第8話 もっとマシな結界創れたんじゃないの?

 

「えっと……本当にいいんですか?」

『フヒッ!? べ、別にいいわ。知られたところでどの道入れる人間は限られているもの。

 ……それに何よりお姉さま達には逆らえないわ』


 マリとイザベルに屈したサラがあまりにも不憫で思わずそう尋ねると、急に声をかけられて驚いた様子を見せた後、仕方がないとうな垂れてしまった。


『フヒッ、それにしても敵であるわたしを心配するだなんておかしな人――本当におかしな人ね』

「何故2度言ったんですか」


 サラは僕の方、具体的には結界に突っ込んでいる指先を見て目を丸くしていた。


『だ、だってこの結界にそんな中途半端に入れる人がいるだなんて思ってもみなかったもの』

『たしか対象の嫉妬心と既婚であるかどうかで判断してるんだったかしら?』

『こんなしょうもない結界に莫大なリソースを使うって、ホントどうかしてるわ』


 マリとイザベルが呆れた様子でサラを見ており、その視線に耐え切れなかったのかサラは身を縮こませていた。


『だ、だって昔、構想を練った時に誰も協力してくれなかったじゃないですか……』

『『こんなの創るくらいだったら普通に【魔女が紡ぐ物語トライアルシアター】3体創るわよ』』


 昔がどんな状況かなんて分からないけど、魔女狩りのあった時だったことを考えると敵対者に対して条件に当てはまらない人間が素通りしてしまうより、普通に撃退する方がいいという判断だったんだろう。

 結界の維持も考えるとなると、【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】3体の方が安上がりにすら思えるね。


『あの時は今のように魔法が使いやすい環境じゃなかったんだから、協力なんてできるわけないじゃない』

『そこで諦めてしまえばいいのに、今になっても1人でこんな結界を創っちゃうだなんて呆れるわ』

『ううっ……。だってわたしのテリトリーにリア充がいるのが我慢できなかったんですもの』


 なんて酷い理由だ。

 “嫉妬”をこじらせてしまった結果と言えるのだろうか。


 まあそれはさておき、話が脱線してしまっているけどいい加減この結界が何なのか教えてくれないだろうか。


「ところで結局この結界って何なんですか?」

『フヒッ、これは今もチラッと言った通り、リア充を通さないための結界よ。

 具体的な条件の1つは一度でも結婚経験のある人間が通れなくなるわ』


 それが理由で既婚者が入れなかったのは分かる。

 けどリア充を通さないための結界のはずなのに、彼氏彼女がいる人間でも通れた理由が分からないなぁ。


『2つ目はマリお姉さまの言った嫉妬心次第で、交際相手のいる人間が通れなくなるわ』

「リア充を通したくないなら交際相手がいる人間も既婚者同様に通さなければいいのでは?」


 嫉妬心とかでわざわざ選別しなくても一括りにすればいいはずなのに、なんで嫉妬心なんてもので選別するんだろうか。


『そうすると必要なリソースが爆上がりするのよ』

『ただでさえ既婚者はNGにしているのに、まだ交際段階の相手すら拒絶すると結界に必要なコストが重くなってしまうわ』


 だからこそ、こんな結界ではなく素直に【魔女が紡ぐ物語トライアルシアター】を創ればいいのにとマリとイザベルが呆れていた。


『フヒッ、わ、わたしとしても、結婚までいっていない交際している者が強い嫉妬心を持つような何かを抱えているのであれば通してもいいと思ったもの』

「それなら嫉妬心を一定以上抱えている人間だけは入れる結界にすればいいんじゃないですか?

 一度結婚したことのある相手を拒む理由が分からないんですが」

『ムカつくからよ』


 実にシンプルな答えがサラから返ってきた。


『い、一度でも結婚なんてしている人間とか、たとえ今が離婚していようがDVに悩まされたりしていようが、昔幸せの絶頂にいた奴は絶対に近寄らせたくないわ!』


 完全に目がキマっていて、地雷女子みたいな様相も相まってて怖いよ。


「それなら交際や性交はなんでいいんですか?」


 聞いた限りでは幸せになってる人物を拒否したいということが分かったけど、彼氏彼女がいる人間なのに性体験の有無が関係なく入れるのは何故なんだろうか?

 そういう人物でも嫉妬心が強ければオッケーという理由が分からない。


『せ、性交に関して言えば、望まない形で無理やりされることはよく聞くもの。そして交際ならわたしもしたことがあるから、嫉妬心次第では広い心で許してもいいと思ったわ』


 ……えっ、男と付き合ったことがあるってマジ!?

 明らかにヤバい雰囲気のこの人物に手を出すとか誰だそいつ。勇者か?


『それってもしかして最終的に椅子に縄で縛って逃げられなくしていたあの男のことかしら?』

『勝手に付きまとったあげく、他の女と少し話しただけで嫉妬して監禁してたわよね?』

『『最終的にお母様が監禁場所を探し当てて逃がしてた、あれが交際?』』


 なんだ。勇者じゃなくてただのストーカー被害者だったか。


 マリとイザベルがマジかこいつみたいな目で見ているのを気にせず、サラはジッと結界に入り込んでいる僕の指を見ていた。


『だ、だから本来であればこの結界は既婚者以外ではリア充度を嫉妬心が上回っていれば通れるのだから、こんな中途半端な状態になるはずは……』


 なんだリア充度って。

 いや、言わんとする事は分かるのだけど、分かりたくはないなぁ。


『な、なにこれ!? リア充値と嫉妬心がせめぎ合ってる?!!』


 自分がどうして結界に中途半端に入れているのか、その理由を一気に知りたくなくなってしまった。

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