第28話 どこなんだ、ここ?

 

「ばぶぶ、ばぶ(どこなんだ、ここ)?」


 僕は真っ白で淡い光がキラキラと輝く空間の中、重力なんてないとでもいうかのようにプカプカと浮かんでいた。


 いや、ホントどこここ?

 明らかに夢だと分かる夢から覚めたら、夢よりもファンシーな場所にいるんだけどおかしくない?

 まだ僕は夢の中にいるんだろうか?


 僕は疑問ばかりが頭に浮かんでしまい、全く冷静になれなかったけど、時間が経つにつれて段々と落ち着いてきた。

 そういえば片瀬さんが〔桃源鏡エンドレス デイリー〕を使ったんだっけ。

 しかし〔桃源鏡エンドレス デイリー〕の効果は、対象1人を赤ん坊にするって話だったと思うけど、他にも効果があったってことかな?


 過去に起きた悪夢爆死の出来事を見せられた後に、その悪夢を忘れて幸福神引きを見せられたことを思うと、どんな能力かは分かりやすい。


 幸せな夢を見せて永遠に眠らせる能力ってところかな。

 しかも最初に過去の嫌な出来事をあえて思い出させるというオマケつきで。


 嫌な出来事に向き合わずに幸せな夢を拒絶しなかったら、目を覚ますことが出来ないんだろうけど、嫌な出来事を思い出させるとか、たちが悪いな。

 そんなの見せられた直後に幸せな夢を見せられたら、普通は起きれないだろうね。


 僕もガチャじゃなかったらヤバかった。

 ガチャなら悪夢すら乗り越え…………いや、あの時の出来事はまだ無理だな。

 ううぅ。なんで来てくれなかったの。僕の星5キャラ。

 その後の2カ月間モヤシ生活も辛かった……。


「ばぶ、ばぶばぶあ(いや、泣いてる場合じゃなかった)」


 僕は頬を伝う何かを無視して周囲を確認した。


「ばぶば(やっぱりいるよね)」


 僕がこの空間内にいるのだから、当然近くにいた冬乃達も僕と同じようにプカプカと漂っているし、片瀬さんも僕らと少し離れたところで浮かんでいた。

 ただし僕と違って、全員が目をつぶっている上に、頭の上に白と黒の球体を浮かべていることだ。


 白い球体からは白い煙がゆっくりと頭へと侵食していき、逆に黒い球体は頭から出てくる黒い煙を吸い込んでいる。


「ばぶ(何なんだあれ)?」


 僕の頭上には何もないし、寝ている人にだけ影響を及ぼしているものだろうか?

 そう考えると、おそらくは先ほど見せられた悪夢と幸福の夢を見せる装置みたいなものと推察できる。


 問題はそれをどうすればいいのかなんだけど……。


「あぶぶ(とりあえず起こしてみよう)」


 夢から覚めればあの装置から解放されるかもしれない。

 逆にあの装置から解放されない限り、夢から覚めれない可能性もあるけれど、とりあえず出来ることから試していこう。


 一番近いのは、〔桃源鏡エンドレス デイリー〕の効果を受けた際に僕を抱きかかえていた冬乃だ。

 他の2人は少し離れた位置にいて、片瀬さんが最も遠い位置にいる。


「うぎゅぎゅ!」


 僕はジタバタと短い手足を動かして少しずつ前進する。

 まるで水の中を進むかの様に手足を動かせば前に進むんだけど、水よりも抵抗感があるのか中々前に進まない。

 赤ん坊とはいえ、なんか変な声を出しながらも僕は冬乃に向かって進む。


「だ~(やっとたどり着いた~)」


 2、3メートルほどの距離にだったのに、こんなにも前に進むのが大変だとは思わなかった……。


 いや、そんな事はどうでもいい。

 早く冬乃を起こさないと。


 僕はとりあえず冬乃の顔をペチペチと叩いてみる。

 起きろ~。


「……んっ」


 ダメだ。

 何度もペチペチと叩いているけど、ちょっと反応するだけで目を覚まそうとしない。

 赤ん坊の力じゃ、これ以上強く叩くことも出来ないし、どうしたものか……。


 いや、いくら赤ん坊の力が弱いからといって、これだけ外部から刺激を受け続けても眠り続けるものなんだろうか?

 そう考えると、やはりこっちを何とかするべきなんじゃないか?


 僕は冬乃の頭上にある2つの球へと目を向ける。


 ……触っても大丈夫なんだろうか?

 しかしこのまま何もしなければ3人が自力で起きるのを待つしかないけど、これを放って待つのも危険な気がする。


 なんせよく分からない白いのが入って、黒いのが出ていっているのだ。

 こんなものが体にいいとは思えない。


 僕は意を決して黒い球の方を触れてみた。


 ◆


「どこなんだ、ここ?」


 さっきと同じことを口にした気がするけど、さっきまでいた空間に再び立っている訳ではない。

 何故か僕は、ちょっと古そうな薄暗い和室の中にいて、隣の部屋から漏れる光が部屋を微かに照らしていた。

 どうやら今、というより、この夢は夜の出来事のようだ。

 あ、ついでに元の姿に戻ってるし。


 ここがどこか分からずキョロキョロと周囲を見回してみると、隣の部屋から微かに声が聞こえてきた。


 僕は隣の部屋を覗くため、少しだけ襖を開けてみた。


「あなた、どうして浮気なんか……」

「いや、彼女とはただの友達なんだよ」

「嘘言わないで。この写真に写ってるのはなに?」

「なっ、どうしてそれを……」


 どこからどう見ても修羅場です。

 何で僕はこんな光景を見せられているんだ……。


 ん?

 女の人の方、どこかで見たことあるような…………あっ、千春さん?

 前に会った時よりも若々しくなっているけど間違いない。


 冬乃の母親が泣きそうな表情で椅子に座っていた。

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