第12話 体育館を1周何秒で走れる?


 ゴーレムとレイスをどんどん倒しながら前へと進んで行くのを、僕は画面越しに眺めていた。

 本来であればこの異空間で冬乃が〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕を撃った後にそれを交換したりするはずなのだけど、今は人が密集していて撃てば他の人を巻き添えにしてしまうため撃てず、結果として交換の必要が無い。


 つまり僕は今、完全にテレビで衝撃映像を見ているかのような状態なのだ。


 うん。自分だけこんなに楽してるとか、みんなへの罪悪感が半端ないよ。

 いても大して戦力になれないから仕方ないんだけれども。


 僕の心情はさておき、戦いの場では他の冒険者達が退路などまるで考えない勢いで魔物達を蹴散らしていた。

 いや、実際に退路なんて考えていないのだった。


 ゴーレムやリビングアーマーなんかは完全に倒すのではなく、足をはらって転ばせることで対処し、出来る限り敵との戦闘を短時間にしつつ他の魔物の壁代わりにすることで体力の温存をしていた。

 転ばせただけでは当然また起き上がって襲ってくるのは分かっているけれど、目的は中央に辿り着きその箇所の魔物の殲滅なので、わざわざ道中で倒したところで意味はないのだから。


 僕がヤキモキしながら画面を見始めて30分くらい経った頃。

 ようやく目的の場所に辿り着いたのか、冒険者達が円陣を組み、外側を向くようにして魔物の殲滅を開始し始めた。


「ようやく目的の場所に辿り着いたのか」

「ですがここからが本番と言っていいですよ」


 それはそうだ。

 なんせ僕らが安全地帯を設置するにはそこに魔物がいたら設置できないのだから、まずは魔物の排除をしないといけない。


「どれだけ魔物を殲滅させられるかで安全地帯の大きさが変わるといってもいいからね。

 まあ最大でも体育館2つくらいの広さなんだけど」

「逆に言えば、それだけの空間魔物がいなくなるまで頑張ればいいだけなのよね」

「でも、咲夜達はここで待機」


 円の中心で遠距離からの攻撃のみ許可されているんだ。

 せっかくここまで来たのに、不意を打たれて万が一殺されてしまっては苦労が水の泡な上に、また30分かけて魔物の群れから身を守りながら戻るのは困難だから当然だろう。


「ワタシ達は一応ソウタ達の盾になる名目で付いてきたけど、ここまで来たなら問題ないね。

 できるだけ多く倒してレベルを上げてくるよ」

「私もだ。こんな機会は滅多にないからな」


 ソフィアさんとオリヴィアさんは意気揚々と魔物達を倒しに向かって行く中、オルガだけはこの場に残っていた。


「オルガは魔物を倒しに行かなくていいの?」

「……いい」


 オルガだけはこの場に残って乃亜達を守ってくれるつもりのようだ。

 万が一を考えるととてもありがたいね。


「〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕を使いたいところだけど、あまり遠すぎたら意味が無いし、近いと巻き添えにしちゃうから[狐火]でチマチマ削るしかできないわね」

「何も出来ないよりマシだと思いますよ。わたしでは仮に遠距離攻撃するなら先輩に適当な物を出してもらって魔物に投げつけるくらいしか出来ませんし」

「咲夜も〝神撃〟だと魔物を大勢倒せても、人にも被害がいっちゃう」

『ワタシが敵と味方の位置を知らせても、攻撃範囲ばかりはどうしようもないのです』


 今更だけど僕らの中では使い勝手のいい遠距離攻撃ができるのって、冬乃だけなんだよなぁ。


 あまり攻撃に参加できずに残念そうにしている冬乃達を異空間の中で見ていたら、いつの間にかかなりの範囲の魔物が間引かれたようで、少なくとも体育館1つ分程度の広さの空間は確保できてきていた。

 だけどそこから思う様に魔物を間引けておらず、冒険者達の間をすり抜けて行こうとする魔物を倒すために戻ったりして一進一退している状況だ。


 見ている限りこれ以上無理そうな気がするんだし、準備だけしておこう。


 僕は[画面の向こう側]を解除して異空間から出てくると、スマホであるスキルの準備をしておくことにした。

 そうして待機している事十数分。

 ロシア側の冒険者でリーダー的な人が中国側のリーダー的な人の元に駆け寄り何か話しかけ始め、数秒後にはこちらに向かって駆けだしてきた。


「●●●●、●●●●」

「△△△△△、△△△△△」


 で、なんて言ってるんですか、引率兼護衛兼翻訳の人?


「今の広さで限界だからこれで安全地帯を設置してほしい、と言っています」

「やっぱりですか。それじゃあ念のため全員が一斉に攻撃を止めてこちらに戻り始めたら安全地帯を設置すると伝えてください」


 それはすぐに2人のリーダーに伝えられると頷かれ、引率兼護衛兼翻訳の人に何か話しかけるとその人達は自分の国の冒険者達の元に行きそれを伝えに動き出した。


「派手な魔法で合図を出すそうなので、その時を見計らってよろしくお願いします」

「分かりました」


 合図が出てこちらに戻ってくるなら、せっかくだし使ってみるとするか。


「咲夜、今から[助っ人召喚]使うけどいいかな?」

「咲夜を呼ぶの?」


 咲夜を名指ししたからすぐに察してくれたようだ。


「うん。出来る限り広い範囲を確保した方がいいし。嫌かな?」

「ううん。蒼汰君が使いたいなら咲夜はいつでも構わない、よ」

「分かった。ありがとね」


 咲夜の許可も得たし後は合図を待つだけだ。


 2人のリーダーが全員に伝え終わってしばらく経った後、ついにその時はやってきた。

 花火のような火魔法が上空に放たれ、あれが光と音で合図になると確信した瞬間にスキルを使用した。


「[助っ人召喚]咲夜」


 僕の前に魔法陣のようなのが現れ、そこから完全に感情らしきものが抜け落ちた咲夜が、現在咲夜が装備している武器と同じ物を装備した状態で現れた。


 ――ドーーン!!


 音が響き、周囲の冒険者達が攻撃を止め反転しだしたのと同時に、僕は助っ人の咲夜に命令を出す。


「咲夜。周囲の魔物を〝臨界〟にて円を描く様に順番に排除して」

『■■■』


 召喚された咲夜は鬼神の姿になり声にならない声を出した次の瞬間、この場からいなくなった。

 と、同時に周囲にいた魔物達が派手に吹き飛んでいき凄まじいスピードで次々と滅んでいく。


「●●●●!!?」

「△△△△△!!?」


 周囲の冒険者は突然のことに驚愕の表情を浮かべているようだけど、さすが実力者なだけあり下手に足を止めずにこちらに向かって来てくれていた。


「よし。それじゃあ召喚された助っ人が消えたら、すぐに安全地帯を設置しよう」

「「「了解」」」


 僕が呼び出した咲夜が〝臨界〟を使った場合10秒ほどしか持たないのだけど、1秒で1周する勢いなので、それでもそこそこの範囲の確保が出来そうだと思いながらその時を待った。

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