第27話 夢
「ば、爆死……」
「5万円分課金しても出ないって、中々に渋いよね」
「このアプリゲーだと天井の設定がないから厳しいんだよな。あと用意してるのは5万なんだよな? それも使っちまうのか?」
大樹が爆死のあまり、床に倒れている僕を見下ろして問いかけてきた。
確かに僕は10万円分用意していた。だけど――
「……違うんだ」
「あん? 何がだ?」
「…………実は他のアプリで天井まで回させられて、既に5万消費してるんだ……」
「あ~つまりもうお金がないってこと?」
「ううううぅ……。嫌だ……。ここまで回したのに1枚も星5キャラが出なかったなんて嫌だ」
僕はこうなったら最終手段に出ることにする。
「今月の食事は1日1食のもやしとパンの耳生活だね」
僕はそう言いながら、さらに生活費を切り詰める覚悟を決めた。
「もう止めたら?」
そう言われて彰人達を見た瞬間、閃きが走る。
あ、この手があるなと気付き、さらなる覚悟を決める。
「大樹、彰人」
「「ん?」」
「お金貸してください!!」
「生活費切り詰めるだけじゃなくて、さらに借金までする気か!?」
「土下座してまで頼むって、よっぽどだよ。いいけど」
「いいのか彰人!?」
「まあ蒼汰なら返してくれるだろうし。1万でいい?」
「……出来れば2万」
「どんだけ借金する気だ」
「大樹はいくら貸せる?」
「オレからもかよ!?」
僕は渋る大樹を何とか説得した結果、2人に2万ずつ借りて合計5万の軍資金を用意することに成功した。
2人には部屋で待ってもらい、ダッシュでコンビニへと行く。
チュンカ売り場へ行くと、僕はチュンカへと手を伸ばし――
何故か手が弾かれる幻想が脳裏によぎった。
「え?」
だけどそんな事はなく、僕はチュンカを手に取れていた。
今の幻想は何だったんだろうか?
意味が分からなくて首を傾げてしまったけど、まあ無事チュンカを手に取れているんだから気にすることないかと、僕はレジへと向かった。
そしてそのまま部屋へと帰宅し――
流れる様に爆死した。
「ガチャ……」
「同情はするが自業自得だぞ」
「ガチャはお金を借りてまでやる事じゃないってことだね」
シクシクシク。
「これほどの地獄がこの世にあっただろうか?」
「本当の地獄はこれからだろ?」
「なんせ1か月は極貧生活が確定しちゃったしね」
これが夢だったらどれだけ良かったか。
僕はそう思いながら目を閉じた。
◆
「おい、蒼汰。急にボーっとしてどうしたんだ?」
目の前に大樹がいて、僕を揺すっていた。
あれ? 何してたんだっけ?
「どうしたんだ蒼汰? あれほど今日のガチャを楽しみにしてたのに」
「あ……、ああそうだった。今日は色んなソシャゲで水着ガチャが来るから、全力でガチャを回そうとしてたんだった。
………なんか凄い悪夢を見てた気がする」
具体的には生活費に加え、人に金を借りてまで回したガチャが爆死したような……。
「大丈夫か蒼汰?」
「ん? ああ、体調は問題ないよ。あれかな? 久々のガチャにワクワクしてるからかな?」
「何言ってるの蒼汰? 先月もガチャをしてたのに、あれはガチャじゃなかったのかい?」
「ガチャは100連超えるくらい回さないとね」
「先月もそれ以上回してなかったか?」
呆れた目で大樹に見られていた。
あれ、そうだったかな?
なんだかここ数カ月満足にガチャを回せてなかったような気が……いや、でも先月もピックアップガチャで180連くらい回したし、そんな訳ないか。
僕はなんだか説明が出来ない違和感を抱えながら、ガチャを回すことにした。
「まあいいや。準備は出来たし早速回そう」
僕はスマホをタップして、10連ガチャを引いた。
「えっ、虹回転!? いきなり来た!!」
「おっ、まじか」
「運がいいね~」
僕は星5確定演出が来た事に狂喜乱舞し、その演出が終わって現れたキャラクターは間違いなく今回僕が欲しいキャラクターだった。
「よし、来た!」
「良かったじゃねえか」
「おめでとー」
2人は僕を祝ってくれたけど、スマホのガチャはそれだけで終わらなかった。
「はあ!? また虹回転!? 嘘でしょ?」
僕は驚いてしまい思考停止してしまったけど、ガチャの演出はその1回では終わらなかった。
「今度は金回転!? あ、礼装……って、これも星5! いや、これどうなってるの!?」
意味が分からなかった。
まるで僕の理想が体現しているかのように、次々と欲しいものがガチャから出て来ていた。
「キャラクターは星5が2体に星4が3体、イベント礼装は星5が1枚に、星4が2枚、星3が2枚……」
「すげえ! 神引きじゃねえか蒼汰」
「うわっ、凄いね。こんなの見たことないよ」
僕だってビックリだ。
欲しいものが次々と出るだなんて思いもよらなかったよ。
「これは流れが来ているのでは?」
「そんだけ出てるのにまだ引くのか」
「ここまで来たら、星5キャラクターを凸らせて最大強化させないと……!」
「いや、星5を5体手に入れないといけないんだよ。そう簡単に出るかな?」
「あと数回引くだけだから!」
そして僕はガチャを回し続けて、理想の神引きをし続けた。
凄い。今回はなんて運がいいんだ。
全ての新しく実装されたキャラクター全てを凸らせた上に、イベント礼装も沢山出たぞ!
あはは。あははははは!!
………。
………………………。
………………………………………。
……つまらない。
こんなのガチャじゃない!
確かに僕の理想を体現していた素晴らしいガチャだった。
だけどこんな何もかもが思い通りのガチャがガチャのはずがない!
ガチャはもっと理不尽で不条理だけど、一筋の希望がチラリと見えるもののはずだ。
絶望がないガチャに達成感はなく、希望ばかりのガチャなんて価値はない。
こんな理想の塊みたいなガチャ、存在してたまるか!
世の中運の良い時もあれば悪い時もあって、どうしようもない
残酷な現実で目を逸らしたくなるほどの苦痛ではあるけれど、その苦痛は乗り越えられる。
そのために、課金はあるのだから。
だからこんなご都合主義な
僕がそれを悟った途端、世界はまるでガラスのように崩れ落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます