第4話 問題の結界

 

 手に入れた【典正装備】に納得がいかないと考えていたらいつの間にかイギリスに着いた僕らは、1日休息して完全に体調を整えた後、問題のダンジョンに向かう事にした。

 その際、以前引率兼護衛をしてくれた人が中国ロシアの迷宮氾濫デスパレードの時のように、僕らを問題の起きている〔ドラゴンのダンジョン〕へと連れて行くことになった。


「ここが〔ドラゴンのダンジョン〕か……」


 そうして〔ドラゴンのダンジョン〕のある場所に着いたわけだけど、他のダンジョンと違って物々しかった。

 具体的には迷宮氾濫デスパレードの真っ只中と言ってもおかしくない状態で、日本で迷宮氾濫デスパレード中に使用していた高さが5メートルはあるバリケードよりも大きく分厚そうな壁でダンジョンの周囲が広く覆われていた。

 東京ドームの倍くらいの広さかな? 行った事ないから知らんけど。


 しかしこれがこの〔ドラゴンのダンジョン〕の普通であるらしく、別に迷宮氾濫デスパレードが起きているわけではないようだ。

 空から逃げられないよう鉄線らしきものが上空に張り巡らせてあり、いつでも迷宮氾濫デスパレードが起きてもいい状態にしてある。


 まあ他のダンジョンと違い、〔ドラゴンのダンジョン〕は1層目の段階ですでにレッサードラゴンと呼ばれるドラゴンが現れるからね。

 他のSランクダンジョンだと1層目なら冒険者になったばかりの人間でも倒せる魔物が出て来るのに対し、このレッサードラゴンはBランクダンジョンに潜れる程度の実力はないと倒せないのだから、迷宮氾濫デスパレードを常に警戒するのはさもありなんと言ったところだろう。


 そんなダンジョンの入口はこんな危険なダンジョンなせいか冒険者施設の外にあったため、僕らがここに来てすぐに入口がどこなのか分かった。


「あれが話に聞いていた結界でしょうか?」


 問題はダンジョンの入口に、明らかに結界ですと言わんばかりの虹色の半透明な膜が存在していることだろう。


「あ、ちょうど何人か試しに入ろうとしているみたいね」


 冬乃の視線の先にはイギリス人らしき男女のパーティーが中に入ろうとしていた。

 慎重に先頭の男の人が結界に触れるけど、結界はその男の人を阻むことなく通した。

 それに続くように女の人が入り、次に男の人が――通れなかった。

 その次の女の人も通れず結界に阻まれてしまう。


「傍から見ると結界に通れた人と通れなかった人の違いが分からない、ね」

「見る限りあの人達は同じ年齢くらいだからそう違いはなさそうだけど……。あ、ケンカしてる」


 ソフィが苦笑い気味にダンジョン前で怒鳴り合ってる男女を見ていた。

 あんな場所で喧嘩しているのだから分からなくもない。


「お前ら、何時の間に……」

「いや、まだ結婚していないんだ! この結界は既婚者を阻むって聞いていたから大丈夫だと思ったんだが……」

「そこじゃねえよ! 内緒で付き合ってたとかふざけんなよ!」

「そうよ! あんた何抜け駆けしてんのよ!」

「はぁ? 恋愛なんて早い者勝ちじゃない。いつまでもうだうだ悩んでるあんたが悪いんでしょ!」


 今回は中国ロシアの迷宮氾濫デスパレードの時と違い、言語を習得できる使い捨ての魔道具(500万)を使用して英語を全員習得しているから分かるんだよね。

 昔なら500万も使う気起きなかっただろうに、ちょっと高い買い物かな? 程度に思えてきてるのが怖いね。ガチャなら余裕で溶かせる程度の金額だけど。


 決してあんな昼ドラみたいなドロドロとした人間模様を見るために払ったお金ではないはずなんだけどなぁ。

 言語が分かってしまうからこそ余計悲しくなる。

 最初に入ったあの男の人、パーティーメンバーの女性から全く好意を向けられていないと言うことも考えると余計にだ。


 あっ、男と女が結界から出てきて殴り合いを始めた。

 入る前は仲良さげだったのにあんな一瞬でパーティー崩壊したの初めて見たよ。


「〔ドラゴンのダンジョン〕に入ろうとしただけでもそこそこ有望なパーティーだろうに。これではまともに間引きも出来ていないだろうな」

「……迷宮氾濫デスパレードまっしぐら?」

「そうならないよう定期的に〔ドラゴンのダンジョン〕には高額な報酬で依頼が出ていたくらいなのだが、それも時間の問題だろうな」


 オリヴィアさんはため息をつきながらオルガの問いかけに頷いていた。


「その通りだリヴィ」


 突然オリヴィアさんを愛称で呼ぶ人が現れ僕らは一斉にそちらに視線が向いた。

 結構綺麗な人だけど、この人は一体……?


「お祖母様!?」

「「「「「えっ?」」」」」


 オリヴィアさんがお祖母様と呼んだ人物を見ると、見た目がどう見ても20代、下手すれば10代後半にすら見えるほど若々しい人物であり、クセのない金髪ロングと薄い緑色の目をしたスタイルのいい女性だった。


 この人が祖母とか嘘でしょ?


「えっと、すいません。血の繋がりはない方の祖母なんでしょうか?」


 あ、なるほど。

 乃亜の言う通り、オリヴィアさんの祖父が若い女の人と再婚すればこんな事態にもな――


「何を言っているのだ? お祖母様は確かに若く見えるがちゃんと血のつながりのある祖母だぞ」


 嘘でしょ!?


「いやいやいや! 若く見えるってレベルじゃないんだけど!?」


 ソフィが驚愕の表情を見せていて、僕ら全員がオリヴィアさんの祖母を二度見してしまう。


「お前達が何を言いたいのか分からなくもないが、そんなに人をジロジロと見るものじゃないよ」


 オリヴィアさんの祖母がまるで何度も似たような目で見られてきてウンザリしたようなため息を吐いていた。


「私はマイラ。そこのオリヴィアのおばあちゃんだ」


 マイラさんが見た目にそぐわない自己紹介をしてきた。

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