第1話 なんで君らもいるの?

 

≪蒼汰SIDE≫


「僕は海外旅行とかしたことないけど、みんなはどう?」

「わたしもないですね。旅行は国内ぐらいしかないです」

「私もよ。そもそも旅行なんて幼い頃に一度あったくらいだったかしら?」

「咲夜もない。最近、お父さん達が長期休みの時に家族みんなで旅行に行きたいとは言ってたけど」


 つまり全員が海外に行った経験はということだ。


「初めての海外、旅行で来たかったかな~」


 僕らは今、ロシアに来ていた。

 正確に言うなら、ロシアと中国の境目付近なのだけど。


 その理由は時期外れの迷宮氾濫デスパレードが起きたために急遽招集されてしまったからだ。


 ロシアからの転校生、オルガ・ポポワに乃亜達と共に連れられ、日本のダンジョン関連の政策を行う行政機関であるダンジョン庁にて、ロシアからの要請で僕らが指名されてしまった事を知らされた。

 拒否権はもちろんあったが、このままでは世界規模で影響を及ぼす事と僕らは比較的安全な役回りであること、そして相応の報酬を貰える事から僕らは海外に行くことを決めた。


 パスポートがないと言ったら、移動してる最中に旅行に必要な物と一緒に用意されていたけれど。

 ……拒否権本当にあった? 拒否してもなんだかんだで説得されて連れて行かれた気がするよ。


「まさか海外の迷宮氾濫デスパレードに参戦することになるなんて思いもしなかったよ」

「日本でもまだ1度しかないですからね。もっとも日本では今後はほぼ起こらないはずなので、一気にレベル上げ出来る迷宮氾濫デスパレードに参加できるのは悪い事ではないですけど」


 日本も前までなら迷宮氾濫デスパレードが起きていたけど、1カ月くらい前にSランクダンジョンを占拠していた【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を倒せたので、そのSランクダンジョンの魔物を間引くことが出来るようになった。

 そのため日本ではほぼ間違いなく迷宮氾濫デスパレードが起きる心配はないと言われている。


 ロシアと中国もそんなかつての日本と同じように迷宮氾濫デスパレードが年1のペースで起きているので、その時期に合わせて準備は行っていた。

 なのに今回、ロシアと中国で数カ月は先のはずの迷宮氾濫デスパレードが起き、ほとんど準備が出来ていないタイミングだったため、ダンジョンの魔物が地上に広がっていってしまったのだ。


「凄い魔物の数よね。あの時より凄いんじゃないかしら?」

「そうだね。日本の迷宮氾濫デスパレードの最終日より凄い、ね」


 準備が出来ていない状態で魔物がダンジョンから溢れてしまったのだから、冬乃や咲夜の言うようなくらい地上が魔物で埋め尽くされており、その勢いは僕らが初めて参加した迷宮氾濫デスパレードの一番勢いのあった時以上だ。

 今回の迷宮氾濫デスパレードで違いがあるのは重厚なバリケードではなく、魔法スキルとかで即席で作ったであろうバリケードで中国、ロシアの人達が必死に魔物を倒していて大変そうだというところだろうか。


 それに加え2の魔物が混ざって行進しているのだから、より大変だ。

 ロシアと中国にある迷宮氾濫デスパレードが起きたSランクダンジョンは互いに国境付近に出現していてかなり近い位置にある。

 単純に考えて通常の倍の魔物達が広範囲で押し寄せてくるので、ランクの高いダンジョンに潜れるような強い冒険者でも一気に魔物を殲滅するなんてことは出来ず、例えるなら山火事に対して一般冒険者がバケツ、強い冒険者が消防車で火を消そうとも火の勢いは消しきれないみたいな感じだろうか。

 本来なら前もって準備してダンジョンから溢れてきた時から魔物を倒せるはずが、いきなりダンジョンから出てきたせいでこの場に来た時には手遅れなくらい魔物が外に出てしまったのだから仕方ないのだけど。


「この状況で僕らがやれることって、魔物をまとめて吹き飛ばすくらいだよね」

「安全地帯を2箇所設置しないといけないから、必要なコストの回収ができていいんじゃないかしら?」


 そう。僕らがここにいる理由はただ1つ。

 安全地帯を2箇所設置するためだ。


 本来、[ダンジョン操作権限]により僕らは安全地帯を設置しているため、地上でこのスキルの使用はできない。

 だけどこの場所だけは特別だ。


 なんせ世界で唯一、地上にまでダンジョンの影響が及んでいる場所なのだから。


 Sランクダンジョンが2つ近くにある影響か、この周囲は普段は魔物は出ないけど地面が一部ダンジョンの床に変質している。

 そのため僕らのスキル[ダンジョン操作権限]もこの場所でなら地上でも使えるのではないかと推測された。


 もしも出来るのであればしっかりと休息を取りながら魔物を間引ける、というのが僕らに協力を要請された理由なんだ。

 ちなみに地上にまでダンジョンの影響が及んでいることは口外を禁止されているため、この事はダンジョン庁で初めて知ったよ。


「それじゃあ早速僕らが指定された場所で魔物を間引いて行こうか」

「今回はダンジョンに潜ったりするわけじゃないからまだ気楽ですよね」

「前みたいに【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】が出てこないといいけどね」

「出てきても、世界中からベテラン冒険者さん達がいっぱい来てるし、大丈夫なんじゃない、かな?」


 僕らはここを仕切る人からの指示で、指定された場所へと移動することにする。


「思いっきり戦うのは久々かな。じゃんじゃん倒していくよ」

「私はこのような大規模な戦闘に参加するのは初めてだな。腕が鳴る」

「……頑張る」


 ……ソフィア、オリヴィア、オルガと共に。


 なんで君らも一緒に来てるの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る