エピローグ2
≪冬乃SIDE≫
放課後に私と乃亜さん、咲夜さんの3人でファミレスに訪れることになった。
乃亜さんと咲夜さんに半ば強制的に連行されてしまったのよね。
3人共ドリンクバーと適当につまめるものを注文して席でまったりとしているけれど、なんというか不思議な感じね。
いつもならダンジョンに潜るか家に帰るかの2択だったし。
それにファミレスなんて極々たまに夕食で利用するくらいだったから、こんな風に友人とおしゃべりする場として利用するなんて凄く違和感があるわ。
「それにしても先輩が元の姿に戻って良かったですね。……本当に1週間かかりましたけど」
「蒼汰君、大変そうだったね」
「蒼汰が大変だったのは自業自得よ。1週間くらい休んでいればいいのに、スキルの[フレンドガチャ]を回す為のポイント欲しさに、自分から率先して学校に行ったんだもの」
赤ん坊の時でも、精神年齢は高校生だから食事と排泄、あとお風呂くらいしか世話をしなくていいし、夜泣きもしないんだから、私のした苦労なんて大したことはなかったわ。
排泄の時は蒼汰が死んだ目をしていたけど、もしも逆の立場だったら死んだ方がマシだとすら思うでしょうから、気持ちは分かるけど。
裸を見られるのはギリギリ耐えれても、排泄の世話なんてされた日には間違いなく死ねるわ。
「それで冬乃先輩」
「な、何よ……」
乃亜さんが急に神妙な表情をして私を呼ぶから、つい身構えてしまう。
「先輩とはどこまでいきましたか?」
「何言ってるのよ」
深刻そうな雰囲気を醸し出しといて、聞くことがそれなの?
「1週間も先輩と共に暮らしていて何もなかったんですか?」
「別に2人っきりじゃなくて、母や弟達もいたのに何かある訳ないでしょ。そもそも2人っきりだったとしても何も起きないわよ」
「ダウトです! 先輩に惚れているのに何もしないはずありません!」
「べ、別に惚れてなんかいないわよ」
「「ダブルダウト!」」
「2人して声を揃えて言わないでよ!」
私は否定しているのに乃亜さんと咲夜さんは確信を持っているかのよう、いや、もう絶対そうだと言わんばかりの目をしてるのだけど、何故2人はそうだと言い切ってるのよ!
「先輩のお世話を自ら買って出たあたりから疑っていましたが、この1週間で確定していますよ。キリキリ吐いてしまった方が楽になるんじゃないですか?」
「ち、違うわ。私は蒼汰になんて惚れてない……」
「むむ、強情ですね。でしたら咲夜先輩、例のものを」
「了解」
乃亜さんの方が年下なのに、咲夜さんを顎で使ってるわね。
咲夜さんもノリノリで動いているけど、一体何を、って!?
「にゃっ!!?」
「狐ってイヌ科じゃありませんでしたっけ?」
「ちょっと噛んだだけよ! そ、それよりもこれ……!」
「蒼汰君を抱えている冬乃ちゃんの動画」
いつのまに撮ったのかは分からないけど、学校で蒼汰を抱えている姿をスマホで撮影されたみたい。
ただその時の私の尻尾が嬉しそうに横に揺れていて、傍から見ても上機嫌なのが分かるレベル……。
「先輩の傍にいる時の冬乃先輩、だいたいそんな感じでしたよ」
「嘘でしょ!?」
「冬乃ちゃんの内心は周囲にバレバレだった、よ?」
ど、道理で他の男子達が蒼汰に対して厳しい目で見ているはずだわ……。
う、ううぅ。
は、恥ずかしすぎる。
こんな姿を見られていたと思うと、今にも消えてなくなりたくなるくらいよ……。
「さて、という訳でここにいる3人が先輩の事を好きだということですね」
「ち、違うわ!」
「いやもう否定するのとか無理ですから。先輩のハーレムがまた増えたと学校で噂になってるくらいなんですし」
「そんな話、私初耳なんだけど!?」
が、学校中に広まってるの~!
「とにかく先輩の事を好きだという前提で話を進めますが、冬乃先輩はどうしたいですか?」
「な、何をよ?」
「先輩と結婚したいかどうかですが?」
「ちょっ、は、早すぎない? まだ私達学生なのよ?」
「いえ、こういう話は早めにけりを付けないといけません。なにせ冬乃先輩はハーレム否定派でしたよね?」
そう言われて、私は乃亜さんの前でハーレムに対して悪く言っていたのを思い出したわ。
「あ、その、別に乃亜さんの家庭を否定したい訳じゃなくて……」
「分かってます。ただ、今はどう思っていますか?
冬乃先輩が恋愛は男女が1対1で行うべきだとこだわるのであれば、それでも構いません。
ですがその場合は2対1で先輩の奪い合いをすることになるので、その辺はハッキリさせておきたいと思いまして」
「うっ、そうよね……」
正直[天気雨]のスキルが使える様になってしまった時点で認めざるを得ない。
蒼汰のことは好きよ。
口に出して言うのは素直になれなくて無理だけど。
結婚とか考えたこともなかったけど、もしも蒼汰が私以外の誰かと結婚してしまう、って考えるとモヤモヤするわ。
このままだと2対1とか圧倒的に不利だし、自分で言うのも悲しいけど、2人と違って貧相な体つきだし……。
くっ、何故私の胸は成長しないのか……!
「……うぅ」
「冬乃ちゃん、焦らなくていいよ?」
咲夜さんが困っている私を見て、また次の機会に話し合おうとでも言うかのようだけど、これ以上先送りに出来ない問題だし、今ここでちゃんと決めないといけないわ。
そうでないと、蒼汰の事を真剣に好きな2人に失礼だもの。
「……正直、乃亜さんの家庭を見る前だったら間違いなくハーレムを拒絶していたけど、今はそれほど拒否感はないわ。
ただ、今までの価値観をいきなり変えるのは難しくて踏ん切りがつかないのよ……」
「そうですか……」
「ごめんなさい、私――」
私がハーレムにまだ抵抗があると言おうとした時だった。
「じゃあ問題ありませんね」
「えっ?」
乃亜さんが私の発言を遮って、問題ないと言い切ってしまった。
え、私ハーレムに賛成してないのよ?
「冬乃先輩が完全否定でしたらどうしようもありませんでしたが、今後ハーレムの良さを知ってもらえればいいだけの話です」
「いや、ちょ、私がやっぱりハーレムは嫌って言うかもしれないのに?」
「その時はその時です。それに私はこの3人なら先輩と幸せな家庭を築けると思っています」
「え~」
そんな確信されても困るわね。
「それとも冬乃先輩はわたし達と一緒の家庭を築くのは嫌ですか?」
「咲夜は乃亜ちゃんも冬乃ちゃんも好き、だよ?」
2人してそんな真っ直ぐな目でみないでよ……。
「わ、私も別に……嫌ではないわ」
「デレましたか」
「これが、デレ」
「デレてないわよ!!」
2人して好き勝手言ってくれるわね!
「まあ冬乃先輩がいつかハーレム入りしてくれたらわたし達としても嬉しいので、よく考えておいてください」
「わ、分かったわ」
乃亜さんのこうした手回しで蒼汰のハーレムが着実に出来ていくのね。
あ、でも、私はまだハーレムに入るって決めた訳じゃないわよ!
ただ今までみたいによく知りもしないのに否定するのはダメだって思っただけなんだから!
私は誰に言う訳でもないのに、心の中で言い訳をしていた。
≪蒼汰SIDE≫
ようやく元に戻った僕は〔ゴブリンのダンジョン〕へと1人で訪れていた。
今日は女子3人は何やら話し合いがあると言うので、僕は【典正装備】の〔典外回状〕を試すことにしたんだ。
もしも上手くいったら戦力アップにつながるので、3人にもそう伝えたら無理だけはしないよう言われた。
“平穏の翼”の3人に襲われたばかりで大丈夫か心配されたけど、〔ゴブリンのダンジョン〕の1階、しかも出口のすぐそばなら人もそこそこいるので襲われる心配はないので問題ない。
「〔
僕は自身の【典正装備】の名前を呼びながら、右手に出現させる。
名前を呼ぶ必要なんてないし、左手首の入れ墨に触れて取り出す意思を込めるだけで出現してくれるのだけど、今回はあえて名前を呼んだ。
ぶっちゃけた話、戦力アップとか戦闘の手札が増えるとかは二の次だった。
〔典外回状〕の話を聞いた時に思ったんだ。
【典正装備】の能力が拡大解釈された力なら、僕がふと思いついた通りの事が起きる可能性があるんじゃないかと思ったんだ。
もちろん都合よく思った通りの能力にならないどころか、〔典外回状〕を発動できない可能性の方が高いだろう。
「だけど可能性がわずかでもあるのなら、挑戦しないわけがない」
〔
なら、〔典外回状〕は
僕は深呼吸を1度してから、
ガチャを回しすぎて、その為の石が0になってしまった僕のスマホ……。
ああ――
「課金してぇーー!!!」
心の底からの魂の叫び。
周囲の人がギョッとした顔で僕を見ているけど、そんな事はどうでもいい。
僕はただただ課金がしたい、その一点だけ考えていればいいのだから。
だけど〔
しかしそれは当然なのかもしれない。
職員の人は強い感情が引き金になるって言っていたのに、今の僕は【典正装備】なんかの事を気にしている。
〔典外回状〕を発動させたいのに【典正装備】の事を考えないだなんて矛盾しているけれど、そのくらい1つの事を想っていないと強い感情とは言えないんじゃないだろうか。
「これじゃあダメだ。ただ1つの事を考える……。そうだ。あの時の事を思い出すんだ」
そう。
それは春の新学期ガチャ、夏の水着ガチャ、秋のハロウィンガチャ、冬のクリスマスガチャ――
ジューンブライドガチャ、正月ガチャ、バレンタインガチャ、フェス限ガチャ、コラボガチャ、イベントガチャ、ピックアップガチャ……。
あの時もあの時もガチャを回して回して回し続けた。
だけど持っているガチャ石で、目当てのもの全てが手に入った回数なんてごくわずか。
大抵どの時だって、石は枯渇する。
今まで引いてきた数々のガチャ。
あの石の枯渇してしまった時、もしも今の状況だったら?
回したいのに石がない。
石がないのに課金が出来ない。
ああ……、ああああああああああああああ!!!!!!
「課金してえええええええぇーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
せめてあと数回。
いや、10連1回回せれば出るはずなんだ!
「頼むから課金させてくれーーーーーー!!!!!」
課金したいと絶叫していると、ふと頭によぎるのは[無課金]なんてデメリットスキルが身についてしまってから、今まで泣く泣く見送ってきたガチャ。
欲しかったキャラは復刻を待たねばならず、しかし石は溜まる前に次のガチャで消費してしまう。
そう、圧倒的なまでに石が足りない。
この数か月の地獄は絶望させられ、そして実際にあった過去。
妄想でもなんでもない、体験して心をえぐられるほど苦しい日々。
何故僕はガチャを回せない?
何故僕は石を持っていない?
答えは単純。
――課金が出来ないから
「あああああ課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金!!!!」
――ピシッ
右手に握っている〔
「ああ、課金してぇーー!!!」
この願いだけが頭を埋め尽くしていたのだから。
――ピロン 『スキルが一時的に変質し、派生スキルの一部がアップデートされました』
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・あとがき
プロット作り直しをしたりと、色々とグダグダだった3章でしたが最終的に作者的には満足のいくものが出来たと思います。
これも読者の皆様の応援や意見などがあったお陰ですね。
大変ありがとうございました。
蒼汰)「そんな事より早よ次の章いこう!」
作者)『おい、こら。作者の心からの感謝をどうでもいい扱いすんなよ』
蒼汰)「✌(‘ω’✌ )三✌(‘ω’)✌三( ✌’ω’)✌」
作者)『ダメだ、こいつ人の話を聞いてねえ。本編では1度しか使ってない顔文字を駆使して喜びを表現してやがる』
蒼汰)「課金が、ついに課金が出来る!!」
作者)『……こんなにも喜んでるところ見るとなんか悪いな(ぼそっ)』
蒼汰)「えっ!? い、今なんて言いました?」
作者)『あ、聞こえた?』
蒼汰)「悪いな、ってどういう事ですか!?」
作者)『……ごめんな~』
蒼汰)「止めて、謝らないで! 一体何を企んでいるの!?」
作者)『いや大したことじゃないよ、うん。……普通の人にとっては』
蒼汰)「いらない。その最後の一言がいらない!」
作者)『自分が普通の人じゃないって自覚はあるんだな~』
蒼汰)「このままじゃ次の章が始まるまで不安でたまらないよ」
作者)『そうは言われても、作者はネタバレはしない主義だし』
蒼汰)「じゃあせめてヒントをください!」
作者)『ヒントねえ~。……[無課金]なんてスキルをくっつけた作者だよ?』
蒼汰)「えっ……」
作者)『さて、次の章のプロット考えないとなー』
蒼汰)「ま、まさか……」
作者)『あ、気づいた?』
蒼汰)「止めて、それだけは止めて!!」
作者)『そうは言っても今の現状よりはマシじゃない?』
蒼汰)「そうだけどそうじゃないんだよ! もっと別の制限とかでいいから、それだけは勘弁して!」
作者)『嫌です♪』
蒼汰)「うあああーーー!!!」
蒼汰の赤ちゃんから元の姿に戻るまでの話を数話、幕間という形で出すことにしたのはエピローグ前に入れると話がしまらなそうだなと思ったので、そうすることにしました。
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