第7話 デメリットスキル保持者

 

「えっ、本当ですか?!」

「うん、そうだよ。ほら」


 そう言って矢沢さんは、自身のステータスプレートのスキルの箇所だけを見せてくれた。


 [アイドル・女装]


 ……なに、これ?


「最初は[女装]って言うデメリットスキルだったんだ。

 このスキルのデメリットは字面通り、男物の服を着ていると強烈な吐き気を催して、着ていられなくなってしまうものなんだよ」

「な、なんて恐ろしいスキルなんだ……!」

「あたしなら全く気にならないデメリットなんだけどねぇん」


 大樹が戦慄し、恐れおののきながら和泉さんの方をチラリと見ていた。

 大樹も和泉さんのようにがっしりとした体形だから、間違いなく和泉さんみたいな見た目になってただろうし、自分にもしもそんなデメリットスキルが身についていたらと考えて見てしまったんだろうね。


 しかし僕は大変そうだと思う一方、少し感激もしていた。

 まさか僕ら以外のデメリットスキル保持者に会えるだなんて思わなかった。


 デメリットスキルは1万人に1人の確率だから、僕ら以外にデメリットスキル持ちなんて会った事がなかったからね。

 もしかしたら迷宮氾濫デスパレードの時、沢山冒険者がいたから1人か2人くらいいたかもしれないけど、どんなスキルを持っているかは調べようがないから分からないし。


「デメリットスキル持ちって滅多にいないって話だったけど、意外といるものなんだね」

「そうですね先輩。矢沢さん。実はわたしと先輩もデメリットスキル持ちなんです」

「君達もなのかい?!」

「わたしのは……口に出すのは恥ずかしいので、これを見てください」


 乃亜も矢沢さん同様に、ステータスプレートでスキルだけを表示して見せていた。

 まあ[ゲームシステム・エロゲ]とか口に出して言えないよね。


「このスキルを得たわたしは、望まないエッチなハプニングに遭うようになりまして……」

「あ、うん、分かった。それ以上は言わなくていいから。えっと、そっちの君は?」


 ちょっと微妙になった場の空気をどうにかしたいからか、慌てて僕へと話を振ってきたね。


「僕のスキルは[ソシャゲ・無課金]です」

「……………えっ? ち、ちなみにどんなデメリットなの?」

「文字通り、課金が出来なくなるスキルです」


 そう言った途端、矢沢さんが膝から崩れ落ちた。

 え、なんで?


「う、羨ましい……」


 プルプルと震えだし、今にも泣きそうな声でポツリと呟いた声が聞こえてきた。


 強制女装より、強制無課金の方がマシなのか……。

 僕は女装してでも課金をしたいのだけどな。


「分かるかい? 着たくもない女子の制服を着て学校に来た時の、他の生徒たちからの視線を……。

 髪すらスキルに強制的にこの髪型にされたせいで、余計に女の子っぽく見られてたんだぞ!

 しかもその時の視線が、あ~ついにか、みたいな視線で見られて、いや、声にすら出して言われた俺の気持ちを――うぷっ」

「あーもう落ち着いて。恵ったら男の子みたいな言動をしただけでも気分が悪くなるっていうのに……。

 一人称だって“私”や“僕”を使いたくないから、スキルがギリギリ反応しない“自分”を使ってるのに、なんで“俺”なんて言葉を使っちゃうのよん」

「スキルが身に着く前はずっとだったんだから、しょうがないじゃないか……」


 和泉さんはそう言いながら、優しく矢沢さんの背中を撫でて落ち着かせている。

 言動すら縛るとか、デメリット重すぎるな!?


「ううぅ。男らしくなりたくて冒険者学校に来たのに、なんで女の子の恰好しないといけないの……!」

「悲しいわねぇん」


 矢沢さんは見た目女の子に見えるし、そんな自分を変えたくて冒険者学校にまで来たのに、[女装]なんてデメリットスキルが身に着くだなんて悲劇でしかないよ。


「レベルが上がれば[女装]のデメリットが緩和されるかと思って頑張ってるのに、[アイドル・女装]だなんてむしろ悪化しだしてる気がするし……」


 もう泣いていいよ。


「はぁ。ごめんね愚痴なんか言っちゃったりして」


 パンパンと手を払いながら矢沢さんは立ち上がると、軽く頭を下げてきた。


「いえ、気にしないでください。デメリットスキルなんて身に着いたら、大なり小なり苦労があるんですから、思わず愚痴の一つや二つ言いたくなりますよ」

「……[無課金]も苦労があるの?」

「課金が出来ませんね」

「………………そのデメリットが身に着けば良かったな……」


 涙目で黄昏始めたんだけどなんで?


「先輩に言われても嫌味にしか聞こえませんよ」

「僕は[無課金]より[女装]の方がマシだと思ってるけど?」

「普通なら逆なんでしょうが、先輩の場合本心から[女装]の方がいいと思ってるから、なんとも言えませんね」

「有り得ない……」


 矢沢さんが、信じられないものを見るような目で見てくるんだけど何で?


「ハイハイ、もうその話はこれでお終いにしましょ。それよりもいつまでも校門前で喋ってないで、この子達の案内をしなきゃダメでしょ?」

「あ、そうだねケイ。みんなごめんね、長々と話しちゃって。それじゃあ早速寮の方に案内するよ」

「荷物を持ったまま学校を見て回るのは大変だものねぇ。あ、もしも何か移動してる途中で気になったものがあったら、ドンドン質問してくれて構わないわん。お姉さんが何でも答えちゃうんだから」


 お姉さんというより、おねぇさんでは?


 何とも強烈な個性を持つ2人に、学校案内をしてもらう事になってしまった。

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