第32話 それぞれの勝利
≪乃亜SIDE≫
『「ハァハァハァ……」』
お互いボロボロの衣服を身に纏い、普段なら傷がつかないはずの身体にはあちこち傷が出来ていた。
持っていたモーニングスターは既に手放していて、構えているのはお互いに大楯だけ。
そう。全くの互角でした。
『な、なんで? あり得ません! わたしがワタシに勝ち目なんてあるはずないのに。
“強欲”で強化されているワタシが押し切れないはずが……』
「押し切れるはずないじゃないですか」
『えっ?』
呆然とわたしを見つめるドッペルのわたしに、少しだけ感謝の気持ちを込めて言葉を紡ぐ。
「さっき言われてようやく自覚しましたよ。わたしがこれ以上ハーレムを増やす事を望んでいなかった事を」
でもわたしの本当の望みは微妙に違う。
無意識にわたしの家族の形を理想としていたがために、ドッペルのわたしはその望みをすくい上げ表面化していたみたいだ。
でもこれからは違う。
わたしの本当の望みはあくまでお父さん達みたいなハーレムを作り、沢山の家族に囲まれたいこと。
だというのに、無意識に人数を3人に制限していただなんて……。
だからそれに気づかせてくれたドッペルのわたしには感謝しかない。
まあ、先輩の事がちゃんと好きでハーレムである事を認め、かつわたし達3人と仲良く出来る人に限られるので、そうそう増える事はないでしょうが。
『だから何だって言うんですか! 自覚したからといってワタシに勝てる道理なんて――』
「弱いです」
『は?』
「だから、欲が弱いんですよ。わたしの“強欲”が」
自分でもびっくりするくらいちっぽけな欲でしたよね。
「たかだか現状維持を望む程度の“強欲”がどれだけ強いというんですか」
『そんな……! でもワタシは確かに強化されていました。少なくとも最初はあなたを圧倒していたはずなのに!』
「それは最初だけじゃないですか。少しだけ強くなった程度でしたから、動きに慣れてしまえば対処は十分可能です」
わたしがどれだけ自分よりも強い相手を前に、大楯でみんなを守ってきたと思っているんですか。
『あり得ない! 同じ身体、同じ能力、同じ装備のはずなのに!?』
「そう言うあなたは先ほどから動きに変化がないですよね。成長、しないんでしょ?」
『うるさい! うるさいうるさいうるさい!!
これで終わらせる。〔
「タンク役が忍耐できなくてどうするんですか」
わたしは
『わあああぁぁ!!』
「くうっ!」
毘沙門天の加護を1分間得る〔
さすがにこれを耐えるのはかなり厳しい。
ですがわたしの攻撃力がそこまで大した事ないのは、わたし自身がよく知っている事。
しかもドッペルのわたしの手にあるのは大楯だけ。
そんな攻撃に適さないものをがむしゃらに振るったところで、わたしの防御は抜けませんよ!
『あああぁっ! あっ……』
「1分、経ちましたね。〔
身体に負荷のかかる〔
「はあっ!」
『キャアアアア!?』
動きがガクンと鈍くなったその一瞬に、わたしはドッペルのわたしの首目掛けて大楯を直撃させた。
防ごうと大楯を構えようとしていましたけど、鈍くなった身体では防げませんでしたね。
「わたしの勝ちです!」
◆
≪冬乃SIDE≫
『くっ、[狐火]!』
「そんなの食らわないわよ!」
ドッペルの私は破れかぶれに[狐火]を放ってきたけれど、今更そんな攻撃当たるはずがない。
『そんな!?』
「接近戦に慣れてなくて本当に良かったわ」
蒼汰達とパーティーを組む前、1人でダンジョンに来ていた時ですら、怪我しないように[狐火]で遠距離から攻撃するばかりで肉弾戦はとんとしていなかった。
「成長しない自分相手だと訓練に丁度いいわ」
『ワタシを踏み台にするつもりなの!』
「そもそもあんたは試練で生まれた私の影でしょうが!」
むしろ踏み台として使うのが正しい使い方よ。
『まだ……まだよ! 〔
「っ!? あんた、まさか!?」
やばっ!
『ここで負けるくらいなら一か八か。全部吹き飛ばす! 〔
「思いっきりが良すぎるのよ! [瞬動]」
『〈
間に合え!
『えっ、キャアアアア!?』
強烈な爆発音がドッペルの私の近くで響き渡る。
「あ、危ないところだったわ。
まったく、私がどれだけ〔
〔
だから[瞬動]で遠くに離れつつ、〔
最初はヤバかったけど、なんとか勝てたわね。
◆
≪咲夜SIDE≫
普段あまりやらない戦い方だけあって慣れないけど、それもドッペルの咲夜と〝臨界〟状態で殴り合っていくうちに大分慣れてきた。
『上手くかわす、ね』
「うん。普段は受け止めてばかりだから慣れなかったけど、ね」
30秒かけて相手の攻撃をよく見てかわす事を覚えた。
『「[瞬間回帰]」』
30秒経つ直前、[瞬間回帰]でスタミナを一瞬で回復させ、再び咲夜達は殴り合う。
10秒かけて相手の攻撃のタイミングを見計らって、腕でその攻撃を払って受け流すことを覚えた。
10秒かけてフェイントをかけ、相手の防御のタイミングをずらす事を覚えた。
最後の10秒、人体を拳で打ち抜く事を覚えた。
『負け、だね』
「うん。咲夜の、勝ち」
ドッペルの咲夜はどこか満足そうな表情で消えていった。
「つ、疲れた……」
[瞬間回帰]を使ってしまい、[スタミナ自然回復強化]を頼りに体力を回復させるしかない以上、今はここでじっとしているしかない。
「みんなは大丈夫、かな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます