第35話 オールスター・カーテンコール

 

≪蒼汰SIDE≫


「…………知らない天井だ」


 人生で言ってみたいセリフの上位に入るセリフを、目を開けた瞬間言うチャンスだと瞬時に判断したのでそれをボソリと呟いてから周囲を見渡す。


 僕が今いる場所は清潔感のある白を基調とした部屋で、どうやら病室のベットで寝ていたようだ。


「えっと……何でこんな所で寝てるんだっけ?」


 ちょっと倦怠感のある体を起こして、若干ぼんやりとしながら何があったのかを思い出す。


 ……………あ、そっか。

 また【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】と遭遇することになったんだっけ。

 しかも2体同時。


 あまりの運の悪さに嘆きたくなるけど、こればかりは仕方がない。

 ……仕方ないのかな? もういい加減そんな理不尽と戦いたくないんだけど!


「あ、先輩、起きられましたか」

「輸血はしたから安静にしていればすぐに退院できるらしいけど、もう起きても大丈夫なの?」

「蒼汰君、無事で良かった……」


 僕が2度と【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】と戦いたくないと心の中で叫んでいたら、すぐ近くにいた乃亜達が僕の顔を覗き込みながら声をかけてきた。


「お、蒼汰。目を覚ましたか」


 僕を心配して傍にいてくれたのは乃亜達だけでなく、大樹も病室の外で待機して起きるのを待っていてくれたようで、乃亜達の声を聞いて部屋へと入ってきた。


「病室は快適そうだな。獣耳のナースがいなかったのはこの病院の残念なところだが」

「いえいえ。女性の看護師の方に世話をしていただけるだけでも羨ましい限りです」

「おいらは世話をされるより世話をして愛でる方がいいんだな」

「は?」


 大樹の後ろからあり得ない存在も一緒にゾロゾロと。


「え、ええ!? 生きてたの!!?」

「先輩、気持ちは分かりますが、ここは病院なのであまり騒いではいけませんよ」


 乃亜がたしなめる様に注意してくるけど、こればかりはしょうがない。


 いや、だって、嘘。死んでたよね?

 もしかして勘違いで、性癖三銃士によく似た別の人が死んでただけだったの?


「鹿島君。目が覚めたんだ」

「あらあら大丈夫? 今目を覚ましたばっかりなんだから安静にしてないとダメよん」

「まぁ~騒ぐ元気があるなら大丈夫じゃないかな~」

「同意」

「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?」

「今どうやって発音したのよ?」


 そんな事言ってる場合じゃないよ冬乃!?

 矢沢さんを始め、そのパーティーも現れたけど、最後明らかに現れたらダメな人が現れたんだけど!?


「なんで生きてるの鈴さん!?」

「地獄の底から帰ってきた」

「嘘でしょ!?」


 ミノタウロスと戦った時、“食われし残骸”として召喚されていた。

 特に鈴さんとは至近距離で顔を見たから絶対に見間違いじゃなく、死んでいたのは確かなのにどうして生きているんだ?!


「こらこら鈴。鹿島君を混乱させるような事言ったらダメだよ」

「でもあながち間違いじゃない。会長のスキルが無ければ死んだままだった」


 え、どういう事?


「実は鹿島君が倒れた後――」


≪矢沢SIDE≫


 最終派生スキルって何?


 そう思って確認したところ、スキルスロットの空き2つを代償に最終派生スキルが獲得できると記載されていた。

 そのスキル名は[役者はここに集うオールスター緞帳よ上がれカーテンコール]。


 その効果を読んだ瞬間、自分は迷うことなく習得し、すぐにそのスキルを発動させた。


 スキルの効果。

 それは[アイドル・女装]のスキル使用者が[コスチュームチェンジ]を発動している間に派生スキルの影響を受けた味方を、任意で生死問わずスキルの影響前の状態で呼び寄せるというもの。


 そして自分は【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】が現れるずっと[コスチュームチェンジ]を発動させ続けている。


 それが意味することは――


 自分が今いるステージに突然緞帳が降り、自分の周囲にいくつもの光が舞い降りて形を作り出す。

 目も開けていられないほどの光量となり、それが収まると同時に緞帳が上がった。


「え、鈴……?」

「死んだと思った」

「鈴~!!」

「姉さん、苦しい」


≪蒼汰SIDE≫


「そういう訳でみんな生き返ったんだよ!」

「無茶苦茶なスキルですね」

「ちなみに【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】と遭遇して一番重症だったのが先輩ですから。他の方は元の状態で生き返りましたが、先輩は出血多量で死にかけていたので」

「死んでた方が元気ってどういう事?!」


 しかも僕、後方支援なのに前衛よりも重症なんだ!?


「ごめんね鹿島君。あの時は死んだ人だけを選択してて、そっちに気が回らなくて」

「あ、いえ、みんな無事ですからそれはいいんですけど……」


 若干やるせない気持ちはあるけど、誰一人死んでないならいいんじゃないかな?


「って、あれ? 矢沢さん、その恰好……」

「もう、気が付くのが遅いよ」


 矢沢さんの現在の恰好、男装っぽい女性服ではなく、スウェットパンツや靴などどう見ても男の恰好なのだ。


「[アイドル・女装]って、男物の服を着られないスキルだったんじゃ?」

「実は[役者はここに集うオールスター緞帳よ上がれカーテンコール]のデメリットで、その効果を使用すると[アイドル・女装]が48時間効果無効になるんだ。

 だからは女装しなくて済むようになったんだよ!」

「おおっ!!」


 デメリットスキルからの解放、それを目の当たりにした――が、その喜ぶ姿は男物の服を着ていても残念ながら女の子かな? と思うレベルなのだけど、口には出さないでおこう。


 それよりも48時間限定とはいえ、デメリットスキルのデメリットが緩和されるのを目の当たりにした以上、ますますダンジョンに潜ってレベル上げをしなければいけないと僕は強く思った。

 課金を自由にできる希望が見えてきたよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る