第25話 たとえ先輩がいなくても

 

≪乃亜SIDE≫


 ドラゴンがダンジョンから出て来る頻度は、前に京都で〔スケルトンのダンジョン〕の迷宮氾濫デスパレードがあった時に比べれば全然大した事はありません。

 問題はその戦闘力でした。


「グォオオ……」

「はぁはぁ、ようやく倒せましたか……」


 今わたし達が相手にしていたカラードラゴンは、先輩が入っていった〔ドラゴンのダンジョン〕の中ではそれほど強いドラゴンではありません。

 にも拘わらず、このドラゴンを倒すのにかかった時間は20分近くとそれなりの時間がかかっている上に、わたし達全員が全力――さすがに咲夜先輩の[鬼神]やみなさんが持っている【典正装備】の中でも体に負担のかかるものやインターバルの長い物は使用していませんが――で戦わざるを得ない強敵でした。


「普段から蒼汰の力に頼り切ってるって、こういう時実感するわね」

「うん。蒼汰君の力無しだと思ったよりもパワーが出ない、ね」


 冬乃先輩の[狐火]も咲夜先輩の拳も、ドラゴン相手であることを考えてもいつもよりだいぶ威力が低く感じましたからね。

 わたしの場合は普段と同じようにドラゴンの攻撃を正面から受けるのは無理だろうと判断して、出来る限り攻撃を避けるようにして、どうしても避けきれない攻撃は大楯の【典正装備】、〔報復は汝の後難と共にカウンター リベンジ〕で逸らすようにしていましたからまだマシでしたが。


 それを思うと本当に前回の【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】、シロさんの時に〔空をステッピング 踏む靴オン ザ クラウズ〕を手に入れられて良かったです。

 基本的にわたしはタンク役で正面から攻撃を受け止めるので、この靴を有効的に使う機会がそこまでないかもしれないと思っていましたが、これのお陰で機動力が強化されて攻撃をかわしやすく助かりました。


「やるじゃないかお前達。そこまで強くないとはいえ、並大抵のパーティーじゃカラードラゴンを倒すことすら出来やしないのに」


 そう言うマイラさんは大剣を抱えながら、既に5体のカラードラゴンを倒していました。

 ヤバすぎますね。

 咲夜先輩が[鬼神]を全力で使っている時のような動きをし続けられるとか、もうこの人1人でも十分じゃないでしょうか?


「ワタシ達が一体倒すのにここまで苦戦しているのにマイラさんにそう言われてもね」

「……何故あんなに激しく動いてたのに、そんなに元気なの? 〔透明でスムーズ 雅なウォーター腰帯 フロウ〕の力で動き続けたからボクは割と疲れてるのに」


 ソフィ先輩は半ば呆れるように、オルガ先輩は疑問に首を傾げながらマイラさんを見ていました。


「あん? そりゃあ私がユニークスキル、[万夫不当]を持っているからね。

 こいつは常時発動型で多少激しく動いたところで疲れないスタミナと回復力に常人離れした剣技、ついでに老化遅延効果があるのさ。

 老化遅延は全盛期を維持するためなんだろうが、そのせいで未だに若く見られてナンパされるんだから堪ったもんじゃないよ」


 他人によっては自慢にしか聞こえないんでしょうけど、マイラさんは本気で辟易しているのが分かる表情を浮かべていました。

 まあどうでもいい相手に声なんてかけられても嬉しくないのには同意します。


 それより戦闘力が強化されるスキルとはいえ、スタミナと剣技が備わっただけでドラゴンを簡単に屠ることができるほどここのドラゴンはそこまで弱いとは思えませんでした。

 あれだけの強さはやはりマイラさんご本人の努力の賜物故でしょうね。


「さて、まだまだ来るんだからしっかりしな。

 ……やれやれ。この子らみたいに頑張ってくれればいいけど他の連中はだらしないし、私が頑張るしかないかねぇ」


 マイラさんはそう言って苦戦しているパーティーの元へ駆け出すと、とてもじゃないですがわたしの祖父母達くらいの年齢とは思えない動きで、どんどんドラゴンを倒していってしまいました。

 わたし達もあれくらい強くなれる日が来るんでしょうかね?


「はあ。まあやるしかないかな。ソウタだって中で頑張ってるんだし、ワタシ達が1体倒した程度でへばっている訳にはいかないよね」

「そうだね。蒼汰君の援護なしの状態も感覚は十分掴めたし、次はもっと早く倒す」

「ソフィさんも咲夜さんもあれだけ動いてたのに元気ね。私はドラゴンに狙われない程度に移動しながら遠距離攻撃だったからまだ大丈夫だけど、オルガさんは大丈夫?」


 冬乃先輩が座って少しでも体力を回復しているオルガ先輩にそう問いかけると、オルガ先輩はコクリと頷いていました。


「……ん、問題ない。少し休めたし、〔透明でスムーズ 雅なウォーター腰帯 フロウ〕の使い方を調整すれば体力を余計に消耗しなくて済みそう」


 先輩がいない状態でしたから最初は、体力の消耗覚悟でみんな必要以上に安全マージンをとって戦っていましたが、先ほどドラゴンと戦ってある程度感覚は掴めた様子。


「今度はワタシが壁役になって戦うよ。〔不定形な防御陣シャープレスドローン〕を使えばワタシでも壁になれるさ。

 これは5分しか使えないしインターバルが30分あるからここぞという時に使おうかと思ったけど、今のみんななら5分もあれば十分だよね?」


 そんな全員の様子を感じたソフィ先輩が、今なら自身が前に出てわたしの負担を減らすためにタンク役を買って出ても問題ないと思ったのでしょう。

 わたしはそのソフィ先輩の厚意を素直に受け、その提案に頷くと他のみなさんも同様にそれに賛同しました。


 ドラゴン相手は大変ですがこのメンバーでなら戦えます。

 ですから先輩はわたし達の事は気にせず、頑張って【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を倒してください!

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