第19話 初めて………嬉しい

 

 先輩にデメリットスキル持ちだけどいいのか聞いたら、逆に襲撃したのにパーティーに入れてもらってもいいのか聞かれた。

 うん、それ言われるとデメリットスキルが霞んで見えるね。

 まあ四月一日わたぬき先輩が気にしないのであればいいんだけど。


「それに咲夜のレベル、低いけど、それでもいい?」

「え? 僕らと戦った時は普通に強かったですし、“迷宮氾濫デスパレード”参加試験の時だって、僕らよりも早く試験を終わらせましたよね?」


 それなのにレベルが低いって、あっ、魔素親和症候群か。


「見れば、分かる」


 ───────────────

 四月一日 咲夜

 レベル:8

 HP(体力) :314/314

 SV(技能値):108


 スキルスロット(2)

 ・[鬼神]

 ・[治癒術]

 →派生スキルⅠ:[手当]

 ───────────────


「いや、レベルの低さなんて関係ないくらいHPやSVが高いじゃないですか!?」


 というか、組んでもらうこっちが逆にいいのかと問いたいくらい差があるんだけど!

 僕らの5~6倍は強いってことなんじゃないの、これ!?

 しかも[鬼神]とか凄そうなスキルまであるし……。くっ、僕との差が酷い!!


「ステータスを見てからでなんですけど、本当にわたし達とパーティーを組んでもらってもいいんですか?」

「うん。そもそも冒険者としてまともに活動してないから」


 言われてみれば、スキルを獲得して1年以上は確実に経っているのにレベルが低いのだから、ほとんどダンジョンに潜っていないことは想像に難くない。

 ん? そしたら僕らとパーティーを組む意味、というか四月一日わたぬき先輩のメリットがないんじゃ……?


「えっと、でしたら四月一日わたぬき先輩が――」

「咲夜」

「はい?」


 四月一日わたぬき先輩に僕らと組むメリットを聞こうとしたら、それを遮られて名前を告げられた。


「苗字じゃなくて、名前で呼んで欲しい」


 あまりにも唐突なので、思考が一瞬停止してしまった。


「分かりました、咲夜先輩!」


 どうしようかと考える前に乃亜が真っ先に口を開いていた。


「分かりました咲夜先輩」


 白波さんもそれに続いて名前で呼んでいる。

 2人とも凄い対応の早さだ。


「敬語も、先輩呼びもいらない。同じパーティーで対等な、なっ、仲間……なんだから」

「そう? 年上に対して敬語を使わないのはちょっと違和感あるけど、分かったわ咲夜さん」

「咲夜先輩、わたしは普段からこの喋り方なので気にしないでください!」

「うん、分かった。乃亜ちゃん」


 女性同士が仲良くなるってあっという間だな~。


「あっ、だったら私も高宮さんや鹿島、咲夜さんには白波じゃなくて、冬乃って呼んで欲しいわね」

「でしたらわたしも名前でお願いします、冬乃先輩」

「ええもちろんよ、乃亜さん」

「よろしくね冬乃ちゃん」

「ちゃん付けで呼ばれるのは少し恥ずかしい気もするけど、まあいいわ」


 うむむ、急に名前呼びするのは少し気恥ずかしさを感じてしまうけど、ここで変に壁を作るのは良くない気がする。

 よし。だったらいっその事、乃亜と同じように呼び捨てした方が乃亜と同等に接してると思われるだろうからそうしよう。

 ちょっとハードルが高いけど、ここは思い切っていこう。


「じゃあ冬乃と咲夜も僕を蒼汰って呼んでよ」

「分かったわ蒼汰」

「よろしく蒼汰君。……家族以外で初めて名前で呼び捨てされた、嬉しい」


 白波──ではなく、冬乃はすんなりと受け止め、咲夜に至っては感激していた。

 理由を察してしまうだけに、ちょっと泣けてくるね。


「そう言えば咲夜先輩がこの“迷宮氾濫デスパレード”に参加するとは思わなかったですね。あまりレベルも上げてないですから、魔物やダンジョンには興味ないのでは?」

「興味はないけど、罰だったから……」

「罰って何よ?」

「……みんなを襲った罰」

「「「あ~」」」


 思わず納得してしまい声が出ていた。


「“迷宮氾濫デスパレード”参加試験を必ず受ければ、今回のことは不問にするって言われたから受けた」

「あれ? でも僕らはあの時明確な証拠を提示出来なかったから、厳重注意程度になりそうみたいな事言ってたと思ったけど……」

「咲夜さんは事情聴取の時に私達を襲った事とか喋ったんですか?」

「さあ?」

「え、なんで疑問系なんですか?」

「蒼汰君が大丈夫かなって考えてたら、話聞いてなかった。曖昧な返事はした、ような?」


 咲夜の優しさが見えるけど、人の話はちゃんと聞こうよ。


「気づいたら試験の案内の紙を渡されて、これを受けるようにって言われた」

「だから“迷宮氾濫デスパレード”に参加したんですね。しかしそうなると、咲夜先輩がわたし達に付いてダンジョンの探索をするメリットがないのでは?」


 それは僕も聞こうと思っていた。

 僕や乃亜はデメリットスキルをどうにかしたいし、冬乃はお金を稼ぐのが目的だけど、咲夜には何の目的もないことになってしまう。


「誰かと一緒にダンジョンに行くのは楽しそう。だから問題ない」

「いいの、咲夜さん? ほぼ毎日ガッツリダンジョンに潜ってるんだけど」

「むしろ嬉しい。毎日一緒にいられる……!」


 目を輝かせて咲夜は喜んでいた。

 なるほど。

 誰かと一緒にいること。それが咲夜の目的という事かな?

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