エピローグ1
≪桜SIDE≫
「異界の住人の捕獲
「……そうか」
一気に老けた様子の土御門課長。
まあそりゃそうさね。
国からの依頼でダンジョンに【
幸いにも死者は0人だったとはいえ、何かしらの責任はとることになるのだろう。
「とりあえず経緯だけ説明してくれ」
「分かったさ」
そう言われて私は捕獲時に何が起こったのかを説明する。
◆
『準備は出来ている。いつ始めてもらって構わない』
『私達は部外者だから学校内に入れないけど、対象が外に逃げ出したのならこちらで対応するわ』
学校の屋上でスマホから2人の女性の声が響く。
はぁ。やる気でないさー。
『おいどうした。返事をしろ』
『本来なら大人数で捕獲しなければいけないところ、私達だけしか動けないのだから体調不良だなんて言ってられないわよ』
「やる気バリバリさぁ……」
『『やる気を出せ(しなさい)』』
土御門課長が私につけたのは、同性の方がコミュニケーションが取れると判断したのか2人共女性。
正直どっちでも構わなかったのだけど、あの課長、妙にセクハラやパワハラを意識して気を付けているのか、わざわざ女性を選抜してきた。
昔冤罪にでもあったのかね?
それはさておき、今現在昼休みの時間であり、このタイミングであれば学校関係者の中で誰が異界の住人かを調べるのに適している。
昼休みに生徒も教師も学校から出る事はほぼなく、抜け出すようなファンキーな事を仕出かす奴がピンポイントで異界の住人でない限り、探知には引っかかるはず。
「それじゃあ早速探していくさ」
『頼んだ』
『お願いね』
精度の上がった発見器に魔力を込めると、前回同様微弱な魔力波が拡散……ちょっと魔力波が強くなってないかね?
大丈夫、これ?
対象に気付かれたりしないのか若干不安になりながら、私は異界の住人の探知を続ける。
しかしその予想通り、返ってきた反応はかなり面倒なものだった。
「学校から逃げ出したさ」
『どこだ!?』
「ちょうどあなたのいる方向さ。あと十数秒ほどで遭遇するはずだけど、位置は分かりそうさ?」
『ああ問題ない。こちらに向かってくる存在を確認した。足止めはするからすぐに合流してくれ』
『分かりました』
「りょ~」
スマホをポケットに仕舞うと、すぐに起動していた魔術を行使する。
魔術師は基本的な魔術に加え、それぞれの特性に応じた魔術を扱うことが出来る。
私の特性は“天秤”。
そして今使う魔術は基本の身体強化の魔術だが、それに“天秤”の特性固有の魔術を掛け合わせる。
先ほどまでこの場所から動かなかった時間を対価に身体強化の効果を倍増させる。
動かなかった時間÷行使する時間=身体強化の倍率
この計算式により、通常の身体強化の魔術は2倍程度だけど、私は最大で10倍まで身体強化を行うことが出来る。
それ以上の倍率だといくら魔力で強化してても体がぶっ壊れるから無理なのさ。
私は屋上のフェンスを飛び越えると、学校の壁を思いっきり蹴って異界の住人が逃げた方へと飛び出していく。
今いる地点だと私が一番遅く着くことになりそうだけど、せいぜい10秒程度の違いかな?
異界の住人は森の中へと逃げ込んだようだけど、そっちは1人待機している場所だ。
木が邪魔で真っ直ぐいけないのが鬱陶しかったけど、すぐに仲間が足止めしている場所へとたどり着いた。
そしてそこには既に仲間が2人、フードを目深にかぶって人相の見えない人物に倒されていた。
「弱っ!?」
「え、それが仲間に対して言う言葉かい?」
フードの人物に呆れた目で見られた気がしたけど、そう言いたくもなるさね。
応援に来たはずの2人が即行で倒されてるとか、もう何しに来たんだと。
「それで、君もボクを捕まえようとしてる魔法使いでいいんだよね?」
「魔術師さ。そう言うってことは“平穏の翼”の関係者だったりするの?」
前に始末したのが私達の事をそう呼んでいたし、この人物もまさかあの組織に関わっているのか?
「ありえないね。あんな目的のために世界を滅ぼしても構わないと思ってる連中と一緒にして欲しくないな」
「ユニークスキル持ちの殺害はこちらにとっても痛い問題さね」
「
「何?」
この人物、一体何を知っているのか?
「大人しく来てもらうことは?」
「う~ん、それは面白くなさそうだね。また怒られることになりそうだし、断るよ」
「なら、無理やりにでも!」
ただ喋っていた訳じゃない。
時間を稼いで私の魔術の条件を満たすためさね。
最大の10倍強化で瞬時に意識を刈り取るさ。
瞬間的に相手に詰め寄った私は――
「おやすみ」
気が付けば意識を失った。
◆
「そんな訳で訳も分からずやられたさ」
「白石君も一瞬でやられているじゃないか。少しは申し訳なさを出したまえよ」
報告をするのに何故申し訳なさを出さなければいけないのか。
「じゃあ逃げられてしまったのか……」
「いんや。あの後普通にラ〇ンを交換してお互い情報交換をすることで話をつけたさね」
「一体何があったらそんな事になるのかね?!」
「下手に干渉しないのを条件に、こっちの欲しい情報をくれるみたいさ」
驚いてる課長を無視してそう言ったら、酷い頭痛がするとでもいいたげに額に手を当てて大きなため息をつきだしたさ。
「……悪くない着地点だと思うことにするか。今日のところはもう下がっていい。後日詳しい情報を知りたい」
「了解さ~」
私は職場を離れた所まで移動した後、誰も見ていないのを確認して私の
「これで良かったさ?」
「バッチリだよ」
私の中からまるで靄のようなものが出てくると、それが集まって蒼汰の友人である仲野が現れる。
「まさか異界の住人がこんなにも身近にいたとはビックリさね」
「それはお互い様だよ。まあ君じゃなかったら、正体を現しても問題ないとは思わなかったけど」
目を覚ました時にはかなり驚かされたさ。
「ボクは今まで通りの生活がしたい。君は僕らの情報が欲しい。WIN-WINな関係だね」
「私にとってはどうでもいい話だったんだけどね」
異界の住人なんかより今まで通りの生活がしたいだけ。
同じ考えだからこそ交渉してもいいと思われたんだろうけど、ホント面倒さ~。
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