第26話 奥の手


 想像できなかった。


 普通なら絶対にやらないし、そんなスキルを手に入れようだなんて思わない。

 だけどサイラスは違った。


 自身のスキル構成の中に組み合わせることで超速回復が出来るものがあるからこそだった。


 [自爆]


 ショップで売ることを禁止されている中で最も知名度が高く、不人気スキルを挙げるならば真っ先に出て来るスキル。

 そのスキルを使用すれば自身のHP全てを犠牲にし、犠牲にしたHPに応じた爆発がスキル使用者を中心に巻き起こる。


 当然そんなスキルを使えば使用者は確実に死ぬのだけど、サイラスは[ガッツ]を使用することでギリギリ生き残った。

 [ガッツ]は自身のHPが全損する時HPが1残るというものだけど、実はこれも不人気スキルだ。


 ゲームなどではHPが1でギリギリ生き残れるのであれば有用だと思うだろう。

 だけど現実でHPが1しか残らないというのは、体にろくに力が入らないほどのダメージを受けているということであり、生き残ってはいても数秒後には死ぬという状態なのだ。


 仮に近くに仲間がいるならすぐに回復してくれればいいけど、もしも敵に襲われている状態でそんな余裕がなければそのまま死んでしまう。

 そんなもしかしたらギリギリ助かるかもしれないスキルのために枠を1つ潰すよりも、防御や回避系のスキルを取った方がまだ生き残れるのだから、不人気になるのも頷けるというもの。


「くはははっ。まさか奥の手を使わされることになるなんてなぁ~」


 そんな2つの不人気スキルを組み合わせて、更に自身が持つ回復系のスキルで回復してきたサイラスが何とか立ち上がる。


 サイラスはフラフラではあるけど奥の手と言うだけあって、アヤメを除く5人全員がその爆発で倒れていた。


「やばいっ!」


 本来なら倒れて動けなくなることはなく、乃亜の[損傷衣転]で肉体がダメージを受けない、もしくは軽減されるため気絶することはない。


 しかし[損傷衣転]はあくまで服があってこそ。

 サイラスのHPが多かったからか[自爆]の威力が凄まじく、爆発による服へのダメージと本人が受けたダメージがあまりに大きく、服が肩代わりしきれてなかった。


「みんな!」


 僕は急いで[画面の向こう側]を解除して外へと出ると、すぐにあのスキルを使用する。


「[助っ人召喚]咲夜。あの男を倒せ!」


 召喚された咲夜が僕の命令に頷きサイラスへと攻撃を仕掛ける。


 サイラスがまだ回復しきっていない内なら〝臨界〟を使わないで助っ人の咲夜でも倒せるかもしれない。

 出来れば〝臨界〟で一気に仕留めたかったけど、倒れているみんなが近くて巻き添えにしかねないからダメだ。


 ここで助っ人の咲夜にサイラスを倒させるか、せめて時間が稼げればみんなを回復させられるはず。

 しかしそんな悠長な考えを許される相手ではなかった。


「ちっ、[シャドウフィギュア]」


 なっ、15体近い数の影!?

 ヤバい。ヤバいヤバいヤバイ!


 先ほどまでシャキシャキと動いていた影達はユラユラと揺れながら乃亜達へと近づていく。


 さっきまで6体しか出さなかったのは精密に動かせるのがその人数だったからか?

 でも今はどう見ても気絶してるみんなにトドメを刺すだけなら、影の操作がおぼつかなくても問題ないと判断して数を出してきたのか。


 しかも影達の内、乃亜達に攻撃を仕掛けずにサイラスの近くにいるのがいて、それが壁になって助っ人の咲夜の攻撃を妨害している。


「くっ、咲夜。みんなを攻撃しようとする影を優先的に排除して!」

『ワタシも行くのです。〈解放パージ〉2倍速』


 アヤメは迫る刻限、逸る血潮アクセラレーション〕の効果を適用させていた。

 一体何をするんだと思ったら、いつもより素早く飛んでいきサイラスの顔へと纏わりつき、先ほどと同じように視界を塞ごうとしていた。


「またか鬱陶しい!」


 さっきよりもアヤメの動きが素早いため、先ほどの様に振り切られることなくサイラスの視界を封じられた。

 そのお陰で影の動きが更に悪くなり、何体かは動きが止まっている。


「ナイスアヤメ!」


 だけど2倍速では効果時間は7.5秒。

 たったそれだけの時間では精々僕が誰か1人の元へと近づくのが精一杯だろう。


 近づけさえすれば〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕と〔太郎坊兼光ショート リヴド破解レイン〕の組み合わせで回復させられるけど、問題は全員気絶している様子なことだ。

 申し訳ないけど回復させて無理やり起こすなら、この場合咲夜か?


「うっ、ゲホゴホッ! た、倒れてる場合じゃ、ないのに……! ここで戦わなくていつ戦うっていうんだ!!」


 そう思った時、なんとか気絶せずに気力だけで持ちこたえている人物の声が聞こえた。

 ソフィアさんだ。


 1人だけでも動けるようになれば!


 咲夜の元へと駆け寄ろうとした足を方向転換させて、ソフィアさんの元へと移動しようとした時だった。


 ――ピロン 『条件が満たされたためアイテムが使用できるようになりました』


 かなり久しぶりに聞こえてきた機械的な音声。

 唐突に聞こえてきた声は僕のスキルによるものだった。


 僕は一瞬確認するのを迷ったけど、今は少しでもこの状況を打破する手段が欲しくて、藁にもすがる思いでソフィアさんに駆け寄りながらスキルのスマホを確認する。


『〝戦乙女の羽〟を使用しますか?』


 使用用途の分からなかった課金アイテムの名前がそこに表示されていた。

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