第6話 何なんだこの結界

 

「私じゃあの結界を通れなかったが、お前達の中で何人かだけでもいいから入れれば御の字だろう」


 未だにダンジョンの入り口で喧嘩しているパーティなど目に入らないかのように、マイラさんは話を続けた。

 よくあれを見て無視できるなぁ。


「通れるんですかね?」


 僕がそう尋ねると、マイラさんは肩をすくめて微笑を浮かべる。


「それは試してみないと分からないねえ。旦那がとっくの昔にくたばってる私でも入れなかったから、入る条件はかなり厳しいだろうけど」

「具体的な条件はまだ分かっていないんですか?」

「私が知る限りではまだよく分かっていないそうだねえ。

 既婚者は確実に弾かれるのは分かってるけど、彼氏彼女がいる人間の中には入れたり入れなかったりするから、いまいちその基準が明確じゃないのさ」


 それなりに日数が経っているにもかかわらず、やはりまだ分かっていないようだ。

 もしかしたら既婚と交際とでは何かしら違いがあるのかもしれないけど、ぶっちゃけその2つの違いってそこまで差があるんだろうか?


「性交渉の有る無し関係なく入れたり入れなかったりするから余計に分からないんだよねえ」

「「「ブッ!?」」」


 ちょっ、未成年相手に言う事じゃないよ!


 思わず噴いてしまったのは僕、冬乃、オリヴィアさんだけで、他のメンバーはそうなんですかーという程度の反応だったけど、普通いきなりこんな事言われたら驚かないかな?


「お祖母様! 何を言っているんですか!」

「ん? 重要な事なんだから情報共有するのは当たり前だろ。

 だから安心しな。すでに経験済みでも入れるかもしれないよ」

「経験なんてあるわけないじゃないですか!」

「最近の子は進んでるって聞くけど、リヴィは随分遅れてるねえ」

「私が普通なんです! 学生でそうそう経験することなんてないですよ!」


 オリヴィアさんが珍しく誰よりも動揺しているせいか、僕らは逆に落ち着いてその様子を見ていられた。


 う~ん性体験の有無で決まるような単純な結界だったら問題なく入れるのに、そうじゃないとなると面倒だね。

 まあこんな所で喋っていても入れるかどうかなんて試してみないと分からないんだから、行ってみるしかないか。


「じゃあ試しに行ってみようか。情報ありがとうございますマイラさん」

「大した事教えられなくて悪いねえ」

「いえ、気にしないでください」


 僕はマイラさんにそう言うと、みんなと一緒にダンジョンの入り口に向かった。

 すると何故かマイラさんまで付いて来た。


「え、なんで付いて来るんですかお祖母様?」

「そりゃ大切な孫がこれからダンジョンに入ろうとするんだから、見守るのは当然だろ?

 どうせ私はダンジョンに入れないんだから時間があまってしょうがないのさ」

「ようするに暇なんですね」

「はっはっは、そうとも言うねえ」


 マイラさんは軽い口調でそう言うとオリヴィアさんと談笑(?)しながら後ろに付いて来た。

 まあ気にする事じゃないか。


 マイラさんの事は一先ず置いておいてダンジョンの入口に行くと、秒速崩壊パーティーはすでにいなくなっていて周囲には迷宮氾濫デスパレードが起きないか監視しているであろう人達がいるだけだった。


「それでは入れるかどうか試してみましょう」


 乃亜が率先してダンジョンの入口にある結界へと近づいていく。

 さすが僕らパーティーのタンク役だけあって率先して前に出るね。


 手を伸ばしてダンジョンの結界に近づくと、そこから先は進めないのか壁に手を当てているかのように止まってしまった。


「う~ん、ダメみたいですね。わたしは入れないみたいです」

「乃亜ちゃんが入れないとなると[ダンジョン操作権限]を試すこともできない、ね」


 咲夜の言う通り、いきなり[ダンジョン操作権限]で結界をどうにかできないか試すこともできないことが分かってしまった。

 あれはダンジョン内に入ってないといけないし、4人に分割されてるスキルだから誰か1人でも入れない以上使えない。

 さほど当てにしていたわけじゃないからいいんだけどね。


「私も入れないわね」

「咲夜も無理」

「……ボクも入れない」

「ワタシもどうやらダメみたいだよ」


 乃亜と同様に冬乃達四人も結界に阻まれていた。


「私は入れるのか……」


 だけどオリヴィアさんは難なく入れるようで結界なんて無いかのように素通りしていた。

 まあこの結界の傾向的に恋愛関係に関わりが無ければ入れそうなのは分かっていたので、この結果はみんな予想出来ていただろう。


 さて、あとは僕か。

 とは言え、乃亜達が入らなかったとなると僕も無理だろうなぁ。

 そうなると何のためにここまで来たのか……。


 そう思いながら結界に触れると――


 ――グニャ


「は?」


 ――バチバチバチ


 小さい火花と共に結界が僕の手に押されて凹んでいた。


「どういう事?」

「それはわたし達が聞きたいんですけど!?」

「結界がこんな風になるなんて現象聞いた事もないねえ」


 乃亜達は驚きマイラさんは目を丸くしていた。


 誰もこんな現象知らないせいで周囲にいる人間全員が困惑しているけどどうしようか?

 とりあえずこのまま押し込んでみたらどうなるだろ?


 一歩足を進めると結界もまるでゴムみたいに伸び、それと共に火花の大きさが大きくなった。


 なんだか爆発しそうな雰囲気がして怖いけど、乃亜の[損傷衣転]や〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕があるから怪我をするようなダメージを受けても問題ないはず。


 そう思ってどんどん足を進めていくと、まるで結界が生きているかのようにプルプルと震えだしついには僕の指が結界を通過した。

 だけどその後、まるで結界が追い出すか入れるか迷っているみたいに僕の指の第一関節と第二関節を行ったり来たりし始めて、これ以上入れる気がしなかった。


「いや、ホントなんなのコレ?」

『クシシシ、呼んだかしら?』

『キシシシ、出番かしら?』

「違います」


 呼んでもないのに2人の魔女、“傲慢”の魔女マリと“強欲”の魔女イザベルが唐突に結界の向こう側に現れた。

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