第26話 青春のメモリー


≪矢沢SIDE≫


 寝ずに歌って踊り続けてすでに1週間。

 スキル[不眠]と[寝だめ]を国から渡されたお陰で起きていられるし、歌と歌の合間にライブMCや休憩を挟んでいてもスキルは維持できるので問題なかった。

 この2つのスキルが組み合わさる事で長期間起きて活動できるようになるため、【織田信長】の時ほど体辛くない。


 こんなスキルがあるのならば【織田信長】の時に使いたかったけど、生憎あの時はのスキルスロットが空いてなかったし、どちらのスキルも希少で中々手に入らなかったらしいから仕方ない


 って!! いけないいけない!

 長期間[アイドル・女装]を使用し続けた影響で、思考ですら女性っぽくなってしまってる!


 こんなにも長くスキルを使用し続けた経験がなかったせいで、まさか言動だけでなく思考にすら浸食してくるようになるだなんて思いもしなかった。

 デメリットスキルって、精神にも悪影響を及ぼすものなんだろうかとすら思うほどだ。


 鹿島君と高宮さんはそんな事はない……のだろうか?

 う~ん、あの2人は素なのかスキルの影響なのかが微妙に判別できないな。


 そんな事を思いながら適当にスキルを維持していたら、ついに迷宮氾濫デスパレードが起きたのかドラゴンが現れた。


『私は大丈夫だからみんな、逃げて!!』


 自分は[ライブステージ]があるからたとえ攻撃されたところで、ステージの上には誰も入れず攻撃も効かないから問題ないけど、ここにいる人達は違う。


 レッサードラゴンならともかく、カラードラゴンやそれ以上の存在と戦ってこの場を守って欲しいだなんてとてもじゃないけど言えない。

 少なくともスキルはまだ3日は維持できるし、ここはダンジョンから出て外の人達と協力してドラゴン達を倒して欲しいと思い、逃げてくれとお願いした。


 いくら自分の力で生き返れるとはいえ、死ぬ時の衝撃は精神にそこそこくると鈴が言っていたけれど、そんなそこそこで済むことだなんて思えない。

 そう言った時の鈴は少し震えていたので、相当な負荷なんだと思う。


「メグミのお願いといえどそれだけは聞けないよ!」

「そうだ! オレ達でメグミを守るんだ!」

「メグミがいればオレ達は生き返れるんだ。だからメグミは安心してライブを続けてくれ!」

「「「M・E・G・U・M・I!!」」」


 もうやだこの人達。


 ここにいる人達の中で自分が[ライブステージ]を発動している限り攻撃が効かない事を知らない人もいるんだろうけど、知ってる人ですら自分の歌を聞きたくて残ろうとしているのがありありと分かるのが悲しい。


 ああなったら自分がどれだけ言っても言う事を聞かないのは冒険者学校の人達で分かっているので、もうこうなったら全力でここにいる人達を援護するしかないか。


『[戦え! 私の戦士たち]!』

「「「うおおおおおおおっ!!!」」」


 なんだか自分の歌のせいで狂戦士を量産しているみたいで嫌だけど、このまま援護しないわけにもいかないから仕方ない。

 ここにいる人達は仕方ないとして、ケイ達は何を――って正面から戦いにいってる!?



≪和泉SIDE≫


「さすが恵ねぇん。逃げろと言っても自ら戦いに挑ませるそのカリスマ」

「本人は全く意図してないけどね~」

「それよりもドラゴン。どう戦う?」


 このみと鈴がいつもの事だといった様子で気にせずに、近くに迫ってきているドラゴンを見据えているわねぇん。


「あたしの我儘で2人に協力してもらうんだもの。全力全開であたしがいくから、2人は出来る限りドラゴンの足止めをして欲しいわねぇん」

「……何する気?」


 鈴が訝し気な表情であたしを見るけど、別に大した事じゃないわよ。


「今まで見せた事なかったけど、【ミノタウロス】と遭遇したあの日から特訓してさらに[ラブ・インパクト]を極めたわん。

 嫉妬心を煽るこのダンジョン内ならよりその効果を強く発揮出来そう。

 でも少しタメが必要だから2人にはその間ドラゴンの気をちょっとでもいいから引いていて欲しいのよん」

「あ~ケイちゃんって密かにそんな訓練してたんだ~。……気持ちは分かるけど」


 すこ~しだけ怪しい目つきになっているわよこのみ。間延びする口調まで抜けているんだからよっぽどねぇん。

 あの時鈴が死んでしまった経験からか、その時のトラウマを時折思い出してうなされることがあることは聞いているわん。

 でもそのトラウマを乗り越えるためにあなたも放課後相当訓練に力を入れているわよねぇん。


 そんな風に同い年の女の子が頑張っているんですもの。

 漢女のあたしだって仲間を失って悲しかったし、そんな気持ちを二度と味わわないように頑張るのは当然よん。


「それじゃあこのみ、鈴、しばらく足止めお願いねぇん」

「「分かった(~)」」


 2人がドラゴンへと向かい、[火魔法]を使って拘束しようとしたり、スピードでかく乱してくれている間に、あたしは自身の記憶と向き合う。


 かつての記憶。

 それは甘酸っぱくも悲しいあの頃の思い出。


 時間にして十秒ほどかしら。

 やっぱりまだまだすぐにこの気持ちを鮮明にするのには時間がかかるわねぇん。

 でも準備はできた。


「離れて、このみ、鈴!」


 あたしがドラゴンへと駆けていきながら2人に声をかけると、このみが[火魔法]で最後にドラゴンに目くらましをかけながら離れていく。

 ナイス援護だわん。


 それじゃあ行くわよ!!


「隣の席の男の子にときめいた初恋のメモリー!」


 ――ドンッ


「いつもより衝撃が軽い?」


 鈴があたしの攻撃を見てそう呟いているけど心配いらないわん。

 あくまでこれは序章。


「からの、キモイと言われた悲しみのメモリー!!」


 ――ドガゴゴンッ!!


「ギャオオオオオオッ!!?」

「なんか滅茶苦茶威力が増した~!?」


 そう。[ラブ・インパクト]は想いの強さで攻撃力と攻撃範囲が変動するスキル。

 そのスキルをより効果的に使用するためにプラスの気持ちとマイナスの気持ちを交互に繰り返すことで、その振れ幅からより強力な威力を出せるようになったわん。


 さらにこの嫉妬心を煽る空間は北欧美人や女性らしい恵を見て、どうしてあたしはもっと綺麗になれないのかしらと思う嫉妬の心がさらに威力を加算させる。


「もっとも、やっぱりこんな悲しい気持ちを思い出すだなんて精神的にまいっちゃうし、多用すると慣れてきちゃって威力が落ちるからあまり使えないのだけど」


 それでもドラゴン相手に十分な威力は発揮できるわねぇん。


 さて、あたしの青春のメモリーはまだまだ終わらないわ。

 この引き出し全て開けきってドラゴンにぶつけるわよん!

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