第11話 作戦開始


 午前中に昨日と同じペースで魔物達を殲滅していった事で、ゴーレムとレイスの数は心なしか少なくなった、と思う。

 他の冒険者達も広範囲の遠距離攻撃とか使って敵を倒していったけれど、正直昨日戦闘する前よりは魔物の数が減った程度であり、まだまだダンジョンから湧き出しているのか終わりが見えなかった。


 まあ日本の時と違い、2つのSランクダンジョンから魔物が出てくるんだから単純に2倍と考えると、あと4、5日はかかるくらい出てきてもおかしくないのだけど。


 この状況でも作戦を実行するのかと思いながら昼になったので昼食を取った後、この場の指揮役と思われる人達の前に、僕と乃亜達だけが引率兼護衛の人に連れられた。


 ソフィアさんとオリヴィアさんはともかく、何故オルガは一緒に来ないんだろうか?

 ロシア出身だし間に入ってくれるとありがたかったんだけど、問いかけたらこう言われてしまったんだよね。


「オルガは一緒に来ないの?」

「……来るな、と言われている」


 意味が分からない。

 普通、同郷の人物が一緒にいたら、むしろ来てもらうもんじゃないんだろうか?


「●●●●●●●」

「△△△△△△△」


 だって何を言っているのかさっぱり分からないんだよ。これじゃあ連れて来られた意味ないんじゃないかな?

 ロシアと中国の軍人、おそらく階級が上の人物と思われる人達ににこやかに話しかけられたのだけど、英語すらおぼつかないのにロシア語と中国語らしき言語で話されても伝わらないよ。


「ロシア、中国のために危険な場所に来てくれてありがとう、と言っています」


 困っていたら引率兼護衛の人がそう教えてくれた。翻訳まで兼任してくださってましたか。


 そうして話し合いというより一方的に伝えられた作戦としては、当初の計画通り僕らを援護して2つのダンジョンの中央付近で安全地帯を設置するというものだった。


 ここだけ聞くと無謀な特攻をしてこいと言われているようだけど、援護に関しては各国からの実力者が52人ずつ、総勢104人が僕らを守りながら進むことになっており、基本的に戦う必要はないとのこと。


「作戦の実行はすぐに行うことになるのはいいけど、大人の冒険者に大勢囲まれるのは威圧感が凄いね」

「何人か先輩を凄い目で見てる人がいますけど、本当に守ってくださるんですかね?」

「あ~、うん。あの目は大丈夫な目だから」


 こっちを見る人達の割合で言えば、驚愕しているのが8割、嫉妬してるのが2割だし大丈夫だと思う。

 ……嫉妬の目が分かるようになってしまったのは微妙な気分だ。


 学校とかなら驚愕2割、嫉妬8割と割合が逆転しているのだけど、実力者なだけあってハーレムを作っている人が多いから嫉妬する人は思いの外少ないね。

 外国の法律はよく知らないけど、一夫多妻、一妻多夫はある程度の国では認められているらしい。

 ダンジョンから溢れる魔物を間引いたり、資源を得たりするのに冒険者は都合のいい存在なのは間違いなく、国としては冒険者になってもらえるように税金を安くしたりハーレムを許可していたりするのはどこもやっているんだろう。


 お陰で大樹達のような嫉妬の目が少なく、作戦に集中できそうだ。


「それじゃあ早速始めようか。まずはこの地点に安全地帯を創ろう」

「分かりました先輩」

「ええ。それじゃあ手を」

「うん」


 乃亜達4人と手を繋ぎ、いつもよりも小さめな安全地帯、広めな一軒家程度の大きさを創り上げた。


“怠惰”の魔女ローリーからいつの間にか渡された力により、[ダンジョン操作権限(1/4)]は安全地帯同士を繋ぐ転移能力が追加されたわけだけど、それに加え安全地帯の範囲をある程度設定できるようにもなっていた。

 そのためエバノラの言っていたリソースという、このスキルを使用する際に必要なエネルギーもある程度少なく済んでいる。


 まあそれでも少なくないリソースが必要だし、中央は出来る限り広い空間を作る方が良いのは分かり切っているので、今貯えられているリソースの全てを使って安全地帯を創るから、どの道その1箇所しか創れないけど。


「●●●●、●●●●●●! ●●●●!」

「△△、△△△△△△△! △△△△△!」

「安全地帯内で絶対に外の魔物に攻撃するな。それでは作戦開始だ。と言っています」


 引率兼護衛兼翻訳の人がそう僕らに伝えたのと同時に、周囲の冒険者の人達が動き出したので、僕はあるスキルを使って準備をする。


「それじゃあアヤメ。こっちで乃亜達の支援をお願い」

『任されたのです!』

「[画面の向こう側]」


 まともに使ったのこれが初めてなんじゃないだろうか?


 異空間に退避することができるスキルを使い、僕はそこから乃亜達を支援する。

 このスキルを使っている間は乃亜達の周囲のどこかに半透明の板が現れ、僕が表示されているらしい。


 準備と言っても一瞬で済み、僕は瞬時に白い空間内に浮かぶスクリーンの前に移動していた。

 そこから乃亜達を見ると、彼女達はしばし待ってから他の冒険者を追いかけていっていた。


「おおっ、凄いね。さすが実力者を集めたって言っていただけあって、次々と魔物を倒して進んで行くよ」

「退路を全く考えない突進なんて普通しないでしょうが、わたし達のスキルと矢沢さんのスキルを信頼しての特攻ですね」

「死んでも生き返れるのと、安全地帯を転移できなかったら普通やらないわよね」

「たぶん、安全地帯だけだったら誰もやりたがらない、よね」


 いくら実力者でも何の保証もなく魔物の群れの中央まで行ってこいって言われたら、普通に断るよね。

 大量の魔物相手に戦い続けるなんて、いくら格下相手だとしてもスタミナは削られるし、怪我して動きが鈍ればやられる危険もあるのだから、こんな作戦死んでも嫌だろう。

 そう思うと、ホント矢沢さんの存在はデカいと思うよ。


「集団の中央じゃ魔物が倒せなくてどの道経験値得られないからこのスキルを使うことにしたけど、やっぱり自分だけ安全な場所にいるのはみんなに悪いなぁ」

「むっ、鹿島先輩のそのスキルを使うと経験値が得られないのか?」

「そうだよ。だから普段は使わないんだけどね」

「ふむ、そうなのか……」


 僕らと共に来ていたオリヴィアさんは何やら考え出したけど、いくら集団の中心にいるからって油断しない方がいいと思う。


「オリヴィア、魔物が来ないからって今はこんな状況なんだから集中した方がいいんじゃない?」

「あ、ああ。分かっている」


 ソフィアさんがオリヴィアさんをそう注意すると、オリヴィアさんはキチンと周囲を警戒しながら行動した。

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