第21話 返して!

 

「あと一息だったのに、しぶとい奴らだ。[貫通]」

「そう簡単に殺されたりしないです!」

「くそっ、避けられたか」


 先ほどまで門脇の槍の攻撃を避けることも出来ずに、大楯で受けるしかなかった乃亜だったけど、今は身体能力が上がって速く動けるようになったためか、攻撃が避けれるようになっている。


「このっ!」

「くそっ!」


 それどころか大楯を振り回して、反撃すらしていた。


 [貫通]を交えての攻撃時に避けれるかは運もあるだろうけど、少なくとも先ほどまでと違い、一方的に攻撃を受け続けたりせずに、避けたり攻撃したり出来る今なら大分時間を稼げそうだ。


 一方、咲夜の方は援護を受ける前は押されっぱなしに見えたけど、今は完全に互角の戦いをしている。


「[衝波]」

「うっ。……まだ、手を隠し持ってるの」

「君らの様な人間を殺すために、死に物狂いでスキルを探したんだよ。もっとも、それも君には効かないのだから堪ったものじゃないな」

「そうでもない。結構効いてる。[手当][自然治癒向上]」


 中川が双剣を打ち合わせると、そこから何かが飛んでいったのか、咲夜は軽く後ろに押されていった。

 どうやら[衝波]は衝撃を増幅させて、それを一定方向に飛ばすスキルなのかな?


 それを受けた咲夜は一見平然そうにしているけど、[治癒術]の派生スキルを2つも使うくらいだから、思いのほか内部にダメージが浸透したのかもしれない。


 それにしても[治癒術]を使ってるところ初めて見た。

 [手当]は手で触れた箇所の傷を癒し、さらに[自然治癒向上]で継続的な回復をする。

 乃亜の[損傷衣転]があるから、日の目を見ることはないかと思ったけど、[損傷衣転]が機能しないほど服がボロボロになった時には、必須のスキルだね。

 使う機会がほぼないとか思っててゴメン。


「お返し」

「[先読み]、ぐっ! 躱し損ねたか」

「さっきまでの咲夜とは違う」

「だろうな。先ほどと違って攻撃を当てられるし、下手に攻撃を剣で防ぐと手が痺れる」


 さっきまでは[先読み]を使われたら、攻撃をしても余裕でかわされてたけど、僕のスキルで援護してからは攻撃が当たるようになり、今も放った回し蹴りを中川は避けられずに剣で防いでいた。

 しかし咲夜の[鬼神]は全力じゃなくても、剣を蹴って肌に切り傷がつかないってホント凄いな。


「そこっ!」

「ギャッ!」


 あっ、冬乃が見えなかったラミアを1体倒したようだ。

 先ほどまで姿を完全に隠していたのに、冬乃におそらく殴られた際に打ちどころが悪かったのか、姿を隠すこともなく、壁にもたれ掛かったままピクリとも動かない。

 ラミアの体が光って消えていったので、これで残りは3体だ。


「段々どこにいるのか、ある程度分かるようになってきたわ」


 冬乃は獣耳をピクピクと動かして、周囲を油断なく警戒している。

 さっきまでは大雑把にしか位置を掴めていなかったようだけど、音と匂いで相手の位置を把握するのに慣れてきたのか、ほとんど決まった場所に視線を向けているので、しばらくすれば3体とも倒せるくらいには余裕がありそうだ。


「ばぶ(ポチっとな)」

「なっ、蒼汰!?」


 だからこそ冬乃にメイド服を着させよう。


 冬乃の全身がキラキラと輝きだした瞬間、冬乃がなんで私なのよと言わんばかりの目を向けて来たけど、その抗議は受け付けません。

 文句があるなら、とっととラミア達を倒してください。


「そこよ、[狐火]!」

「「ギギャッ!」」


 おお、張り切ってる張り切ってる。

 今ので2体同時に倒したみたいで、残り1体だ。

 すぐに倒してくれるだろうから、乃亜か咲夜どちらかの援護に回ってくれれば一気に形勢逆転だ!


「はぁ。少年が何かする前に倒しきれなかったこちらのミスか」


 おや、中川が咲夜と戦いながらもどこか諦めたような雰囲気を醸し出していた。


「蒼汰君を返してくれるなら、どこにでも行けばいい」

「生憎だが、片瀬君から赤ん坊を引き離そうとは思えないよ。無理にでもそんな事をすれば、敵味方関係なく彼女は暴れるからね」


 中川は何故か2本の曲刀を〔マジックポーチ〕に仕舞って、戦うのを止めてしまった。

 一体どうしたんだろう? と、思った時だった。


「だが、今は彼女の力が必要だ。[瞬間ブースト]」

「ばぶっ!?」


 急に中川が片瀬さんと僕に向かって猛スピードで駆けてきて、そのまま片瀬さんから僕を奪い取った。

 いきなりの事に咲夜は慌ててこちらに向かって来ているけど、中川は僕を片瀬さんから奪った後、そのまま止まることなく走っていた。


「門脇君!」

「それをするなら先に一声欲しかったですよ中川さん」


 門脇は中川に名前を呼ばれてようやくこちらの状況に気が付いたのか、慌てて片瀬さんから離れる様に走り出していく。


「蒼汰君を返して!」


 咲夜が中川を全力で追いかけるためか、[鬼神]を全力で使い、自身を鬼の姿に変えていた。

 あっという間に咲夜が中川に追いつく、その時だった。


「ほら、受け取れ」

「えっ? わっ、あわわ」

「ばぶっ!?」


 僕は中川に咲夜に向かって放り投げられ、咲夜は慌てて僕を受け止めてくれた。

 一体どういうつもりなんだ?


 その答えは咲夜の背後から響く怒声ですぐに理解させられた。


「私の赤ちゃんを返してーーー!!!!!」


 片瀬さんを戦いの場に引きずり込むことが目的か!?

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