幕間(1) 探す気は無かったのに……
≪桜SIDE≫
「このペンダントが壊れた訳じゃ……なさそうさね」
無色透明だったペンダントの石の部分が赤く光って、探し人が近くにいる事を示し続けていた。
私はもう何度か発見器を使ってみるけど結果は同じ。
「何で探す気が無かった私が見つけちゃうのさ」
困ったな~と思いつつも、これを無視するわけにはいかないのでしょうがなく土御門課長へと連絡する。
『もしもし土御門だ』
「白石桜さ」
『どうかしたかね?』
「異界の住人がいたさ」
『……………ふぅ』
「どうしたのさ?」
『今が忙しい時期だと分かっているだろ? そんな時にいたずら電話は勘弁してくれ』
「私を普段どう思ってるかが分かる返事がきたさね」
さすがの私でもこんな悪ふざけな報告はしないさ~。
はぁ、しょうがない。
「今がどれだけ忙しいか分かった上での報告だと思ってください」
『白石君が敬語を使うなんてよっぽどだな。どうやらかなり真面目な報告の様だ』
「……報告なかった事にしていいさ?」
『ダメに決まっているだろう。今の時間だと白石君は学校にいるな?』
「そうさね」
『そうなると対象は学校関係者の可能性が高いか』
「たまたま近くを通りかかって、反応にかかった線もあるんじゃないさ?」
『そうだとしても、君のいる街周辺に潜伏しているのは間違いない。何としてでも異界の住人を探し出して欲しい』
「いやちょっと待って欲しいさ。もうちょっと精度の高い発見器がないと無理があるさね」
なんせこの学校周辺が発見器の効果範囲であり、学校内だけでもどれだけの人間がいると思っているのかと。
『そちらはなんとか明日までに用意する。今日のところは白石君のいる学校関係者にその発見器が反応しているのかを調べて欲しい』
「……聞きたくないけど、どうやってさー?」
『その発見器を一定時間ごとに起動させたまえ。放課後になっても反応し続ければ、ほぼ間違いないと思っていいだろう』
「やっぱりか~」
魔力消費がさほど激しくないとはいえ、何度も魔力を消費すれば多少の倦怠感はある。
戦闘中であれば戦闘の高揚で魔力がある程度減っても誤魔化せるだろうけど、日常でこれを何度も使い続けるのは怠い。
「あ~嫌さ~面倒さ~」
『やりたまえ』
「上司がパワハラしてくるって訴えてやるさー」
『それはシャレにならないから止めたまえ』
「特別手当を要求するさー」
『もう手続きした』
「くそう。金銭を得た以上はやるしかないじゃないか」
『白石君は普段ふざけているが、給料分の仕事は確実にこなすから助かるな』
「まあ対価を得た以上は、こちらも労働しないと釣り合わないんで」
『白石君の特性は扱いやすくて助かるな』
「いつかセクハラで訴えるさー」
『冤罪だけは止めたまえ!?』
――ツーツーツー
土御門課長への報告は完了したので、これで私の責務は一応果たしたと言える。
「この発見器を使い続けなきゃいけない事以外は、ね……」
報告したら仕事が増えるとか、嫌すぎてしょうがないさ。
「とりあえず30分置きに反応を確かめるとしますかね」
≪彰人SIDE≫
「大樹も蒼汰もいないとかつまらないな。
いやしょうがないんだけど。2人は冒険者として活動してるし、今後の事を思えば留学の話に乗るのは当然なんだけど……」
あの2人の行動を傍で見て絡みに行くのが面白いのに、今は使い魔を通して何をしているのかを見ている事しか出来ない。
「はぁ。向こうは楽しそうだな。ただの監視用の使い魔だから負担は少ないけど、ずっと見ていられるほど維持するのは難しいし」
見られない間はギャルゲをやるくらいしかする事ないし。
でも向こうの状況が気になるせいで、話の内容がいまいち頭に入ってこないんだよね。
あーつまらない。
「久々だな。こんな気分」
大樹と出会う前まではずっと感じていた、何もかも興味の持てない感覚。
世界が色あせて見えて、つまらない日常を怠惰に生きる日々。
今思えばそれは、何世代も前の先祖の言う事を言われるがままに聞いていたために、確固たる自己を持っていなかったせいだろう。
結果として流されるまま生き、無為な日常を送るだけの人形と化していたボクは、ある意味この世界を生きてすらいなかった。
そんなつまらない日常を払拭してくれた大樹。
小学3年の時に大樹が突然ハーレムを作るなんて言い出した時、大樹の姿だけが他のモノと違って色が鮮明についていたのを思い出す。
――オレはハーレムの主になる!
これを聞いた時は正気かと疑った。
しかしそれを何度も連呼するので、正気のまま頭のおかしな発言をしているのだと分かった。
だからボクは興味を持った。
普通じゃない。
有象無象と違う、個性に溢れた人間。
誰に何を言われても己を曲げない、確固たる自己。
ボクにないものを持ち、自分の意思で生きるその姿が眩しかった。
気が付けばボクは大樹に近づいていて、そして友達になった。
それから数年して、異常なまでにガチャを回すことに情熱を注いでいる蒼汰と出会い、友達となった。
蒼汰も大樹同様、どれだけ周囲に何を言われようとも己を貫いている。
そんな2人を見ているのがここ数年で一番面白いことだっただけに、今が退屈でしょうがない。
「何か面白い事起きないかなー」
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