第28話 素のハニトラ

 

 倒したサイラスが気を失っている内に[自爆]や[シャドウフィギュア]などで簡単に逃げられないようにガチガチに拘束した。

 僕が[フレンドガチャ]から取り出したロープだけでなく、かなり頑丈そうな手錠まで出してかけておいた。


 気を失っているからそこまでする必要があるのかと思わなくもないけど、万が一逃げられてまた戦う羽目になるのは嫌だからね。


 そんな訳でソフィアさんと一緒にサイラスを完全拘束した後、乃亜達を回復させようとした時だった。


「ソウタ、やった……やったよ! ようやくあいつを捕まえられた!」

「いや、ちょっ!?」


 ソフィアさんがかなりのハイテンションで僕に抱き着きながら喜びを爆発させたんだ。

 ビキニアーマーみたいな恰好のまま。


「お、落ち着いてソフィアさん!?」

「何を言っているんだいソウタ! これが落ち着いていられるわけないじゃないか。

 ワタシはアレを止める手がかりを得るためにソウタの元に来たと言っても過言じゃないのに、まさか手がかりどころかこうして捕まえることができるだなんて。

 ああ、本当にソウタの元に来て良かった!」


 喜んでいるソフィアさんには悪いけどそれどころではない。

 なにせほぼ半裸の女の子にくっつかれているのだ。


 たとえ相手がメカニックな体になっているとしても胴体部は素肌にしか見えず、触れ合っている感触は人体としか思えない感触なせいで色々とヤバイ。


「もしもワタシ1人だったら手がかりを得たとしてもアレを捕まえられなかったし、ソウタにはもう感謝しかないよ! チュッ」

「ふぇっ?!」


 ソフィアさんがほっぺたにキスをしてきたせいで僕はさらに狼狽してしまう。

 しかも1度だけでなく何度も何度も頬にキスしてきて喜びの感情が抑えきれていないのかまるで止まらない。


 そんな事をしているせいか、ソフィアさんの体温が上がってきたのかそれとも自分の体温が上がってきたのか分からないけど、この状況に体が少し火照ってきた。

 少しだけ落ち着いてきたソフィアさんがキスを止め、潤んだ瞳で僕の顔をジッと見つめてきた時だった。


「おい、何をしているんだ?!」

「ん? ああ、オリヴィアか」


 もしかして唇にキスするつもりなのかというタイミングで、カティンカを自衛隊の人に預けに行ったオリヴィアさんが戻ってきた。


「ここ最近大人しいと思ったら私のいない隙を狙って鹿島先輩を篭絡しようとしていたな!」

「違うよ」

「何が違うと言うのだ。今まさに鹿島先輩に色仕掛けをして篭絡しようとしていたじゃないか」


 オリヴィアさんがそう言ってソフィアさんへと指さすと、抱き着いたままのソフィアさんは首を横に振る。いい加減離れません?


「オリヴィア、それは違うよ。篭絡されたのはワタシの方さ」

「なんだと?」


 何を言われているのか戸惑っている様子のオリヴィアさんであるけど、僕だって同じようにいきなりそんな事を言われて動揺してしまう。

 え、何もしてないよ?


「フフッ、ソウタ」

「んむっ!?」


 唇に柔らかい感触が当たる。

 ソフィアさんが目を瞑って僕にキスしていた。


「お、おい……」


 オリヴィアさんが顔を赤くしながら、先ほどまでとはまるで別人のように声がしぼんでいた。

 止める気0か。


「ぷはっ。あはは、キスなんて初めてだから息するのを忘れていたよ」

「いや、あの、ソフィアさん? なんでキスを?」

「ソフィでいいよ。ソウタにはそう呼ばれたい」

「え、ソフィアさん――」

「ソフィ」

「ソフィアーー」

「ソフィ」


 有無を言わせないね!?


「あの、ソフィ」

「うん、なんだいソウタ?」

「何故キスを?」

「好きになったからだよ」


 あまりにもストレートな発言。これはオリヴィアさんでなくても顔が赤くなるよ。


「い、いや好きになったって、そんな風に思ってもらえるような事……」

「したじゃないかソウタ」


 そうソフィアさん――ソフィが言うと同時にワルキューレの衣装が光って消え、チャイナ服ではなく普通の服に戻っていた。


 ――ピロン 『〝戦乙女の羽〟が消失しました』


 どうやら〝戦乙女の羽〟は効果が強力な代わりに1度きりの消耗品だったようだけど、今はそれどころじゃない。


 僕は真剣な目で見てくるソフィを見つめ返す。


「今消えた服の力が無ければ間違いなくワタシはサイラスに負けていたし、少なくともこの場から逃がしていた。

 それはワタシにとって耐えがたいほどの事だ。

 実際1度目の[自爆]を受けて倒れていた時、自身の無力さに絶望すら感じていたよ。

 そしてあの時ワタシは、ワタシの全てを捧げてもいいからあの男を倒す力が欲しいと願い、ソウタがそれを叶えてくれた。

 好きにならない理由がないじゃないか」


 そう言って微笑むソフィは今までで一番魅力的な笑みを僕に向けていた。

 僕がそれに見惚れていると、ソフィは僕の手を取って上目遣いでこちらを見てきた。


「幸いにもソウタはハーレムを作ってるし、その中にワタシ1人が増えたところで問題ないよね」

「えっと、その……」

「大丈夫大丈夫。その辺はノア達にちゃんと許可をもらわないといけない事ぐらい分かっているから、ノア達に許してもらえるように頑張るよ!」

「僕の感情無視ですか」


 もうハーレムに入る気満々のソフィに呆れるしかない。


「え、ソウタはワタシの事嫌いなの?」

「いやそんな事はないけど」

「じゃあ好きって事だよね。うん、ワタシ頑張るから!」


 性格が悪くないソフィみたいな綺麗な子を嫌う理由なんてないけど、それは極端すぎないかな?

 好きか嫌いかの2択であればそりゃ好きだし、好意を前面に出してくれているソフィに惹かれてしまう部分はあるんだけどね。


 乃亜達を起こした後なんて言おうか考えながら、ため息交じりに未だ倒れている乃亜達の元へと駆け寄った。

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