第22話 バーサーカー
「返してーーー!!! [身体強化][金剛][剛脚][痛覚遮断][制限解除][自動再生][狂騒]!!」
一気に7つ!?
スキルを7個同時に使用した片瀬さんの脚がドンドン膨張し、服が少し破れて露出した箇所から見える肌は、血管がボコりと浮き出ていて今にも出血しそうな感じになっていた。
片瀬さんは自身の脚が変化している最中も咲夜の方を向いていて、赤ん坊を奪った張本人ではなく、赤ん坊を取り返そうとするつもりのようだ。
いや、でも、このまま片瀬さんに僕を渡せば、さっきまでのように落ち着いてくれるのでは?
いつの間にか[鬼神]の全力を解除していた咲夜をチラリと見ると、僕と目が合って頷いたので同じ考えに至ったんだろう。
咲夜は彼女に僕を手渡そうと動こうとした時だった。
「おっと、彼女にその少年を返すのはおススメしない。あれだけ強化系のスキルを重ねた彼女に赤ん坊を渡せば、抱き殺されること間違いなしだ。
こちらとしてもそんな事になれば、彼女が正気に戻るのに少なくとも3日はかかってしまうので止めて欲しい。
まあどの道少年が何かのはずみで死んでしまえば結果は同じかもしれないが、少年だけ運よく生き延びてくれると後々楽なのでな。
他の少女達は精々苦しまないよう殺されることを祈りたまえ。[気配遮断]」
あっ、自分だけちゃっかり逃げやがった!?
しかも僕を片瀬さんに預け渡す選択肢をキッチリ潰して行ったよ。
いや、教えてくれなかったら、あの腕の中で圧死していたから助かったんだけど……。
「私の、赤ちゃんーーー!!!」
「はやっ!?」
ドンッと大きな音がしたと思ったら、片瀬さんがまるで大砲のように真っ直ぐ飛んできたので、咲夜は慌てて避ける。
うっ、赤ちゃんの体だと急に移動されると負荷がキツイ……。
「返してーー!」
「なっ!?」
片瀬さんはまるでピンボールの様に地面に着地した後、そのまま天井まではね跳び、天井を蹴って咲夜へと再び襲ってきた。
いや、どんな身体能力なんだよ!
「はああっ!」
咲夜が僕を守るように抱きかかえたまま、片瀬さんを迎え撃つ形で回し蹴りを放つ。
それに対抗するかのように、片瀬さんは空中で素早く縦に半回転して足で踏みつけようとするのが見えた。
――ガキンッ!!
まるで金属同士がぶつかったかのような音が周囲に響く。
2人ともどんな体してるんだよ。
そんな風に驚くことが出来たのは最初だけだった。
「返して、返して、返して返して返して返して返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せーー!!」
「ちっ」
――ガギギギギギィン!
まるで刀同士を連続で打ち合い続けたかのような音が目の前で聞こえる。
片瀬さんの執拗に脚で蹴り続けてくる攻撃を、咲夜は下がりながら同じように脚で受け止めていた。
僕を抱えていて手が使えないからとはいえ、こんな慣れない戦い方ではいずれ押し負けてしまう……!
「返せーー!!!」
ポタポタと脚から血が滲み出ているにも拘らず、片瀬さんは攻撃を止めないのも厄介だ。
おそらく[制限解除]で肉体の限界を超えているのを、無理やり[自動再生]で回復し、それにまつわる痛みを[痛覚遮断]で無視してるのか。
もしかしたら[狂騒]ってスキルも、精神を興奮させて脳内麻薬を分泌させるような役割を担っているのかもしれない。
自身を顧みない、なんてスキルの使い方なんだ!
「私の赤ちゃん!」
「させません!」
――ゴンッ!
乃亜が咲夜と片瀬さんの間に割り込んで大楯で攻撃を受け止めてくれた。
「[狐火]」
「ぐっ!」
片瀬さんは突然の炎に、逃げる様に後ろに下がって距離をとる。
「待たせたわね。残りの1匹も倒したから、見えない敵に怯える必要はないわ」
おおっ!
強化されたラミア達を全て倒して、冬乃も来てくれたか。
「わたしが相対していた人は、中川って人が逃げた方とは逆に走り去ってしまいましたから、先輩を存分に守れます」
なんて頼もしいんだ乃亜。
今までも守りに関しては凄い頼りにしていたけど、僕が赤ん坊になってるせいか今日ほど安心を感じることはないよ。
「この人を残して逃げたけど、まだ近くにいるだろうから油断できない」
「ですね。おそらくわたし達がここから逃げようとしたら、離れたところから攻撃してきて、この場から逃がさないように潜んでいるんでしょう」
なんとも姑息。
だけど下手にこの場にいたら、片瀬さんのトリッキーな動きに巻き込まれるから逃げるのは当然か。
僕らを逃がさないようにするという点においても当然の選択ではあるけど。
「咲夜先輩。先輩を渡してください。そして咲夜先輩と冬乃先輩で少しだけ時間を稼いでもらっていいですか?」
「「わかっ――」」
「私の赤ちゃんー!」
咲夜達が言い終わる前に片瀬さんが絶叫を上げながら突っ込んできたので、咲夜が慌てて投げ渡すかのような勢いで僕を乃亜へと押し付け、片瀬さんと対峙した。
――ガキンッ!
「咲夜がこの人の攻撃を受け止める」
「なら、私は後方から援護するわ」
いつもなら乃亜の役割である、タンクの役割を咲夜が防御に専念することで行い、その後方から冬乃が[狐火]を放っていた。
いくら[痛覚遮断]スキルがあっても、火は本能的に恐ろしく感じているのか回避行動を行っていて、僕らに近づこうとも咲夜が壁となり冬乃が行動を阻害するので、近づくことが出来そうになかった。
しばらくは時間を稼げそうだけど、乃亜は一体何をするつもりなんだ?
「先輩、それではわたし達はエッチな事をしましょう」
「だぁ(赤ん坊相手に何言ってんの)?」
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