第1話 ガチャ廃人


「ねぇ大樹。ここで絶望が身体全体からにじみ出ているのは鹿島蒼汰かしまそうた本人でいいのかい?」

「蒼汰本人でいいぜ。オレが学校に来た時にはすでに机にふせってピクリとも動かなかったがな」


 頭の上で僕について友人2人が話しているようだけど、頭を上げる気力が湧かない。


 中性的であり優しそうな見た目で異様なまでに顔が整っているのが仲野彰人なかのあきひとで、髪を茶髪に染めていて目つきの鋭い野性味のある顔をしているのが森大樹もりだいきだ。


 2人とは高校からの付き合いだけど、僕のバイトが無い日はたいがい一緒に遊ぶほど仲が良い。

 そんな2人だから互いのことは分かり合ってるので、僕の精神状態を鑑みて無理に起こそうとしたりせずにいてくれるのは助かる。今はホントほっといて欲しい……。


「んー、いつもの爆死、にしては横でこれだけうるさくしていても何の反応もないのはおかしいね」

「シクシクシク」

「あっ、泣き出した」

「蒼汰のガチ泣きは15万爆死した時以来だったっけか?」

「確か去年の8月、水着イベントでどのソシャゲのガチャも欲しいの出なかったんじゃなかったかな?」

「それを言わないでええええええ!!!」

「「あっ復活した」」


 あれは僕の中で忘れたい過去の上位を飾る悪夢なんだよ!!


「それでどうしたのかな? 今度は20万ぐらい逝った?」

「それともついに金の使いすぎがバレて1人暮らしを止めさせられる事になったか?」

「2人とも人を何だと思ってるんだよ!?」

「「ガチャ廃人」」

「声そろえて言わないでよ。と言うか僕は廃人じゃないよ」

「「えっ?」」


 彰人と大樹が2人そろって、何を言っているんだという目で見てきているが、こっちこそそう言いたい。


「僕程度が廃人な訳ないじゃないか」

「いや十分廃人じゃねえか。生活費を極限まで削ってその全てをガチャを回すために使っているんだろ?」

「そうだね~。これで廃人じゃなかったら世の中の廃人の大半が普通の人じゃないかな」


 2人とも好き勝手言ってくれる……!


「僕は廃人ビギナーだ」

「今、廃人の後に全く噛み合わない単語が並んだ気がするんだが」

「気のせいじゃないね。ボクにも聞こえたよ。何なんだい、廃人ビギナーって?」

「いいよ説明しようじゃないか。廃人ビギナーは生活費を極限まで抑えて課金する奴のことだよ」

「もうそれ普通に廃人でいいんじゃないかい?」

「よく聞いて。生活費を極限まで抑えての課金額が10万未満の月がある者は全員ビギナーなんだよ」

「それだと年間通して120万未満ならビギナーになるぞ」

「その通りだ。月に10万円ワンコインも出せないやつは総じてビギナーだね」

「おい、こいつ今10万をすごい読み方したぞ」

「相変わらず狂ってるな~」


 何も狂っていないというのに失礼な。


「そして月に10万以上課金できている者がようやく廃人と呼ばれ、年間1000万円以上課金できる者は廃人プロと言える」

「1000万もあるんだったらそれを生活にそのまま当てれば裕福に暮らせるのに」

「だからこその廃人プロだよ」

「こいつ、廃人プロ目指してる目をしてるんだが。将来が不安すぎるぜ」


 その言葉を聞いて、また僕は机に伏せて目からポロポロと涙がこぼれてしまう。


「シクシクシク」

「また泣き出したな」

「情緒不安定すぎて怖いね。ホントどうしたの?」


 ………はぁ。


「廃人プロに、なれなくなった……」

「本当に目指してたぞこいつ」

「お金はもっと大切に使うべきだよ?」

「かける言葉違うでしょ!!」


 金を湯水のように使ってガチャを無限に回し続ける僕の夢が叶えられなくなったんだよ!!


「と言うか廃人プロどうこうはいいとして、結局一体何があったんだい?」

「そうだな。廃人プロになれなくなったじゃ分からないぜ」


 ぐっ、口に出して言いたくもないが説明しないわけにもいかないし、仕方がないか。


「……ユニークスキルが生えた」

「あっ、そっか。昨日蒼汰16歳になったんだっけ」


ダンジョンが現れた辺りから、人は16歳になったら何故かスキルと呼ばれる能力を会得するけれど、その確率は今のところ100人に1人の割合だ。


「マジかよ!!? もしかしてハーレム目指せるのか!? 羨ましいぜ!!」


 ハーレム好きのくそ野郎が人の気も知らないで騒ぎだした。


「いやちょっと待って大樹。スキルが生えただけならこんなにショックを受けている理由が分からないよ。

 なにせユニークスキル持ちは大金を稼げる可能性が高いんだし、それこそ蒼汰の言う廃人プロにだってなれるでしょ」

「お、おう、そうだな。いくらユニークスキルでもダンジョン行って大金を稼ぐとなると強力なスキルじゃないといけないが、ダンジョンに潜らないなら関係ない……まさか、デメリットスキルか?」

「…………………うん」


 ユニークスキルの中でも日常生活に支障をきたすデメリットスキルだと大樹が察して確認してきたので、返事をするのも億劫だったけど絞り出すように返事をした。


 ユニークスキルを会得する確率は100人に1人だけど、デメリットスキルに限ってはそこからさらに100人に1人の確率になる。

 つまり1万人に1人の確率でデメリットスキルを得てしまうことになるけれど、それがなんでよりにもよって僕に当たるんだよ……。


「ちなみにどんなユニークスキルなの?」

「……[無課金]」

「「は?」」

「だから、[無課金]」

「いや、聞き取れなかった訳じゃないんだけど字面から察するにそのスキルはまさか……」

「課金ができなくなるスキルなんだよーーーーー!!!!!」


 僕の生きがいを奪われちゃったぁああああああああ!!!!!!


「これまた聞いたこともないスキルだね」

「あれだ、神があまりの廃課金ぶりに将来を案じてそのスキルを生やしたんじゃねえか?」

「そんな神死んじまえええええええええ!!!」

「神様は正しい選択をしたよ。ぶっちゃけ傍から見てて不安になる課金ぶりだったからね」

「ううぅ……」


 涙がとめどなくあふれて止まらない。

 どうして僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだ……。

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