第13話 敵襲
「思ったより広く場所を確保できたね」
「咲夜が参加してたらもっと広く出来た」
「安全地帯を設置しないといけなかったから仕方ないよ」
安全地帯を最終的に体育館1.5倍ほどの広さで設置することが出来た僕らは、早速安全地帯同士を繋げられる転移門を設置する。
「転移門って言っても門らしさはないよね」
「見た目ただの光の環ですからね」
「環の中がシャボン玉の表面みたいに虹色の半透明な模様になってるからワープゲートっぽさはあるわよ」
「ゲームではよく見る演出だよ、ね」
『ゲームは知りませんが、つい最近見た漫画ではそんなシーンがあったのです』
設置した当人としてはちゃんと使える事を周囲の人に証明するために、僕らは率先してその門を雑談しながら潜っていく。
通り抜けた先には最初に設置した一軒家程度の広さの安全地帯の中心で、間違って安全地帯を壊されないようにするためか、何人かの見張りが立っていた。
「これで僕らがここに呼ばれた理由は完遂した訳だし、後は魔物を倒していくだけかな?」
「2つの安全地帯は設置し終えましたからね。後は好きに動いていいんじゃないですかね?」
一応確認のために引率兼護衛兼翻訳の人に聞いてみたら、それで問題ないそうだ。
せっかくだしレベルを上げられるだけ上げたいから良かったよ。
さっき[助っ人召喚]で呼び出した咲夜が大量に魔物を倒してくれたお陰でレベルもそこそこ上がったとはいえ、出来るだけレベルは上げたいからね。
「へぇ。安全地帯同士を繋げられるって聞いてたけど、こんな風に繋がるんだね」
「無制限に行き来できるのだからかなり便利な能力だな」
「………」
ソフィアさんとオリヴィアさんが感心しながら転移門を通って現れてきた。
オルガは無言ではあるけど転移門の方をジッと見つめているので、何かしら思うところがあるのかな?
そんな事を思っていた時だった。
「△△ーーーーー!!」
「はっ?」
細身の男性が何か叫びながら急に目の前を走って来たかと思えば、転移門を潜り抜けて行ってしまった。
え、一体何なの?
訳が分からず呆然としていた次の瞬間、転移門が砕けた。
「はぁ!?」
「え、なんで急に転移門が砕けたんですか!?」
「こんな事今まで起きた事も無かったわよ!?」
「……もしかして、向こうの安全地帯壊れ、た?」
「「「っ!?」」」
嘘でしょ?
だってこの安全地帯、何もなければ1週間程度は持つし、わざわざ壊す必要なんてあるわけない。
だけど実際には壊れた以上、向こうで何かトラブルが起きたのは間違いない。
「向こうにはまだ何十人もいて、戻って来れてないのに……!」
何人かはこっちに戻って来たけど、ほとんどの人がまだ魔物に囲まれたあの場所に取り残されてしまっていて、かなりマズイ状況だ。
「それが目的だから問題ねえよ」
「なんだって?」
声がした方を思わず振り向くと、僕と同じくらい身長がありそうなグレーのショートヘアーの女性が、そんな事を言いながら僕らに近づいてきた。
「止まるんだ! アナタ、何を知っている」
ソフィアさんが持っている剣を女性に突きつけこれ以上近づかないよう牽制してくれる。
「くはは、怖いボディーガードだな。って、あ゛?」
「……ひっ!」
「なんでこんな所にてめぇみたいなクズがいるんだぁ?」
「や、いや……」
「オルガ?」
女性に視線を向けられたオルガはガタガタと小刻みに震えだし、首を小さく横に振りながらペタンとその場に座り込んでしまう。
「愚妹の分際でまともに挨拶もしねえとかどう言う了見だ、ああ゛」
「妹?」
「ああそうさ。俺はそこでみっともなく震えてるクソガキの姉だよ。カティンカっていうんだ。
よろしくはしなくていいぜ。てめえらはここで死ぬんだからよ!」
突如現れた女性、カティンカが戦斧を振り回し暴れ出した。
◆
≪恵SIDE≫
スキルを使い続けて2日目だけど、多少の眠気はあるもののまだまだ余裕だ。
なんせ【
[不眠]とか眠気を払えるだけで疲れないわけじゃないので、冒険者達の中では不人気商品で物凄く安かったけど、自分にとっては有用なスキルだ。
もっとも限度はあるのでもって4、5日程度だけれど。
時折眠気覚まし代わりに歌ってバフやデバフをかけたりして、グダグダとスキルを使い続けていた時だった。
――ドゴーン!
「え、なに?!」
「恵、敵襲よ!」
ケイから慌てる声が聞こえてきたけど、まさかこんな所にまで魔物が来るなんて。
そう思ったのだけど違った。
「矢沢恵を殺せーーー!!」
「眠らせればどうとでもなる。邪魔なやつらを排除したら標的を討つぞ!」
なんで……?
どうして自分が標的になっているのか分からなかった。
混乱する頭と、ときおり自分の方に飛んでくる魔法に驚いてしまうせいで、全く頭が回らない。
「あたしの親友に手を出そうだなんていい度胸じゃないのよん。全員まとめてぶん殴ってやるわ!」
ケイの怒声にハッとした。
「会長に手出しなんかさせないよ~」
「キチンと守って報酬倍額請求」
このみのゆったりとした喋り方と、鈴のいつも通りの雰囲気にどんどん心が落ち着いてきた。
そうだ、今は狼狽えている場合じゃないし襲ってきている人達の理由なんかどうでもよかった。
自分はパーティーのリーダーとして全力でみんなを支援するんだ!
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