第23話 ベイビーハート

 

「先輩が何を言っているのか分かりませんが、赤ちゃん相手に何を言っているんだと思っていることでしょう」

「あだ(よく分かったね)」


 僕はコクリと頷いた。


「しかし先ほどあの人の攻撃を受け止めて分かったのは、[強性増幅ver.2]の効果で強化しないと安定して受け止められそうにないと思ったんです。

 それほどの衝撃が腕に伝わってきました」

「うー(メイド服だけじゃダメなの)?」


 僕はスマホを操作して、現在冬乃に着せているメイド服を乃亜へと移すジェスチャーをした。


「確かにそれでもパワーアップしますが、より強化していた方がいいとは思いませんか?」

「あー、う~(確かにそうだけど、今僕赤ん坊だよ)?」


 僕は身振り手振りで何とか自分が赤ん坊で、エッチな事って言われてもどうすればいいのか訴える。


「安心してください、先輩。世の中には色々なプレイがあります」

「ばぶ(何も安心できない)」


 雲行きが怪しくなったぞ。


「今先輩は赤ちゃんです」

「ばぶ(そうだね)」

「そしてわたしは女です」

「だぁ(男ではないのは間違いない)」

「つまり授乳プレイです」

「ばぶっ(ホント何言ってんの)!?」


 いきなり結論が飛んだんだけど、赤ちゃん=授乳の図式は微妙に間違っていない。

 しかし問題はそこにプレイと付くことで、いやらしさが倍で収まらないほど増すことだ。


「先輩は恥ずかしいかもしれませんが、わたしも大変恥ずかしいです」

「ばぶ(でしょうね)」

「ですが先輩なら受け入れられます。どんとこいです」

「ばぶ。あだだだばぶあ。うーうーばぶあぶあ(待って。乃亜は覚悟ガンギマリかもしれないけど僕にはないよ。年下の女の子相手に授乳プレイとか精神的にヤバいよ)!」

「え、いつでも来い? すぐにでも吸いたいって?」

「うー、ばぶあ(言ってないし、どんな意思疎通の間違いだよ)!?」


 そんなエロゲの主人公みたいな難聴発揮しないでよ。

 乃亜の脳内で都合のいい会話が行われてないかい!?


 ――ガギギギギギィン!


「くっ、強い……!」

「あんた達、やるならとっととやりなさい! いつ、この人が私達を抜けてそっちに行ってもおかしくないんだから、時間をかけないでよ!」


 咲夜達の方を見ると片瀬さんの足技の応酬が凄まじく、それを受け止め続ける咲夜は苦悶の表情を浮かべていた。

 [鬼神]の出力を上げれればいいんだろうけど、さっきまで中川相手に使い過ぎてたから、下手に全力を出せば動けなくなるかもしれないのでセーブしているんだろう。


「先輩、迷ってる暇はありませんよ」


 し、仕方ないか……。


「では先輩……。は、恥ずかしいので、出来ればあまり見ないでお願いします……」


 顔を赤らめながら自身の胸へと僕の顔を近づける乃亜。


 胸を揉むだけじゃダメなのかなー?

 教室とかで起きる[ゲームシステム・エロゲ]のデメリットによるエロハプニングで、何回も揉んでるからそっちの方が吸うよりいいんだけど……。


 大樹に言ったらぶっ殺されそうな思考をしながら、下乳が見えるほどボロボロになった服を見る。

 僕からしたらこれだけで十分エロいけど、[強性増幅ver.2]は乃亜が性を感じないといけないから意味ないんだよね。


 とりあえず試しに乃亜の胸を触ってみる。


「んっ」


 ムニっとした柔らかい感触が、僕の小さな手全体で感じられる。


 これじゃあダメなんだろうかと、何度も胸を押し込んでみた。


「駄目ですよ先輩、女の子の胸でそんな風に遊んじゃ」


 普通に叱られた。


「先輩に胸を揉んでもらうことが何度もあったせいか、今先輩が赤ちゃんの姿なだけあって、エッチな事よりも和みを感じます」


 僕に胸を揉まれすぎて慣れてしまった結果、赤ちゃんの姿じゃ大した力もないのも加わってエロく感じないのか……。


「ですが、たとえ今の姿が赤ちゃんであっても先輩に胸を吸われたら、先輩に初めて胸を吸われてるんだと思えてエッチに感じられると思います。さあ早く!」


 くっ、こうなったら無心、いや無理。

 この状況で無心になれる思春期男子はいない。

 ならば赤ちゃんになりきって、赤ちゃんの心でおっぱいを吸おう。

 乃亜がエロく感じる必要はあっても、僕がエロく感じる必要はないのだから。


 うー(ごはんー)。


「きゃ、先輩いきなりですか。ひう、こそばゆいです……」


 あー(………)。


「ただ吸われているだけなのに、なんだかいけない気持ちに……いえ、それでいいんでしょうけど、新たな何かに目覚めてしまいそうです……」


 だー(………)。


「せ、先輩、先輩。もう大丈夫ですから。は、放してください……」


 ――トントン


「あっ(はっ)!」

「先輩、ありがとうございました」


 気が付けばなんか顔が上気して色っぽい表情になっている乃亜が、僕を見下ろしていた。

 自分が何をしていたのかいまいち覚えていない。

 無心になれないと思っていたけれど、赤ちゃんの気持ちになりきって行動したら意外と無心になれるものなのか。


「それでは先輩、わたしも参戦しますので大楯の登録をお願いします」

「だっ(了解)」


 さっきまで戦闘中で〔報復は汝の後難と共にカウンターリベンジ〕を[チーム編成]で乃亜の〈武具〉へと登録。

 これで隙を見て再召喚すれば、何度でも【典正装備】の能力をインターバル無視して発動できる。

 ついでにメイド服を乃亜へと着せ替えることにした。

 これで片瀬さんの攻撃を確実に受け止められるようになるはずだ。


「ありがとうございます先輩。それでは咲夜先輩とので、ここに降ろしますね」

「ばぶ(分かった)」


 ……ん? 替わる?

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