第34話 二択とは?

 

 追加の試練かこの世界からの脱出か。

 その二択はあまりにも重い選択だった。


「追加の試練の内容はどんなものなんだ?」

『参加する人にだけ説明するわ』

『参加しない人間に説明しても意味ないもの』


 近くにいた冒険者の人が試練内容を聞いてくれたけど、マリとイザベルは一切教える気はないようだ。

 試練の内容が分かるのであればまだ参加するかどうかも決めやすいんだけどなぁ。


「これは……困ったね」

「そうですね。もしも知り合いで巻き込まれたのがわたし達だけなら、迷いなく元の場所に帰る方を選択できましたけど……」

「ソフィアさん、オリヴィアさん、オルガさんが取り込まれてしまってるものね」

「助けたいと思う、けど……」


 乃亜達は困った表情をしているなか、フワフワと浮いているアヤメが僕ら4人の顔が見える位置に移動し、真顔でこちらを見つめてきた。


『見捨てません?』

「何言ってるのアヤメ?!」


 真顔でとんでも発言するのは止めて!?


『いえ、割と真剣な話なのです。

 先ほどの試練でもご主人さまはともかく、乃亜さん、冬乃さん、咲夜さんの3人は体力を振り絞ってギリギリだったのです。

 いくらご主人さまの力で体力を回復したとはいえ、追加の試練なんて無謀にもほどがあるのですよ。

 それに先ほどの魔女達の発言からして、少なくともドッペルゲンガーに取り込まれた人達を殺す気はないようですから助けるチャンスはあると思いません?』


 アヤメの言う事はもっともだしここは一旦退くのが合理的な選択、なのかもしれない。


「でもここで逃げたら助けられる保証もない、よね?」

「咲夜……」


 確かに咲夜の言う事も一理ある。

 マリとイザベルがわざわざ追加の試練と言ってきたし、このタイミングを逃せば助けられない可能性は大いにある。


 どうする? どっちを選択するのが正しいんだ?


「「………」」


 乃亜と冬乃は僕と同じで黙って考えているみたいだし、悩んでいるようだ。

 今のところ、アヤメは一度離脱、咲夜は助けたい、乃亜と冬乃は迷ってるといった感じか。


 さすがに知り合ったばかりとはいえ、学友の命が僕らの選択にかかってるだけあり中々結論はでない。


 沈黙が僕らを支配する中、それを打ち破ったのはある意味当然の人物であり、ある意味予想外の人物だった。


『『あっ、あなたは参加決定ね』』

『「「「「悩んだ意味!?」」」」』


 マリとイザベルが僕を指さして強制参加を命じてきた。


『えっ、なんでなのですか!?』


 かなり理不尽な発言に対してアヤメがマリとイザベルに食って掛かっていた。


『だって面白いんですもの。笑い過ぎて死にそうになったのは初めてなくらいよ』

『ええそうよね。こんな方法で【アリス】までついでにクリアされそうになったくらいよ』

『『だからもっとあなたを観察していたいわ』』

「扱いが酷い」


 人をケージに入ってるハムスターでも見るかの様な目で見るのは止めてください。


『いいじゃない。あなたのお友達を助けやすいよう試練の内容も少し配慮してあげるから参加しなさいよ』

『本来ならこんなサービスしないし、この機会を逃したらもう二度とチャンスは訪れないわよ』

『あ、それともう1つ。今回の試練に参加しないと【ドッペルゲンガー】の【典正装備】が手に入らないわよ』

『途中退出するようなものだから、報酬が無いのは当たり前よね』


 畳みかけるようにメリットを提示してきたけど、どんだけ僕に試練を受けさせたいんだと言いたいよ。


『いや、【典正装備】って4人までじゃないですか。この中で何人参加するか分かりませんけど、手に入る確率なんてほぼないのですよ』


 アヤメがもっともな事を言う。

 手に入る可能性がほぼないものをメリットに提示されても微妙だから、危うく騙されるところだった。


『そんな事ないわよ。あなた達だけにこっそりと教えてあげるけど、今現在【典正装備】を入手できる候補者は3人だけよ』

『その中にあなた達が入っているとだけ言っておくわ』

『『だから参加しなさいよ』』


 何が何でも参加させようとする強い圧を感じる。


 マリとイザベルの言う事が本当なら、この追加の試練を乗り越えられれば確実にこの中の誰かが【典正装備】を手に入れられるということになる。


 ソフィアさん達を助けられ、オマケに【典正装備】まで手に入ると良い事尽くめだ。

 ……命が賭け皿に乗っていなければだけど。


 さて、どうするか……。


『えっ、参加するって?』

『そうなのね。そこまで言うなら仕方ないわね』

「まだ何も言ってないんですけど!?」


 いやだから選ばせてよ!


『さっきも言ったけど、あなたの参加は決定事項なのよ』

『あなたが仮にこの世界からの脱出を選んでも、うっかり手が滑って黒い渦の方に放り込んでしまう可能性は100%よ』

「理不尽すぎる!」


 ヤバい。この人達に気に入られ過ぎてて、どうあがいても試練に参加させられてしまうみたいだ。


『理不尽じゃなかったら、そもそもこんな試練やってないわよ』

『ホントよね。人の都合なんてお構いなしに大勢の人間を巻き込んで試練なんてしてるのよ?』

「それを言われると何も言えないなぁ」


 どうやら僕には選択肢が一択しかなく、そんな僕を助けるために乃亜達も一緒に参加してくれることになった。

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