第8話 訓練所

 

 案内された寮は幸いにも1人1部屋与えられた個室であり、プライベートが守られているのは地味に嬉しい。

 さすがにいきなり見ず知らずの人と、2週間近く同じ部屋で過ごすのは嫌だからね。


 僕らは案内された寮の自分の部屋に荷物を置くと、矢沢さんに先導され学校の中をあちこち見て回った。

 今日は矢沢さんについて行って学校見学すればいいらしく、明日から授業に参加することになると伝えられた。


 それにしても、いくら生徒会長だからって、何故僕らの案内をしているんだろうか?

 こういう仕事って、普通学校の先生がするものじゃないの?


 そんな疑問を抱きつつも色々な場所を案内されたけど、ほとんどの場所は僕らの通う学校と同じような設備があるだけだった。

 ただ一点、目の前のドーム状の建物以外は。


「何なんですかこれ?」


 体育館だったらすでに案内されたから違うだろうし、プールも他の場所にあった。

 一体何の建物なんだろ?

 まさか第二体育館とか第二プールとか、そういうオチなんだろうか?


 そんな風に悩んでいると、矢沢さんがニコニコしながら建物を指し示してきた。


「ここはまさに冒険者学校らしいと言える建物だよ」

「ここがですか? 占有ダンジョンがこの中にあるとか?」

「うちの学校が占有している場所は、ここから少し離れた場所にあるから違うね」


 冒険者学校らしい建物で、ダンジョンを管理する建物でもないなら何なんだろ?


「もしかして、ここがかの有名な訓練所ってことか?」

「おっ、正解!」


 大樹が正解を当てたようだけど、え、そんなに有名なの?

 僕全然知らないんだけど。


 僕以外にも冬乃、咲夜は知らないようで首を傾げているから知らないみたいだけど、大樹達のパーティーは全員知っているような雰囲気を出していた。


「そんなにこの施設が有名、なの? 咲夜は今まで聞いたことない」

「やっぱり咲夜もなんだ。冬乃も知らないよね?」

「そうね。そもそも冒険者学校って私立だから調べた事すらなかったし。でも乃亜さんは知っているのかしら?」


 乃亜だけは特に疑問の表情を浮かべなかったし、大樹達と同じで何かしらで見聞きしたことがあるのかな?


「ええ、まあ……。ちょっと人伝で話を聞いたことは何度かありましたので、どういう施設があるかは少しは知ってます」


 乃亜の物言いが、何だか歯に物が挟まったかのような言い方なんだけど、どうしたんだろうか?


「わたしが聞いた話ではあらゆる魔物と戦うことが出来るシミュレーターがあり、スキルも自由に使用していい場所だとか」

「その通り! 自分も初めて見たときは驚いたよ。なんせドラゴンとまで戦う事が出来るんだから凄いよね」

「ドラゴンとまで戦えるのかよ!?」


 大樹が凄い驚いてるけど、もちろん大樹だけでなく僕ら全員もれなく驚いた。

 なんせSランクの攻略不可能ダンジョンの中でも、もっとも攻略が困難なダンジョンだと言われている場所で出る魔物だ。

 そのダンジョンはイギリスにあるから、わざわざ海外に行かないと出会えない魔物だし、創作物でもよく出てくる魔物だから、シミュレーターでも見れるなら見てみたいよ。


「まあシミュレーターを動かすことが出来る日は限られてて、そんなに頻繁に動かすことが出来ないから、もっぱら生徒同士の模擬戦闘で使ったり、スキルの試し打ちに利用されてるんだけどね」

「あ、そうなんですか」


 じゃあ、今すぐにドラゴンが見られる訳じゃないのか。ちょっと残念。


「ただ留学生の為に1日だけシミュレーターを使用するって話だから、その時に様々な魔物を見ることが出来るはずだよ」

「「「おおっ!!」」」


 それは嬉しい話だ。

 これを彰人が聞いたら、そんな面白そうな事してたんだって羨ましがりそうだな~。


「それじゃあ早速入って――」

「乃亜ーーーーー!!!!!!!」


 え、なに?!


 急に乃亜の名前を大声で呼ぶ誰かの声が、校舎のある建物の方から聞こえてきた。


「うげっ」


 乃亜が見たこともないようなしかめっ面をして、声の聞こえてきた方向を見ていたので、僕もそちらに視線を向けると、遠すぎて豆粒ほどの大きさにしか見えない何かがこちらに向かって走って来ているのが見えた。


「矢沢さん、早く訓練所の中に入りませんか?」

「え、今君の名前が呼ばれたみたいだけど、いいの?」

「あれは放っておいて構わないので問題ありません」


 乃亜がそんな風に人に対して雑に扱うのは珍しい……いや、性癖三銃士とか僕のクラスメイトとか、結構雑に扱ってるか。

 まあ雑に扱うのも納得な人物たちだと考えると、今こっちに向かって来てる人も相当アレな人物なのか?


「よく俺に会いに来てくれた乃亜!」

「いや、そんな気持ちはゴマ一粒ほどもないから」

「久しぶりだからって、そんな照れる事ないじゃないか」

「照れてないよ。相変わらずだなって呆れてるだけ」


 今にも抱き着こうと迫ってきた男の人に対して、乃亜が僕を盾にして防いでいた。

 一体誰なんだこの人?

 それに乃亜との関係も気になる。

 なんせ乃亜が珍しく敬語じゃない相手なんだから。


「あの、あなたは乃亜とはどういう関係なんでしょうか?」


 ちょっと心に何かを感じ、この人を乃亜に近づけたくなくて僕は彼の視線を乃亜から遮るよう、乃亜をキチンと背後に隠して、そう問いかけていた。


「あ゛あん? 誰だてめえぇ? 俺の乃亜を呼び捨てとはいい度胸じゃねえか……」

「勝手にわたしを自分のもの扱いしないで。この人はわたしの先輩だよ、穂玖斗


 え、兄さん?


「先輩、一応紹介します。その人はわたしの2つ上の兄です」

高宮たかみや穂玖斗ほくとだ!! 妹に手ぇ出したらぶっ潰すぞ!」

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