第24話 取材


「そろそろ準備をお願いします」


 喋りながら休憩していると、いつの間にか1時間経ったようで隊員の方が呼びに来た。


「分かりました。すぐに行きます」


 僕らは戻っていく隊員の後を追いかけるように、3つ目のバリケードの入口へと向かった。

 僕らがたどり着くと、隊員の方は例の大きなロケット花火を手に持っていた。


「準備はよろしいですか?」

「はい、いつでもいけます」

「分かりました。それでは気を付けて行って来てください」


 そう言うや否や隊員はロケット花火に火を点けた。

 射出されたそれを見た僕らはすぐさま1つ目のバリケード入口に向けて駆けだす。


「交代です!」

「おう、よろしく頼むぜ!」


 冒険者の男の人達は、先ほどと同じように魔石を素早く拾える分だけ拾うと戻っていった。


『……なんか振り出しに戻った感じで微妙な気分ね』


 冬乃の言う通り、最初に交代した時と同じようにバリケード入口近くまで迫ってきているスケルトン達を見ると、確かにまたやり直しかと思ってしまう。


『でもわたし達、と言いますか、冬乃先輩のような装備でもないと接近戦で応対しないといけないのですから、しょうがないと思いますよ』

『分かってはいるんだけどね……』


 冬乃はため息をつきながらもスケルトン達を蹴り砕いて前進していく。


『大丈夫、咲夜が頑張る』


 そんな冬乃を見てか、妙に張り切ってスケルトン達を砕き始めた。


『ちょっ、待って咲夜! 3人が同じスピードで前に進まないと、こっちにくるスケルトンが増える!』

『あっ、ごめん……』


 咲夜は前に出過ぎるのを止めて2人に合わせるようにしたので、咲夜と冬乃の間を抜けてくるスケルトンが少なくなったのでホッとした。

 いくらゴブリン程度の魔物とは言え、4体以上同時に戦うのは僕ではキツイ。

 3人と違って〔成長の種〕で自身を育成出来ないので、レベル相応にしか戦闘力がないんだから。


 いや、レベルがあってもスキルは無いに等しいんだから、他の冒険者に比べて戦闘力はもっと低いか。

 まあその分、3人を強化して戦ってもらっているので問題ないけど。

 ……………女の子にばかり戦わせてる現状は、男としては心苦しいね。

 バッファー役だと開き直れればいいんだろうけど、そこまでの境地には至れないよ。


 出来れば今回の“迷宮氾濫デスパレード”でレベルが上がって、戦える派生スキルが来ることを望みつつ周囲を見渡す。

 うん。先ほどと同じくらいの距離までスケルトン達を間引けているようだ。


『いい感じに入口から遠ざけれたから、戻って来て』

『分かりました』

『了解』

『ふふ、じゃあ早速〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕の出番ね!』


 乗り気なようで何より。

 それから僕らは先ほどと同じように、1時間楽に耐えきった。


「また1時間後に再開か。今10時だけど、午後8時までって考えると結構大変そうだ」

「わたし達は先輩と冬乃先輩のお陰で随分楽ですけどね」


 僕らは再び先ほど休憩していた場所へと移動している時だった。


「すいません、ちょっと取材させて頂いてもよろしいでしょうか?」


 マイクを持ったテレビで見るアナウンサーのお姉さんが僕らに声をかけてきた。

 お姉さんの後ろにはビデオカメラやガンマイクを持った人達もいて、結構本格的な取材のようだ。

 そう言えば毎年“迷宮氾濫デスパレード”の放送がされてたっけ。


『みんないいかな?』

『わたしは構いませんよ』

『咲夜も問題ない』

『別にいいんじゃない? でも手短にお願いしましょ。キチンと休憩は取りたいし』

『うん、分かったよ』


 〔絆の指輪〕はこうして内緒話をするのにも適しているので便利だ。


「少しの間でしたら構いませんよ。座りながらでもいいですか?」

「ええ、もちろんです。お疲れのところ申し訳ありませんがよろしくお願いします」


 僕らは椅子に座って飲み物を飲みながら、お姉さんの取材を受けることになった。


「それじゃあ早速ですが、あなた達が冒険者になったのはいつ頃からなのですか?」

「僕は2カ月くらい前ですかね」

「わたしもです」

「私は半年ぐらい前かしら?」

「……咲夜は2年いかないくらい前。ほとんど活動してなかったけど」


 みんなが各々冒険者になった時期を話すと、お姉さんは目を見開いて驚いていた。


「えっ、本当ですか!? 他の方に伺うと、冒険者になって最低でも1年くらいかけて力をつけることで、この“迷宮氾濫デスパレード”にようやく参加できたと言われていたのですが……。優秀なんですね」

「まあ運が良かったんですよ」

「よく見ると3人はあの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を倒されていますね」


 お姉さんが僕らの左手首を一周している入れ墨へと目を向けており、カメラもそこを向いていた。


「やはりユニークスキルですか?」

「あ、すいません。そこはちょっと……」


 2人デメリットスキルだし、乃亜はそのスキル名を放送されるのは絶対嫌だろうからここは言葉を濁そう。


「申し訳ありません。スキルを聞くのはご法度でしたね」


 お姉さんは頭を下げて謝ると、他にもいくつかの質問をしてきた。

 年齢だったり、先ほどの戦闘での役割だったりと色々だ。

 答えられる質問だけ答えていったけど、それなりに時間が経ったのでそろそろお引き取り願いたい。


「もう良かったですか?」

「あ、それでは最後に1つだけよろしいでしょうか?」

「はい、なんでしょうか?」

「ズバリ、あなたと他の女性との関係は? いわゆるハーレム関係なのでしょうか!?」

「ぶっ!」


 人間関係にヒビの入りそうな質問は止めてくれませんかね!?


「はい、わたしがハーレムの1人目です!」

「ちょっ、乃亜!?」


 これ全国放送って聞いてるんだよ!

 外堀から埋めるにしても、その外堀は広すぎないかな!?


「ええっ……。ちょっとふざけて聞いたのにまさか本当にそんな関係だなんて。まだ高校生なのに凄いわね」


 お姉さんが先ほどまでの丁寧な口調が崩れて、完全に素になるほど驚いていた。

 驚くくらいなら聞かないでくれませんかね。


「ちなみにお二人も……?」

「いや、私は違うわよ! 勝手に巻き込まないでくれる!?」


 そう言って逃げられるっていいね!

 実際冬乃とはそんな関係じゃないから当然だろうけど。


「咲夜は……」


 そこで言葉を濁すの止めてくれません?


「最近の高校生は進んでいるんですね。あ、取材の協力ありがとうございました。それでは今日から3日間、“迷宮氾濫デスパレード”頑張ってください」

「弁明する前に取材が終わった!?」


 いや、弁明してると長くなるからしょうがないんだけど、学校のみんなにこの放送が見られると思うと、ホント勘弁してくれと言いたいよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る