第33話 試練か帰還か
≪蒼汰SIDE≫
ドッペルの僕を倒した後、コロッセオに来た時と同じように僕の目の前に黒い渦が現れた。
「ドッペルゲンガーを倒した直後にこれが目の前に現れたら、誰も自分の影に攻撃しようだなんて思わずにそのままこの渦の中に入っていくんじゃないかな?」
『ドッペルゲンガーと戦っている最中にそんな事に気を回すのは難しいのです。
ぶっちゃけご主人さまみたいに奇特な性格でもしていない限り、コロッセオの中心で待ちぼうけになんかされたりしないのです』
奇特とか言うなんて酷くない?
僕の抗議するような視線なんてまるで意に介さず、アヤメはフワフワと黒い渦へと進んで行くので、僕もアヤメに遅れない様に黒い渦を潜り抜ける。
「あ、先輩!」
「蒼汰、無事だったのね!」
そう言って僕を出迎えてくれたのは乃亜と冬乃だった。
「良かった。2人は無事だったんだね」
「はい。何とか自分のドッペルゲンガーに勝てましたよ」
「大変な相手ではあったし、まだ戻って来れてない人もいるからこう言ったらダメなのかもしれないけど。正直今までの戦いの中では一番いい経験になった戦いだったわ」
冬乃は自分の手を握ってそれを見つめていた。
いい経験か……。
“強欲”に呑まれた己のドッペルゲンガーが頭によぎる。
最後にはガチャ欲の強さゆえに倒された悲しい生物との虚しき決着。
………………いい経験だったとか口が裂けても言えないよ。
「そうなんですね。わたしはどちらかと言えば、戦闘よりは己を見直すのに役立った感じでした」
「己を見直す? 乃亜さんは戦闘しなかったのかしら?」
「いえ、そうではありません。
戦闘はもちろんしましたが、その最中、ドッペルゲンガーにわたしが無意識に行っていた事を指摘されて少し動揺させられてしまったんです」
「え、大丈夫だったの?」
「戦闘に支障をきたすほどのものではないので、先輩が心配するほど大したことはありませんでしたよ。
ただハーレムの数はもう少し増やしてもいいかなと思い直しただけで」
『「「何言ってるの(ですか)?!」」』
どんな経験を経たらそんな結論に達することになったのか怖いもの見たさで気になるけど、深く聞けば墓穴しか掘らない気がするので止めておこう。
「あっ、みんな早い、ね」
『「「「咲夜(先輩)(さん)!」」」』
少し体をよろめかせながら咲夜が黒い渦から出てきて――
「疲れた」
「咲夜?!」
その場で倒れた。
「咲夜先輩大丈夫ですか?!」
「ちょっと、咲夜さんしっかりして!」
『怪我は大した事なさそうなのですが……』
乃亜達が咲夜に近寄り酷い怪我がないかとか確認していたら、咲夜が絞り出すような声を上げてきた。
「体力の……限界」
あ、なるほど。
「ドッペルゲンガーとの戦いだから、〝神撃〟か〝臨界〟使ってスタミナが根こそぎ無くなったんだね」
「うん。ちょっと休んでから戻って来たけど、もう体を動かすのが億劫」
「先輩、咲夜先輩を回復させられますか?」
「了解。〔
ほぼ使わずに済んだから全員回復させてあげられるんだよね。
「自分とそっくりそのままの相手と戦ったのに、なんでそんな余裕があるのよ?」
「……自分をより深く知っていたから、かな?」
『物は言いようなのです』
〔
「ありがとう蒼汰君。これでまともに動ける」
「ありがとうございます先輩。正直に言えば結構体がギシギシしてたので助かりました」
「ありがとう蒼汰。凄いわねこれ。疲れが一気に取れるんだから」
3人にお礼を言われた後、水分補給などしながら試練での出来事をみんなと話した。
「影の中に敵がいたのは全然気づきませんでした」
「でもそいつ、特に何もしてこなかったわよ」
「今影に攻撃しても何の反応もないし、何のためだったのか、な?」
真の試練クリア条件とか言ってたけど、【
「まあ、今も影の中に潜んでいるわけじゃないなら問題ないわ」
「そうですね。先ほどの試練の場だけの存在なんでしょう」
「真のクリアしてないから、咲夜達は【典正装備】が手に入らないのがちょっと残念だけど、ね」
「この条件をクリア出来てる人って他にどれだけいるのかな?」
ふと周囲を見回してみるとまだ四分の一ほどの人間しか戻ってきていないのが見て取れた。
「まだまだ戻って来れてない人が多いね」
「そうですね。ソフィア先輩達もまだ戻ってきてませんし」
結構時間かかってるなぁと思いながら乃亜達と話していたら、ポンッと軽快な音が鳴ったのでそちらへと視線を向ける。
『キシシシ。ご苦労様~』
『クシシシ。自分自身と戦うのは大変だったんじゃないかしら?』
僕らを見下ろしながら、マリとイザベルが宙に突然現れた。
『それじゃあ試練の結果だけど、ここにいる人間には報酬を与えないといけないわね』
えっ? まだかなりの人数が戻ってきてないのに?
「おいちょっと待て! まだ戻ってきてない仲間がいるんだよ!」
全員が思ったであろうことを、遠くの方にいた冒険者の人が声を荒げてマリとイザベルに待ったをかけていた。
『キシシシ。ここにいる人間以外は試練に失敗してドッペルゲンガーに取り込まれたわよ』
「「「は?」」」
少なくともまだ4、5千人くらいは戻って来れてないのに、その全員が試練に失敗した?
しかもその中にはソフィアさん達までいるというのに?!
「と、取り込まれた人間はどうなるんだ?!」
『クシシシ。そうね。私達の遊び相手として有効利用しようかしら?』
『キシシシ。もしくはあえて外に出して世界を混乱させるのも悪くないわね』
どちらにしろドッペルゲンガーに取り込まれたままだということを暗に物語っていた。
「助ける方法はないのか……!」
『『あるわよ?』』
あるのかよ。
もうずっと取り込まれたままなのかと一瞬思ってしまった。
『でもあなた達はもう元の場所に帰る事ができるのよ?』
『わざわざ他人のためにその身を犠牲にしてまで助けに行く必要があるのかしら?』
『『今ここで決めなさい。報酬を受け取るか追加の試練を受けるのか』』
パチンッとマリとイザベルが指を鳴らすと、黒い渦の横に白い渦が出現した。
『ドッペルゲンガーに取り込まれた人間を助け出したいのであれば黒い渦を潜りなさい』
『もう試練を受ける気がなく元の場所に戻りたいのであれば白い渦を潜りなさい』
なんて意地の悪い選択肢なんだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます