第7話 それでいいのか【四天王】

 

『あら嫌だわ。こんな面白そう、もとい困っていそうだから来てあげたというのに』

『そうよそうよ。無駄にリソース使ってまで来たせいで後でエバ姉様に怒られるのにその態度は酷いわ』

「せめて本当に呼んでから来てくれませんかね?」


 明らかに演技みたいな態度で悲し気な表情を浮かべるマリとイザベルに呆れてしまう。


「というか、エバノラがいつもしているみたいに電話すれば良かったじゃないですか」

『『そんなの嫌よ。つまらないじゃない』』


 相変わらずのワガママぶりである。

 いつも通りなので逆に安心感すら覚えるのが何とも言えないね。


『それにしてもあの子ったらこんなしょうもない事に力を使うだなんて、あの頃から全く変わってないわね』

『本当ね。まだダンジョンになる前の頃、あの子が机上の空論として語っていた非効率極まりない結界を構築するくらいなのだから、この結界をそれだけ創りたかったということなのかしら』

『しょうがないわ。だってあの子“嫉妬”だもの』

『少なくとも既婚者に対しては昔から嫉妬の対象だったわね』


 2人がどこか懐かしむように言いながら結界をじっくりと見渡していた。


「この結界が何か知っているんですか?」

『『ええ、知ってるわよ』』


 僕が2人にそう問いかけると、2人はニマニマとおもちゃを見る様な目でこちらを見て来た。


 くそぅ! 何でよりにもよって事情を知っている人間が目の前の2人なんだ!?


 2人の表情から前のように素直に教える気がなさそうなのは火を見るよりも明らかだ。

 あの時は2人に対して意趣返しのために近くにいたエバノラが教えてくれたけど、今は近くに居らずスマホからは何の反応もない。

 おそらく前に会いに行った時と同じでこちらに連絡を入れる暇もないくらい忙しいのだろう。


『教えて欲しい? 教えて欲しいの?』

『ふふっ。今度はあの時と違ってエバ姉様は近くにいないわ』

『『それじゃあ何をしてもらおうかしらね~』』


 ……もう、イギリスとかどうでもよくない?


「……頑張れ蒼汰。心が折れかかってるけどファイト」


 オルガはそんな簡単に言ってくれるけど、この2人からのお願い事ほど嫌な予感がするものはないんだよ。

 もうそれを考えるだけで精神的にキツイし。


『キシシシ、冗談よ冗談』

『クシシシ、その何とも言えない冷や汗を浮かべた困った表情が見れただけでも満足だわ』


 た、助かった~!


『あ、でも教えてあげる代わりに今回の件が終わったら必ず顔を見せに来なさいよ』

『今エバ姉様達、忙しすぎて相手してくれないんですもの。遊び相手が欲しかったのよね』


 ……残念。ただ余命が延びただけである。


 僕はおもちゃになることが確定した未来に全力で目を逸らしながら、この結界について問いかけることにした。


「それでこの結界は一体何なんですか?」

『あなた達の言う【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】3体分のリソースを使って創り上げる結界よ』

『限られた者のみが通れる代わりに、条件に当てはまってしまった人は絶対に通る事が出来ない結界、だったかしら?』

『ええ確かそのはずよ』


 【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】3体分って、かなり強力な結界……って、なんでそんな自信無さげな説明なんだ?


「この結界について知ってるんじゃないんですか?」

『仕方ないじゃない。随分昔に聞かされただけでうろ覚えなのだもの』


 よくそんなんで情報の対価を得ようとしたな!?


『まあでも大丈夫よ。それについては私達が教えるよりも適任がいるわ。もうそろそろ――』

『や、やはりお姉さま達でしたか……。ひ、久しぶりですね』


 イザベルが自身の背後をチラリと見ると、そこには血色がなく全体的に顔や唇が白っぽくて不健康そうな中学生くらいの黒髪ウルフ風姫カットの少女がそこにいた。


 マリとイザベルが情報の対価をすぐに求めなかったのは、“嫉妬”の魔女がここに現れることを予期していたからか。


 ただ第一声を聞く限り、すぐに戦闘が始まったりはしそうにないから大丈夫そうな気はする。

 みんないきなり現れた魔女に対し警戒して戦闘体勢に入っているけど、結界がある以上“嫉妬”の魔女が外に出てこない限り攻撃は出来そうにないから、戦闘になるとしたら“嫉妬”の魔女次第か。


 とりあえずいきなり戦闘にはならなそうだけど、ふと思うのはもっとちゃんと交渉していたら遊び相手にならずに済んだのでは? ということだ。

 いや、でもマリとイザベルがいなければ“嫉妬”の魔女が現れることはなかっただろうから、顔を見せに行くことを拒否していたらこの2人の事だしとっとと帰ってしまったであろう事を考えると、どの道不可避の未来だったか。


『ええ、久しぶりねサラ。元気してた?』

『ダ、ダンジョンになったのに元気というのもおかしな話ですが、フヒッ、元気ですよ』

『クシシシ、相変わらずの笑い方ね』

『フヒッ、マリお姉さまこそ』


 マリとイザベルは相手が【四天王】でもあるにもかかわらず仲良さげに会話していた。


 まあ魔女同士だから敵対している訳じゃないし当然か。


『ところでサラ。この結界について教えて欲しいんだけどいいわよね』

『随分昔に聞いたっきりだからうろ覚えだったのよね~』

『えっ、お、お姉さま達。そこにわたしを倒しにきた奴らがいるんですけど……』

『『何か言ったかしら?』』

『な、何でもないですぅ……』


 圧がひでぇ。

 マリとイザベルは笑みを浮かべながら目だけ笑っていない表情をサラと呼ばれた“嫉妬”の魔女に対し向けると、サラはアッサリと屈してしまった。

 それでいいのか【四天王】……。

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