エピローグ1

 

≪土御門課長SIDE≫


「戻ったさー」


 ユニーク殺しの犯人を捕獲しに行った部下達が戻って来たようだ。

 しかし白石君のあのおかしな喋り方はどうにかならないものかと思うが、本人に直す気がないのだから仕方あるまい。

 まあ彼女はアルバイトだからあまりしつこく言うのもあれだし、パワハラと言われるのも困る。

 魔術師とはいえ、役所勤めだから普通に訴えられてしまうのだよ。


「今回は殺さずに生け捕りにしてきたさね」

「止めなかったら止めを刺してたくせによく言うね」

「ダンジョンの肥やしになるといいさ」

「いくら白石さんの友人が殺されそうになったからといって、ダンジョン内で殺すとリソースが溜まるので止めて欲しいよ」


 どうやら河西班長は白石君を止めてくれたようだ。

 いくらこちらでリソースの回収が出来るとはいえ、完全に回収しきれる訳ではないのだから河西班長の言うことは正しい。


 このビルでダンジョン内の監視をしつつリソースの回収などの通常作業を行っていたら、目を付けていた3人組が白石君の友人達に接触し始めたので、急遽部下を派遣することになった。

 ここ数日リソース回収時にあの3人組の傍で死亡してリソースになるケースが多発した為に、監視を強めた矢先だったからな。


 正直、あの3人組が殺人を犯した証拠があった訳ではなかった。

 いくらダンジョン内を監視できるとはいえ数秒ごとに視点が切り替わるし、我々の部署で監視しているダンジョンも十数か所はあるから決定的な場面を捉える事など稀な為、ダンジョン内で殺人を犯されても気づくことは難しい。

 その為、今回はあの3人組の行動を見てから地上で捕らえるつもりだったのだが、白石君が飛び出してしまったからな……。


 さすがに1人で行かせる訳にもいかず、部下を数人送った訳だが、今回はそれが功を奏したようだ。

 ユニーク持ちが殺されず、犯人も無事確保出来た訳だし。


 正直ただの人間が死のうが構わない訳だが、別に我々は快楽殺人鬼ではないから、しかるべき場所に犯人どもを送るだけだ。


「それよりも課長。1つ問題がありまして……」

「どうした?」


 河西班長がどこか言い辛そうにしながら口を開く。


「人間でも魔術師でも魔物でもない反応が、あの場所に残っていました」

「なに?」

「それに加え、捕らえた3人の内、2人があの少年少女でも我々でもない何者かに倒されたようなのです」

「なんだと! 捕まえた奴らはなんと言っている?」

「まだ目を覚ましておらず、尋問も行えていません」

「ならそいつらが目を覚ましたらすぐにでも情報を引き出せ。最悪壊しても構わん」

「分かりました」


 河西班長は早速捕らえたもの達の所へと向かい、すぐにでも情報が引き出せるよう準備をしに行くが、彼も気が逸っているのか早足で移動していた。


「今まで一切こちらに接触してこなかったのに、何故このタイミングで?」


 が何故接触してきたのかを考えながら、私は通常業務に戻った。



≪彰人SIDE≫


「彰人、どうして人間に手を出した?」

「友人の命が狙われたからですよ」

「ふざけるな! そんな理由で勝手に動いたというのか!」


 はぁ。くだらないな~。

 いつまでもこんな穴倉に閉じこもって外に出てこないくせに、偉そうに上から目線で話してくる。

 いくらボクの何代も前の先祖とはいえ、この人の命令に従う義務なんてないんだけどな。


 自分は魔素の濃いダンジョン内で悠々自適に暮らして、ボクらには魔素の薄い地上で暮らさせているんだからたまったもんじゃないよ。


「過激派に見つかれば、我々は地上で何をさせられるか分かったものじゃない。平穏無事に生きるには奴らに見つかる訳にはいかないんだぞ」

「分かってますよ。だからあなたの指示通り、ダンジョンに行くのは1度だけで止めたじゃないですか」


 本当は大樹と一緒にダンジョン探索をしたかったのに、全く。


「分かってないではないか! 今回で2度目だぞ!」

「はいはい。次はやりませんよ」

「次はないぞ!!」


 ドスドスと床を鳴らしてこの話は終わりだと言わんばかりに去って行ってしまう。


「言いたいことだけ好き勝手言って。本当にくだらない」


 その点、蒼汰は中々面白いことになっていたな。

 いや、まさか赤ちゃんになるだなんて、どんな星の元に生まれたらそんな目に遭うんだい?


「ふふっ。使い魔を通して見ていて、襲われた時はついついダンジョンに向かってしまったけど、ボクが手を貸さなくても何とかなったかな?」


 前に【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】に遭遇して討伐した話を聞いてから、実際に見たかったと思って、また何かあった時のために使い魔を付けていたけど、こんなにもすぐに次の騒動に巻き込まれるだなんて。

 ボクは明日会うであろう友人を思いながら、人間には秘匿されたダンジョンを出て地上へと戻る。


「……ふぅ。ボクの種族がそこまで魔素に頼らない生態で良かった。さすがに地上に戻ると少し息苦しく感じるけど、耐えられないほどではない」


 毎回地上に戻るこの瞬間は嫌になるけど、それも一瞬だけ。

 すぐに慣れていつも通りだ。


「さて、今日の食事でもしないとな」


 どこかに丁度いいのがいればいいんだけど。

 そんな事を思いながら歩いていると、ボクを見て顔を赤らめながら近づいて来る女の子がいた。

 うん、丁度いいから彼女にしようか。


 魔素の代わりに精気で代用できる、だからこそ地上で生活できる。


 だけどインキュバスの特性で女の子がひょいひょい釣れてしまうのだから面白くないね。


 やっぱりギャルゲみたいに、紆余曲折を経て男女の情が深まっていくのが最高だよ。

 ギャルゲは人類が生んだ至高の文化だね。



≪???SIDE≫


「ユニーク狩りの部隊で3人が捕まりました。その内の1人は〔典外回状〕が使えた片瀬美琴です」

「ああ、あの者か」

「いかがいたしましょうか?」

「放っておけ。ユニーク狩りなどただのであって、本来の目的ではないのだから」


 “平穏の翼”を立ち上げた目的は、ユニークスキル持ちを隔離することでも排除することでもない。

 ただそれを主題にした方が、被害者の家族どもの資金の提供も多い上に配下の獲得も容易く、本来の目的の隠れ蓑として抜群の効果を発揮してくれるというだけなのだから。


「まあユニーク持ちが減ってくれた方が目的も達成しやすいが、微々たる誤差だ」

「ですが今回の件であの者達の凶行が公になり、組織としてその活動を縮小せざるを得ないのは避けられません」

「分かっている。組織に所属している者達にはしばらく目立つ行動は控えろと伝達しろ。それと公には、あの3人の独断による暴走だったということで処理するぞ」

「かしこまりました」

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