか弾き飛ばしてしまう。


「くっ」

「きゃあ!?」

「はっ、その程度じゃまだまだ未熟だな。そんじゃあまず1人」

「させません!」


 咲夜を力任せで戦斧を押し込んで少し距離を取らせた後、そのまま頭上から叩き込むように振るわれた戦斧を乃亜が間に入ってなんとか受け止めた。


「[デウス・エクス・マキナ]起動。派生スキル[フルボディオーダー]」


 ソフィアさんは初日で腕と足だけをサイボーグ化していたのを、今回はほぼ全身をサイボーグ化しているようで、見える範囲では顔だけが生身のようだった。


「ははっ。明らかにユニークスキルじゃねえか。俺は別にユニーク狩りには興味はねえが、お前みたいに面白そうなのと戦うのは大歓迎だぜ」

「そう。ワタシはアナタみたいなのはお呼びじゃないね。派生スキル[サードギア]」


 ソフィアさんの身体から高速で何かが回転するような甲高い音が響くと、次の瞬間には気づいたらカティンカの近くにまで移動していた。


「喰らえ!」

「おっと。危ない危ない」


 ソフィアさんが放った拳はわずかにカティンカをかすめただけのようで、顔にわずかに傷が付いただけで平気そうにヘラヘラと笑っていた。


「痴れ者が! [聖騎士]派生スキル[フィジカルアップ]」

「あ゛? てめえは同じユニークでもつまんねぇスキルだしクソ雑魚だな。とっとと寝てろ」

「ぐあっ!?」


 乃亜達4人を相手にしている中、オリヴィアさんも参戦しようとしたのだけど、カティンカは自身に向かってくる姿を一瞬見ただけで実力不足と言い放ち、オリヴィアさんの腹部を蹴って吹き飛ばしていた。


 オリヴィアさんは乃亜の[損傷衣転]の効果が及んでいないために、そのまま体にダメージを負っているため、苦しそうに呻いている。


「ぐうっ、まだだ……。派生スキル[ハイヒール]」


 良かった。傷を癒す手段を持っているようで、蹴られたところに手をやり、そこから淡い光が放たれると苦しそうだった表情がマシになっていってる。


「おら、そこのてめえもぼさっとしてんじゃねえぞ」

「先輩、危ない!」

「うわああっ!!」


 1つしかない戦斧を躊躇なく僕に投げつけてくるので、慌ててオルガを抱えながら横に飛んで回避する。

 投げられた戦斧は何故か不思議な軌道を描きそのままカティンカの手元に、ってそれあり?


「よく避けたな。もういっちょ行くぞ!」

「させない」

「あんたの相手は私達よ!」


 咲夜と冬乃がすぐさま射線を遮るように立ちふさがるも、カティンカは全く気にせず今度は明後日の方に戦斧を投げて、それがまた僕の方に、ってのおおおおおおお!!?


 あ、危なかった。

 い、今かなりスレスレを通っていったよ。


「先輩、[画面の向こう側]で退避をしてください!」

「したいところだけど、オルガを放置しておくわけにはいかないでしょ」

「いやっ、いや……」


 オルガはカティンカが現れてから震えるばかりで一向に動こうとしない為、横抱きに抱えて暴れ回るカティンカからダッシュで逃げるしかないんだよ。


 乃亜達が何とか僕への攻撃を止めさせとっとと倒そうとしているけれど、カティンカが異様に強く5人がかりでも平然としてるとかバケモンじゃん。

 こうなったら少しでも気を逸らさせるしかないか。


「一体何の目的でこんな事を? 今は迷宮氾濫デスパレードをどうにかするのが先なんじゃないのか!」


 僕はカティンカに問いかけ、情報を引き出すと共に少しでも戦闘の邪魔をしてみることにしたら、以外にも返答してきた。


「はっ。そんな事知ったこっちゃねえ。俺はてめえらをぶっ殺せって言われただけなんだからよ!」


 返ってきた言葉は全くありがたくもない事だったけど。


「誰にそんな事言われたのさ」

「てめえらに関わりのある“平穏の翼”だよ」


 またなの!?

 もう完全に名称が矛盾してる組織じゃん。


「んな事より、喋ってる暇があるとか余裕ぶっこいてんじゃねえぞ!」

「これでも逃げるのに必死なんですけど!」


 カティンカの身長くらいはありそうな巨大な戦斧を軽々と振るってくる上に、そんな物を持ってるにも拘わらず素早く動くのだから厄介だ。

 時折その物騒な物を投げつけてくるし、こんなのどうしろと?


「“平穏の翼”……だって?」


 おや、ソフィアさんの様子が……?

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