第24話 おかわり


「咲夜先輩、交代です!」

「分かった」


 乃亜が咲夜の元へと駆け寄ると、すぐさま片瀬さんの攻撃を受け止めた。


 ――ゴゴンッ!


 先ほどのように鈍い音はするけれど、乃亜の表情は苦悶の様子1つ見せず平然としていた。

 メイド服に加えて[強性増幅ver.2]の効果がキッチリ働いているんだろう。

 着ているメイド服も破れたりしていないので、ダメージを一切受けていないことがうかがい知れる。


「いけそうです! 咲夜先輩、しばらく冬乃先輩と協力して足止めしますので、先輩のところで授乳プレイしてきてください!」


 ふぁ!?

 何言ってるの乃亜!?


「わ、分かった」


 分かっちゃうんだ!?

 はっ! そう言えば[強性増幅ver.2]の効果は僕に好意を持っている人にも効果が及ぶスキルにパワーアップされていたんだった。

 つまり乃亜は咲夜にもエッチな事をして強化してきて欲しいと言っているんだろうけど、授乳プレイの言葉のインパクトが強すぎて、とてもそうには聞こえないよ。


「返して。私の赤ちゃんを返してーー!」

「先輩はあなたの赤ちゃんではありません。わたしの夫です!」


 彼氏飛び越して夫は止めよう。


「あああ! 返してー!!」

「正気に戻る気配は一切ないですね」


 今さっきのセリフのどこに正気に戻らせるワードがあったの?


 思わずツッコミを入れたくなるようなセリフとは裏腹に、戦闘は激しいものだった。

 片瀬さんがまるで壁をハンマーで殴り壊すかのような音を、何度も何度も乃亜の大楯を蹴って周囲へと響かせているけれど、先ほどまでの乃亜と違って苦悶の表情1つせずに全て受け止めている。


「先輩のところには行かせません!」

「乃亜さんだけに任せたりしないわよ[幻惑]」

「っ!」


 片瀬さんはすぐさまバックステップをして冬乃の放った[幻惑]を避けた。


「あれだけ素早く動かれると[幻惑]じゃ無理ね。もっとも正気じゃない相手に[幻惑]がどれだけ効くかは謎だけど。

 ……ちっ、[天気雨]が使えたら、とっくに抑え込めてるのに!」


 冬乃の新しいスキル[天気雨]。

 能力の詳細は本人が説明拒否したからどんな能力か知らないんだよね。


 ただ、そのスキルを確認した直後――


「私まで巻き込むんじゃないわよーーー!!!!」


 っと、絶叫した後に――


「このスキル、使う条件が厳しすぎて使えないわ」


 って言ってたから、使えないスキルについては考えなくてもいいと思ってたけど、やっぱりどんなスキルなのか気になるな。

 この場面で使えるスキルとなると、やはり乃亜のスキルみたいな特殊な強化系なんだろうか?


 そんな事を考えていると体がフワリと持ち上がった。


「ん、戻ってきた」

「だ(おかえり)」

「それじゃあ、お願い」

「ばぶ(待って)」


 僕は片手を上げて、咲夜の行動を止めた。


「どうしたの?」

「ばぶばぶば、あぶぶ(いくらスキルでの強化のためとはいえ、少しは恥じらいを持ちなさい)」


 まさか1つ上の女の子相手に、お父さんのような発言をすることになるとは思わなかった。

 今赤ん坊な上に喋れてないけど。


「何が言いたいのか分からない……」

「あぶぶ(でしょうね)」

「けど、蒼汰君が多分咲夜の事を思って何かを言ってくれたんだって事は伝わって来たよ」

「ばぶば(まじか)」


 こんなガチ赤ちゃん言葉で伝わるものなのか?

 なんで分かったんだと言いたいよ。


「咲夜も少し恥ずかしいって思うけど、蒼汰君なら、いいよ?」


 激しく動いていたのもあるかもしれないけど、咲夜が頬を赤らめてこちらを見下ろしているその表情はドキッとしてしまった。


「蒼汰君に今からおっぱいを吸われるんだって思うと、胸がドキドキしてきた」


 ううぅ。抵抗するだけ無駄だろうし、やるしかないのか……。


「先輩、遠慮はいりません。わたしの時のように思い切ってやっちゃって下さい!」

「乃亜さんが完璧に守ってくれてるとはいえ、あまり時間をかけてる暇ないわよ」


 冬乃の言う通り、今も乃亜があの大楯で片瀬さんの攻撃を防いでくれているけれど、遠くに潜んでいる中川と門脇が何をしてくるか分からない以上、早めに片瀬さんを撃退した方がいいのは間違いない。


「1回やったなら、2回も3回も一緒。どんとこい」

「ばぶ……(分かったよ……)」


 正直、赤ちゃんプレイは精神をえぐられるから、出来ればやりたくないプレイだよ。

 そのことを思い知らされるとは、今日マンションの部屋を出る時は想像すらしなかった。

 いや、自分が赤ん坊になってこんなプレイするなんて、想像できる人間はいないだろうけど。


 すーはー……、よし。

 僕は赤ちゃん。僕は赤ちゃん。僕は赤ちゃん……。


 うーあー。


「っ、よしよし」


 あー。


「んっ、ちょっと、くすぐったい」


 だー。


「……変な気分になってきた。もういいか、な?」


 ――トントン


 っ!


「ありがと。多分これで強くなった」

「ば、ばぶ……(そ、そう……)」


 精神的にドッと疲れたけど、これで乃亜と咲夜がMAXで強化されたのなら良かったよ。


「冬乃ちゃん、蒼汰君をお願い」

「分かったわ」


 咲夜の呼びかけに冬乃がすぐさま戻ってきて、咲夜から僕を預かった。


「冬乃ちゃんも強化出来そうなら、蒼汰君にしてもらうといい、よ?」

「私は無理よ!!!」


 冬乃が誰よりも顔を真っ赤にし、狐耳と尻尾を逆立てて叫んでいた。


 うん、普通は無理だよね。

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