第27話 これが何かって? 課金アイテムだよ

 

 〝戦乙女の羽〟は僕が月一の課金時に有償ガチャから出た物だ。

 使用用途が分からず強化アイテムとしか書かれていなかったそれ。


 何故今になって使えるようになったのかは謎だけど、そんな事を考えている場合じゃない。

 強化アイテムだというのであれば少なくとも今より多少は強くなるはず。


 そう思いスマホを操作すると、そのアイテムはソフィアさんにのみ使用可と出ていた。

 僕は躊躇う事なくそれを使った。


 ――ブワッ


「わっ?!」


 スマホの画面から急に無数の羽が舞い上がる。

 突然の事に驚いていると、それはソフィアさんの元へと集まっていく。


「んっ、なんだそれは?」


 サイラスは〔迫る刻限、逸る血潮アクセラレーション〕の効果が切れたアヤメを振り切り、助っ人の咲夜と戦いながらこちらを訝し気な目で見ていた。


 マズイ。

 サイラスに妨害されないよう助っ人の咲夜が戦ってくれている内にソフィアさんを回復させないと。


 そう思い〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕と〔太郎坊兼光ショート リヴド破解レイン〕を取り出そうとした。しかしその必要はなかった。


「………」

「ソ、ソフィアさん……?」


 ユラリと無言で立ち上がるソフィアさん。

 先ほどまでまともに動くこともできなかったはずなのに、グルグルとソフィアさんの周囲を回る無数の羽を纏いながら何故か動けていた。


「感謝するよ。ソウタ」

「はい?」


 急にそんな事を言われて何が何だか分からなかったけど、ソフィアさんの身体を見て気が付いた。

 傷が塞がっているんだ。


 先ほどまでサイラスの爆発で吹き飛ばされ地面を転がったせいで擦り傷まみれだったのに、今はそんな傷が一切なくなっていた。


 〝戦乙女の羽〟は回復アイテムだったのか?


 そう思った次の瞬間だった。


 ソフィアさんの周囲を回る羽の数が一気に増えてソフィアさんを覆い隠すと、すぐに羽が弾けて中からソフィアさんが現れた。

 チャイナ服ではなく、羽飾りの兜とやけに肌の出ている甲冑、というかほぼビキニアーマーみたいなものを身に纏って。


 ――ピロン 『〝戦乙女の羽〟使用条件、一定のダメージを負っている状態で戦意を失っていない者のみに使用可能。

 あらゆる傷を癒し、3分間超級ワルキューレの衣装が貸与されます』


 [チーム編成]の〈衣装〉によるコスチュームチェンジで着ていたはずのチャイナ服が、露出の多い甲冑姿に変わったのは〝戦乙女の羽〟が原因のようだ。


「……ん? 超級?」


 普段乃亜達に使っているコスプレ衣装はだ。

 超級なんてカジノの景品でチラリと見ただけだけど、必要なコインの枚数があまりにも多くてそう簡単に手に入れられるものじゃないと思っていた。

 その超級!?


「あれだけのダメージを受けたのにまだ立ち上がるか。その男に治してもらったようだが、あいにくとっくにオレも傷は治っているぞ」


 いつの間にか1分経ったのか、助っ人の咲夜は消えてしまっていたけれどソフィアさんに焦りの表情は全く見えず、サイラスが回復してしまっている事に関しても動揺していないように見えた。


 冷静そうなソフィアさんはクスリと笑うと、レーザーブレードをサイラスに突きつけた。


「傷は治っただけ。それに[フィーバータイム]はとっくに効果が切れてしばらく使えないのに強がりだね。

 もうお前に勝ち目はないよ」

「はっ。オレが手の内を全て晒したとでも思っているのか?

 そんなふざけた恰好してるやつに負けるはずがないだろうが! [フルアクセル][オーバーヒート]!」


 異常なまでの速さで瞬きした瞬間にはサイラスがソフィアさんに近づいており、剣を振り下ろそうとしていた。


「ふんっ」

「なに?!」


 しかしソフィアさんは片手で持っているレーザーブレードでサイラスが両手で握って振り下ろした剣を受け止めていた。


「バカな!? さっきまでそんな力はなかったはず……!」

「ソウタがワタシに力をくれたお陰だよ」


 確かにそうなんだけど、そこまで強くなるとは正直思ってなかった。

 その場しのぎで多少強化出来ればと思って使ったのに、なんなんだあの衣装は?

 自分のスキルに振り回されるのはいつもの事だけど、今回はホント訳分かんないなぁ。


「[ファイナルギア]」

「ぐっ、くそ。行け影ども!」


 ソフィアさんの背中にある機械の翼、[エクスターナルデバイス]が紅く光りより強化されたことを察したサイラスが、出現させている15体近い影で対抗しようとしていた。


 [オーバーヒート]の効果で脳の処理能力でも上がっているのか知らないけど、先ほどのようにあれだけの数の影を操っているのにそれぞれが機敏に動いている。


 その影達が一斉にソフィアさんへと攻撃しようとし――


「遅い」


 その全てがソフィアさんに切り裂かれた。


「そんなバカな!?」


 驚愕するサイラスにソフィアさんはレーザーブレードを真横に一閃しようと構えながら近づいていた。


「これで終わりだよ。もう二度と人を傷つけさせない!」

「舐めるなよ! [自爆][ガッツ]!」


 またあのスキル!? そんな何度も使えるものなの?!


「もうそれは効かない。〝戦乙女の盾〟!」


 ソフィアさんがそう言ってレーザーブレードを持っていない方の手を前に突き出すと、そこには半透明の円盾が現れる。

 すると不思議な事に爆発の影響がサイラスを中心に一切広がらず、まるでサイラス自身が燃えただけで終わってしまった。


「あ、ありえない……。なんだそれは?」

「この服の力だよ」


 ソフィアさんはそう言って、今にも倒れそうなサイラスにトドメを刺した。


「……終わった」


 鬼の姿から人に戻ったサイラスが地面に倒れ、ソフィアさんはどこか感慨深そうにサイラスを見下ろしていた。


 ・超級ワルキューレ衣装:戦闘力を300%上昇させる。さらに一回の戦闘で一度だけ敵の攻撃を無力化できる盾が使える


 それはそうと性能ぶっ壊れてるな、あの装備。


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・あとがき

なんかこれで章を1区切りしたいレベル。

こいつらいわゆる中ボスみたいなもんで、まだこの後に四天王控えてるとかマジ?

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