第35話 追試の内容

 

 結局試練を受けることになったので、諦めの気持ちを抱えながら黒い渦を再び通った僕らは、今度はバラバラにされることなく真っ黒な城の門の前に立っていた。


 ……魔王城かよ。


「見た目からラスボスのいるステージって感じだね」

「何というか禍々しい建物ですよね」


 僕と乃亜の発言にみな賛同しているのか揃って首を縦に振っていた。

 まあ最後の試練だというのなら、ある意味クライマックスの象徴とも言える魔王のいそうな城はピッタリなのかもしれない。問題があるとしたら――


「たったの100人ちょっとしかいないのね」

「ほとんどの人はこの世界から脱出するのを選んじゃったから、ね」


 冬乃と咲夜の言う通り、僕らの他にこの試練に参加するのは100人程度しかいない。

 2千人くらいはいたのにこれは酷い。


 いや、僕らだってこの世界からの脱出をするのか悩んだくらいだし、逃げた人の事は責められないか。

 むしろ100人もいるんだからまだマシだと思おう。


『キシシシ。随分と人が減ったわね』

『クシシシ。ホントね。とっても薄情だわ』


 そう仕向けたのはあなた達ですよね?


『いなくなった人達の事を気にするだけムダだし、追加の試練の説明をしましょうか』

『安心しなさい。その人数でもちゃんと頑張ればクリアできる試練にしてあるから』


 傲慢な発言だけど、絶対クリアさせる気はないと言い出さないのは助かるよ。


『ルールは簡単よ。この城のどこかにドッペルゲンガーを率いる存在、ドッペルマスターが存在しているからそいつを倒すだけ』

『それを倒すことができれば、ドッペルゲンガーに取り込まれた人間の全ては解放されるわよ』

「随分とシンプルなルールだが、当然ドッペルマスターとやらと戦うだけでは済まないのだろう?」


 城という広大な建物内でかくれんぼのような事をするだけ、なんて簡単な話だったらいいと思うのはあまりにも甘い考えか。

 出来る限り情報を引き出そうとしてくれている冒険者の人には感謝だね。


『それはあなた達次第ね』

『やろうと思えばドッペルマスターだけと戦う事はもちろん出来るとだけ言っておくわ』


 ふむ。ドッペルマスターがドッペルゲンガーを率いる存在なら、取り込まれた人間と戦わされたり、また自分のドッペルゲンガーと戦う事になると思ったのだけど違うのかな?


『ああ、そして最後に1つ条件があるわ』

『5人までよ』


 何が?


『『試練に一緒に挑戦出来る人数』』


 ……へっ!?


「ここにいる全員で挑むんじゃないの!?」


 僕が思わずそう尋ねたら、思った通りの反応が見れて嬉しいのかニヤニヤと2人は笑みを浮かべてきた。


『別にそれでもいいけど、その場合は試練の難易度が上がるわね』

『さっきあなたに言った通り、ちゃんとお友達を助けやすいように試練の内容を配慮した結果よ』

『『それで、どっちがいいかしら?』』

「……5人で挑む方、かな?」


 一応周囲の反応を見ながらそう答えることにした。

 全員が頷いているのでこの答えで問題なさそうだ。


 はぁ……。難易度は下がったけれどここにいる全員では挑めないのか。


『今ここには125人いるから、25の空間を用意するわ』

『そこにはドッペルゲンガーに取り込まれた5千人ほどの人間達もいて、200人ずつくらいに分けるわ』

『100人で5千人相手にするのと、5人で200人を相手にするのとではどっちがマシかしらね?』


 城の中なら100人で挑む方が狭い空間だろうしマシな気がするのは気のせいだろうか?

 いや、その場合はさすがに城ではなくもっと大人数で動ける場所になっていただろうし、マリとイザベル曰く難易度は下がってるから5人で挑む方がマシなんだろう。


『ちなみに25の空間全てのドッペルマスターはHPを共有しているから、どこか1組でもドッペルマスターを倒せればそれで試練クリアよ』


 それならやはり5人で挑むのが良さそうだ。

 ……125人が試練に挑む前提でHPが膨大でなければだけど。

 エバノラと違ってキチンとクリアできる前提で試練を作っているみたいだし、そこまで理不尽ではないことを願いたいところだ。


『それじゃあ早速組み分けを開始しなさい』

『好きなようにチーム分けするといいわ』


 ボッチとコミュ障の人には辛いセリフを叩きつけ、これ以上言う事はないと言わんばかり黙ってしまう。


「5人での挑戦となると、あと1人誰かと組まないといけないね」

「そうですね。全く知らない人と組むことになるので連携に不安がありますけど」

「乃亜さんの言う通りだわ。何で4人じゃないのかしら?」

「ダンジョンでパーティーを組む際には4人までなのに、ね」


 パーティーの仲間を救うために来ている人達もいるから僕らと組む事が出来る人もいそうだけど、人数が足りていても一緒に戦えるかは別問題だ。


 僕らは困った表情を浮かべながら、1人だけでどこのパーティーにも属していなさそうな人がいないか探そうとしたら、マリとイザベルが僕らに近づいて来て首を傾げてきた。


『何を言っているのかしら?』

『そうよね。あなた達はもう5人じゃない』

「「「「えっ?」」」」


 何を言っているのか分からず困惑していると、マリとイザベルが僕らを指さしていく。

 僕、乃亜、冬乃、咲夜と指さしていき、最後の1人、アヤメにその指が止まった。


『はい?! ワ、ワタシもカウントされるんですか!?』

『当たり前じゃない』

『スキルでも【典正装備】でもない確固たる自我のある存在なのに、何故カウントされないと思ったのかしら?』

『『そもそも5人が条件なのは、あなた達の人数に合わせたからなのよ』』


 知らない内に忖度されていたようだ。

 まさか試練の内容を僕らに合わせているだなんて思いもしなかったよ。

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