第5話 英雄

 

 マイラさんのインパクトのある自己紹介に少しだけ呆然としてしまったけど、自己紹介をされた以上こちらからもしないといけないと思い、慌てて僕は口を開く。


「鹿島蒼汰です。オリヴィアさんとは同じ学校に通っています」


 そう僕が口火を切ったことで乃亜達も同様に自分の名前を告げていくと、マイラさんは頷いて僕らを見渡した。


「お前達はリヴィとは友人だということでいいのかい?」

「はい、そうですけど」


 僕が即答したらオリヴィアさんが目を見開いてこっちを見ていた。何故?


「そうか」


 先ほどまで仏頂面だったマイラさんだけど、今はどこか嬉しそうに微笑を浮かべていた。


「リヴィは不器用な子だから1人で海外に行かせるのは不安があったけど、ちゃんと友人ができたのなら良かったよ」

「なっ、お、お祖母様! 私だって友人の1人や2人くらい作れます!」

「そっちの男の子に友人だと即答されて動揺したくせに何言ってんだい」

「うっ……」

「リヴィは良くも悪くも真っ直ぐだから任務で傍にいるだけだと思っていたかもしれないけど、彼はちゃんとリヴィの事を友だと思ってくれてるんだから、あんたもそれ相応の対応をしてやんな」

「お祖母様、任務の事は……」

「ん? リヴィの事だから接触してすぐにばらしたんだろ?」


 よくお分かりで。

 転校してきて数日でぶっちゃけられました。


「さすがオリヴィアのおばあさん。ソウタが確信を持つ前に色仕掛けで篭絡しようとしたのにばらされてたから参ったよ」


 ソフィが懐かしむような目をしながらため息交じりにそう言うと、マイラさんは呆れた表情でオリヴィアさんを見た。


「やっぱりそうなんじゃないか。立派な肉体を持ってるんだから男の1人や2人手玉に取ることなんて出来るだろうに勿体ないねえ」

「い、いいではないですか! それに私はそのような姑息な手は好みませんし、第一好きでも無い男にそのようなふしだらな事はできません!」

「まあそれに関しては私も旦那一筋だからとやかく言えないね。

 でもリヴィ。あんた普段から国のために国のためにと言ってる割にそんな事も出来ないのかい?」

「うっ、そ、それは……」


 オリヴィアさんが言い淀みながらマイラさんの顔をまともに見れないのか俯いていると、そんなオリヴィアさんにマイラさんが近づいてポンッと頭に手を置いた。


「別にそれでいいのさ。国のためだ何だと言ったところで、真っ当な人間なら自分の全てを国に捧げるなんて出来っこないんだから」

「そ、それでも私はお祖母様のように国のために働き英雄と呼ばれるほどの人間になりたいのです!」


 オリヴィアさんは顔を上げて真剣な表情でマイラさんを見ており、その目はまさに憧れの人を見る目だった。

 そんな瞳を正面から見据えるマイラさんはフッと自嘲気味に笑って首を横に振る。


「私は別に国のために働いたわけじゃないさ。

 ただこの地で眠る旦那の墓を荒らされないために毎朝ダンジョンに行ってドラゴンを散歩がてら倒していただけだよ。そんな日課がたまたま30年続いてるだけさ。

 それを見た他の人間が私を勝手に英雄だ何だともてはやしてるだけだよ」


 サラッと凄い事言ったぞこの人。

 ドラゴンを散歩ついでに倒してるとか、30年もそんな事してるとか、おばあちゃんとはいえ一体何歳なんだとかツッコミどころが多すぎるんだけど。


「はぁ~。私が英雄だなんて呼ばれているせいで娘夫婦にまでその期待が乗っかったのが悪かったんだろうねえ。

 あの子らはそのせいで子供であるリヴィにまで自分達と同じように国に仕える人間にしたかったのがいけなかった。

 ユニークスキルなんて手に入れたのも相まってその仕事を任せられたんだろうが、ハッキリ言って私は反対だったよ」

「な、何故ですか!?」

「いや、即行で任務をばらしてる時点で向いて無さすぎってのもあるけど、そんな人に植え付けられた使命感じゃ国に仕え続けることが出来るとは思えないさ」


 あーうんうん。

 向いてないって点には同意するよ。


「誰よりも真っ直ぐで嘘なんてつけないリヴィにそんな仕事は向いていない。国なんぞに縛られずにもっと自由に生きて見聞を広げるべきだと思っていた。

 だけど、ま、結果的に良い経験になったみたいなようだねえ。

 ハニートラップとか絶対無理なのに1人でその坊やのところに行かされたみたいだが、それがかえって良かったか」


 マイラさんはそう言ってオリヴィアさんの頭をポンポンと叩くと、僕らの方を見てきた。


「こんな頭の固い孫娘だけど、これからも仲良くしてやってくれるかい?」

「あ、はい。こちらこそ仲良くやっていければと思っています」

「ああ、よろしくね」


 マイラさんは満足そうに笑うと、改めて真剣な表情でオリヴィアさんを見る。


「リヴィ。どんな人間になりたいかなんて本人以外が口出しするもんじゃないが、私から言えることは国なんて人一人が抱えられないような大きなものは本当に守りたいものにならないってことさ。

 リヴィもいずれ分かる時が来るだろうが、それが分かるまでは目の前の事に集中するといい。

 そのために戻ってきたんだろ?」


 そう言ってマイラさんは〔ドラゴンのダンジョン〕へと視線を向けていた。


「「「「もうお前らの顔は見たくない!!」」」」


 視線の先ではまだ先ほどのパーティーが喧嘩しており、なんか色々と台無しだった。

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